私の愛は浅瀬でじゃぶじゃぶ遊んでいるだけ
ウェルダン穂積
浅瀬からふくらはぎ
昔から歌姫として国民的に愛される歌手である。主に、おじさんやおばさんたちからだけど…。
父も母もその、みるきーの大ファンでミルキストとしてたくさんのグッズやCDが家にある。私の名前もみるきーになぞらえて「
だから私、性格もブラックになっちゃったw。
白馬に乗った王子様なってどこにもいないし、みんなみんなダサいし、ケチだし、女ってもんをバカにしてる。自信たっぷりのどや顔で近づいてくる男も大っ嫌いだったし、自信なさげにびくびくしている男もムカつく。別に高望みしているわけなんかじゃあないわ。ただ、優しくて一緒に笑い、一緒に愛なんかを語ってくれるロマンチックな人がいないかな、って思うだけ。
ある日、母親のCDプレイヤーを持ち出し電車の中で暇つぶしに聞いてみた。中に入っていたCDはやっぱりみるきーだった。うんざりしながらも疲れていたので眼を閉じて聴いていた。
なんなのだろう、この歌は。カルト教の教祖の言葉のような磁力に溢れ、深い深い愛を歌っているように思った。
『愛の見返りなんていらない、始めからなにかを求めて好きになったのではなく、ただ愛せたことが無限の瞬間のように嬉しかった』
私は、今まで信じていた自分の愛を根底から覆された気がした。駆け引きや値踏み、くだらない価値基準で人をただ選ぶ消費活動のような人の愛。
私の愛は、ただ浅瀬でじゃぶじゃぶ遊んでいるだけではないか。それに比べてこの人の愛はどれほどの深度でどれほどのマグニチュードなのだろう。大きく傷つき、大きく生きている。
私だって何度もフラれたことがある。でもそれは何度も何度も脳内で。
焦り…。
人を愛さなきゃ、燃えるような恋をしなければ…。ほら、目の前に優しそうなイケメンがいる。イケメンを見つめる…、…ほら! フラれた…。
「脳内戦績510戦510敗」
あのみるきーはどれだけの恋愛戦争を潜り抜けてきたのだろう?
死んでもいい、死んでもいいから、浅瀬じゃなくて、深いところまで、愛に身を浸してみたい。
「いた、イケメン!!」
深夜のコンビニの店員、無防備! そして誰もいない店内。買い物のついでに、私は、愛情たっぷりあまいあまいミルキーな言葉をしたためた手紙をレジに叩きつけて、逃げた。走って逃げた。
「これで脳内じゃない、戦績1戦0勝1敗…ハァ、ハァ…」
…あ、商品持ってきちゃった。え~と、万引き一回。
「も、戻って返そうかな…」
握りしめたホットカフェオレが掌を熱くした。
ねえ、みるきさんどうしたらいい…
私の愛は浅瀬でじゃぶじゃぶ遊んでいるだけ ウェルダン穂積 @welldoneh
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