二人の覚悟
結局二人で周ってはいるが、俺はなんとなく楽しむことができなかった。理由も原因もわかってはいる。あんな話を聞かされて、それで今までのように好きでいることは難しい。
いやまあ。好きなんだけど……だからこそ、どうしていいのかわからない。
それほど、俺と彼女の間には溝があるのだ。
「ペンギン可愛いね」
「そうだな」
テレビとかで見る水中トンネルの中で、佐藤はペンギンが泳いでいるのを見入っていた。俺はその背中を見ながら、不甲斐ない自分が情けなくなっていた。
「高橋さんの想いって、その程度なんですか?」
「うおっ! ……田中」
どこで嗅ぎつけたのか。いつの間にか田中が澄ました顔で隣に立っていた。前にいる佐藤は気づいていない。
「男の人の好きの気持ちなんて、その程度なんですね?」
「……お前は知ってるのかよ。あいつの過去」
「もちろん、知っていますよ」
知っていてもなお、田中はああいう態度を取るのか。すげぇなこいつ。本当に佐藤が好きなんだな。
田中の勇ましい表情に、俺は眉根を寄せ俯く。
「正直、どうすればいいのか俺にはわからねぇ。俺が好きだからって、佐藤にとってはその気持ち事態が余計なものかもしれない。あいつはだって……」
あいつはだって、お兄さんのことが、人としても異性としても、好きなんだろうから。
「禁断の恋。という感じでしょうかね?」
茶化すような言い方に、俺は少しだけカチンと来る。
「お前、本人は――」
「わかってますよ」
横を見て見ると、田中もこっちを見ていた。今までにない、真剣な顔で。
「でもだからって。好きでいない理由にはなりませんし、ものにしたいと思わないことでもない」
その言葉に、衝撃を受けた。
そうか……こいつはとっくに、覚悟を決めていたんだ。好きで居続ける覚悟を。
何も準備できてなかったのは、俺の方だ。
「それに、禁断の恋って、私もですし。女が女を好きになるんですよ? 世界一幸せにできる。それくらい思ってないでどうするんです?」
「……やっぱ強いな、お前」
「負けを認めるんですか?」
「バーカ。絶対に譲らねぇ。佐藤を幸せにするのは、俺だよ」
お互いに不敵な笑みを浮かべる。
ようやく俺は、スタートラインに立ったんだ。ここからだ、ここから走っていこう。そうだな、まず最初はこれだな。
「覚悟が決まったところで、お前のアドバンテージを一つ無くすか」
俺の言葉に、田中は疑問の表情をする。俺は余裕を笑みを浮かべると、佐藤の隣に向かった。
「佐藤」
「ん?」
ペンギンに夢中になっていた佐藤は、俺の声で振り返る。俺はそのままの勢いのまま、告げた。
「真澄」
「……えっ?」
「今度からは名前で呼ばせてほしい。別にいいだろ? 俺とお前の仲だ」
後ろから、「んな!」と田中の呻く声が聞こえた。佐藤も珍しく、いつもより目を見開いている。たぶん驚いているんだろう。でも直ぐに、いつもの表情に戻り。少しだけ、本当に少しだけ笑いながら。
「うん。じゃあ私も、弘樹君って呼ぶね」
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