綴君はさすがの鈍感

「初めてだよね。由美さんが一人で家に来るのって」


 一先ず中に入って貰らったが、なぜか三和土たたきから由美さんは動かなかった。緊張しているのか、それとも春になって暖かくなったからなのか、由美さんの頬が赤く見える。大丈夫だろうか? と彼女のことを見ると、慌てたように目の前で手を小刻みに振り、捲し立てるように話しだした。


「そそ、そうだね。男の人の家ってほら、一度も上がったこともなかったし、そもそも男友達もいなかったからちょっとその……ごめん、何言ってるんだろう私」

「ようするに、緊張してるってことかな? じゃあ、外にでも行く?」

「それは大丈夫!!」


 あまりの圧に、「そうか」と頷くしかなかった。しかし明らかに顔が赤いので、体調が良くないのかと疑ってしまう。俺は寒がりだから今窓は全部閉めてるけど、少し風通しをよくしたほうがいいかな?


「えっと……取り敢えず上がったら? お茶出すよ」

「あ、うん。ありがとう。いやお構いなく!」


 どっちだ。


 さっきよりも顔が赤くなった気がする。本当に大丈夫か?


 中に入って貰いリビングに通して、適当な場所に座って貰う。由美さんが三人掛けのソファに座るのを確認して、俺は冷蔵庫から麦茶を取り出す。使ってないグラスを二つ出して注ぐ。


「あの、本当にお構いなく……」

「いや、さすがにそう言う訳には」

「それにほら、勝手に押しかけちゃったわけだし」


 麦茶を持って、ガラス張りのテーブルに置く。俺は一人掛けのソファに座って、今更ながらその疑問を口にした。


「そう言えば、なんで今日は家に?」


 由美さんの肩が、ピクリと揺れたように見えた。耳まで真っ赤にして、茹蛸のようになっている。


「えっと……綴君に、会いに……」


 消え入りそうな声でそう言った由美さんは、形見を狭くして縮こまっている。

 俺に会いに?


「えっ? 何で?」

「……まあ、そうだよね」


 あからさまにガッカリされたのはわかった。表情もいくらか暗くなっている。

 俺は何かいけないことを言ってしまったのだろうか?

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