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しかし、あの女、成人にゃ思えなかったけどなぁ。
VRのゲームは多くがアダルト用途を備えているんだ。出会い系はいっそ完全管理が出来るVRの中の方が安全ってことで、推奨されているくらいだ。健全なゲームじゃ過当競争に生き残れないなんていう大人の事情なんかも絡んでいる。人間の欲求などいつの時代も代わり映えしないといういい証拠だよな。
このゲームでも二十歳越えた大人なら装備をすべて脱ぎ捨てて、子供にゃ言えないアレやコレを味わう事ができるんだけど、通常は青少年保護のシステムが完璧に作動してるから未成年はその限りじゃないはず、なんだよな。相手が子供となれば、下心を持った指先は触れることさえ出来ないように作られているはずなんだが。
やっぱ、バグってんのかな。
俺だけって事も考えられる。痛覚関連は完全に麻痺ってるみたいで、痛みはまるで感じないし、本来ならあり得ない動作がアバターに加わっている。触手を伸ばすなんてのもそうだし、分裂するなんてのは他のペットを含めても、初めて聞いた。こんなのバグ以外なわけはない。
だけど、痛みが無いってのはどうなんだ。デスゲームと聞かされてもほとんど恐怖の実感が沸かないし、死ぬ可能性も低いんじゃないかと思うんだ。ゲーム内での死は、漏電以外なら痛覚負荷増大による心因性ショックが圧倒的だからな。けど、もし、バグのせいでコピー意識が独立状態になってるだけだったら? 本体の方はどうなってんのか、今の状態じゃ何も解からない。
ゲームにINしていたプレイヤーが何らかのバグの為にログアウト不能に陥る事がある。それが『サーバー暴走』と呼ばれる現象だ。原因は様々で、一つ一つのケースでも大きく異なり、千差万別とされている。通常、自動的にプログラム修正が行われるところが、AIには手に負えない事態に発展した時に限り、アナウンスが入る。そこで初めて、サーバー暴走と冠されるんだ。
VR空間にコピーの意識が形成されて、本体の俺とは電気信号で繋がっているわけで。現実の脳みそにある意識と、サーバー内に構築されたダミーの意識とがシンクロして、絶えず連動するようになる、それがVR技術なんだ。
本来のコピー意識は独立で思考を展開させる事はないから、こうして俺が思考している限りは、これは本体から逐一で送られてくる電気信号で上書きされたコピー意識って事になる……はず、なんだけど。なんか自信なくなってきたな。
プレイヤーも慣れたもので、暴走中といって、さほど深刻に捉えることはない。厳密には、コピーが閉じ込められてるってだけだからな。閉じ込められたコピーってのも、その一瞬の思考データという限りで、送り込まれる信号が途切れたら、時間停止の状態だ。残像って呼んでるその状態のプレイヤーは、俺も何度か見た事がある。
デスゲームの発生といっても、状態はピンキリだ。デスゲームは機材の故障以外の死因を産むが、その確率はとても低いものだからだ。ゲーム内で死んだ時の強い痛覚刺激が、リアルでの心臓麻痺など思わぬ事故を引き起こす可能性がある、そのくらいの認識しかなかった。
俺みたいに、自身にバグ満載という状態は、聞いたこともないレアケースだ。
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