いつか夢見た時計の理想

重宮汐

第0話:焼け焦げた時計

 子供の頃、テレビアニメの魔法少女が好きだった。



 夢も、勇気も、希望も捨てずに目を輝かせて、どんなネガティブな感情もねじ伏せて。

 敵を改心させ、悪しき心を打ち砕き、友情を語り、恋を叶える。

 それが彼女達の選んだ使命。宿命であり、条件であり、不可抗力。選ばれた力。

 何よりあの子たち(今となっては、魔法少女より私のほうが年上だ。永遠の小中学生は老いという恐怖を知らない)は、"絶対に負けない"のだ。


 絶対に負けない。必ず勝つ。


 まして世界を守る為に自分を犠牲にするのだ。


 世界中の人々から感謝され、自分の人生よりも他人の人生を優先して、幸せで世界を満たしていく――。




 そんな彼女たちを見て、ああ、かっこいい。こんな人になりたい、なんて夢を膨らませたあの時の私は、自分自身に備わっていた絶対的な『正しさ』を振りかざしていた。正義の味方になりきっていた。


「私はみんなとは違くて」


「ちょっとだけ、変わっているから」


「世界を救う魔法の一つや二つ、使えるわ」


 みんなの幸せが、私の幸せだから。


 それをみんながきっと、望んでいるはずだから。




 『芸術的体質アーティステック』と判明してからは、故郷を離れて江古田で過ごす事になったが、私の正義の味方は変わらずだった。それを汲み取ったかのように沢山の『センセイ』に褒められて生活していた。


 君は偉いよ。人を助ける為に生まれてきたんだ。人の為に生きるんだよ。そうすればみんなが幸せに暮らせる。君を、みんなは望んでいるんだ。

『センセイ』の言うことが、心の、躰の隅々まで染み渡る。だから所沢に向かう時も、何の疑いも不安もなかった。






だって私は、人を救う為に生まれてきたのだから。






でも、あのとき。


真っ赤な炎の中で、私は


何一つだって救えない


『ガラクタ』なんだと――思い知らされた。

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