お昼の放送はラジオ部におまかせ!
黒猫時計
プロローグ
こぢんまりとした狭い一室。
設置された機材から延びるケーブルには、二つのマイク、そしてウォークマンがつながれている。部屋の中央に、それらを乗せた机を向かい合わせ、茶髪と黒髪の女子生徒が座っていた。
我が部の部長と副部長だ。
僕は携帯のディスプレイを確認する。
待ち受け画面は、午後十二時二十九分五十六秒を、刻んだ!
部屋の隅の机から、僕は二人に向かい、
三、二、一――――指でカウントを取る。
そして、ガムテープで目張りされた、手作り感満載の簡易キューランプのボタンを押した。
開始の合図である黒地に白抜きの『ON AIR』の文字が、赤い発光ダイオードによって浮かび上がる。
すかさず、部長がマイクをオンにした!
タイミングを合わせるように、副部長が手元のウォークマンを操作する。
それに繋がれたスピーカーから、突如として、
――チャンチャンチャン、チャンチャンジャンと軽快なアップテンポの曲が流れ始めた。
「はい! というわけで始まりましたー。『お昼の放送はラジオ部におまかせ!』略しちゃって、『ひるラジ!』のコーナーです」
部長の明るい声に合わせ、副部長は音楽のボリュームを下げながら、それに続く。
「パーソナリティはお馴染み、シズと」
「部長、ひめがお送りしていきまーす」
気持ちのいいくらいに溌剌とした声。いつもとなにも変わらない。幸先不安なんて微塵も感じない。平和が乱されるなんて考えもしない、そんなのん気な声だった。
けれど、それは決まってやってくる。
――ドンドンドン!
やっぱりきた!
突然、僕の背後にある放送室のドアが荒々しく叩かれた。
『ちょっと姫川さん、また放送室占拠して! 約束が違うじゃないの、今すぐ放送をやめなさい、校則違反よ! 毎度のように私の仕事を増やさないでくれる!? お昼食べ損ねちゃうじゃないッ』
放送室の外でぷりぷり怒っているのは、生徒会副会長だ。
放送室のドアの前には、念のために重い箱を置いておいた。向こうからだと押して入るこのドアは、当然のこと開けられない。
そのため、副会長さんは強行突破も出来ずに立ち往生しているのだ。
「はい! 本日もお日柄もよく外野で生徒会がごちてますが、小うるさいびーじーえむとでも思って軽~く聞き流しちゃってくださいねー」
「誰が外野よ! というかそのバリケードを解除しなさい!」
「というわけで皆さん、本日もラジオ放送を楽しんでくださいねー」
「ちょっとーッ!」
そうしていつものように、ラジオ放送は幕を開けた――。
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