第3話
再誕 ③
神話時代の力を取り戻した古代竜との死闘が今、始まった。
通常の空中戦では互いに背後を取り合い、敵の背に攻撃を撃ちこむのが常である。
しかし、今回においては、その常識は全く通用しなかった。
古代龍は大空をあたかも地上を駆けるが如くに進み、縦横無尽にそれでいて不可視の高速にて、ティア達に襲いかかった。
『マニュッ!』
と竜マニマニは叫び、ティアと自分の分身をいくつも作り出した。
それを見て、古代龍は余裕からなのか顔をほころばせた。
《ほう、幼いながら分身の秘術を使うか。惜しい事だ。あと数百も年を重ねれば、我に匹敵しうる力を有したやもしれん。だがッ、ここで散れ!》
最後には-そう冷酷に告げ、古代龍は次々と分身をその爪と尾で斬り裂いていった。
瞬(またた)く間(ま)に分身達はその数を減らしていき、マニマニは『マニュッ』と焦りの声をあげた。
その時だった。
飛翔艇から古代龍にめがけ、砲台が発射されたのだった。
これらのいくつかは古代龍に直撃したが、ほとんど損傷を与える事は出来なかった。
とはいえ、それなりの衝撃は受けたようであり、《こしゃくなッ!》と苛立ちの声をあげ、飛翔艇に向け灼熱のブレスを放った。
その炎のブレスは飛翔艇の左舷に襲いかかり、触れる全てを焼き尽くさんとしていった。
しかし、カシムと茶猫のケシャが、とっさに結界を張り、炎のブレスは勢いを弱めた。
とはいえ、所詮は勢いを殺しただけであり、飛翔艇の至る所より火があがり出した。
それと共に動力系が熱でやられたのか、飛翔艇は高度をさらに落としていくのだった。
『よくもッ!』
と竜ティアは叫び、強大なる炎弾を古代龍に向け放った。
しかし、古代龍が咆哮をあげるや、生じた音波により炎弾は掻き消されていった。
『嘘・・・・・・』
ティアは思わず息をのんだ。
その時、ヴィルはティアの背に触れた。
「ティア、あれをやるぞッ!」
とのヴィルの言葉に、ティアは『分かったわ』と頷くのだった。
それらのやり取りを古代龍は聞いており、『ほう、何を見せてくれるのか?うら若き赤竜よ』と、興味深げに言うのだった。
今、誇り高き古代龍はティア達の実力を認め、好敵手たらんと見なしていた。
それ故、ティアとヴィルによる必殺の一撃を邪魔せずに、真っ向から打ち砕かんとしていたのだ。
《共神(きょうしん)ッ!》
ヴィルとティアの言葉が重なり、二人の波動が共鳴しだした。
今、二つの波動は重なり融合し、新たな波を生み出していった。
そして、ティアとヴィルの前には一つの火球が出現し、一気に放たれた。
しかし、その火球は小さめであり、さらにその速度も遅く、さながら赤児が這うようにヨチヨチと古代龍に向かって進むのだった。
これに対し古代龍は落胆し、怒りの色を見せた。
『何だ、その炎はッ!戦いを愚弄するか、小童(こわっぱ)共(ども)めがッ!』
そう叫び、古代龍は火球に向けて飛翔し、右の爪で斬り裂かんとした。
しかし、火球に爪が触れた瞬間、その炎の内より神話級の灼熱が古代龍めがけ吹き荒れたのだ。
あまりの爆音に、全てが静寂に包まれたかであった。
遠方にて邪竜達は空中に静止し、長(おさ)たる古代龍の安否を案ずるのだった。
それ程までに、生じた爆炎の規模は広大なのであった。
『ガァァァァッァッ!』
との咆哮が爆煙をかき消し、中から古代龍が姿を見せた。
邪竜達は一瞬安堵(あんど)するも、古代龍の右腕が完全に失われている事に気付き、身を震わせるのだった。
『認めよう・・・・・・認めよう。朱(あか)き竜とその契約者なる竜騎兵よ。我は貴様(きさま)等(ら)の力を認め、讃えようぞッ!』
古代龍は今、こみあげる奇妙で爽快な感情のままに叫び、さらに言葉を続けた。
『だが、惜しいかな。その極大にして極小なる火球はその威力に反し、あまりに愚鈍だ。悪いが私にも使命があるのだ。次からは心苦しいが、避けさせてもらうぞ』
そう人間の言葉で古代龍は告げるのだった。
この事からも、古代龍がヴィル達に戦場における敬意を示しているのが覗えた。
『行(ゆ)くぞッ!』
そして、古代龍は魔力を速度に変換させ、先程以上の速度で空を突き進むのだった。
竜マニマニとティアもそれに合わせ、必死に速度を上げて回避行動を行(おこな)うも、それで精一杯であり、攻撃に転ずる事がなかなか出来ないのだった。
『ヴィルッ!私が奴の動きを止めるから、その隙にッ!』
と念話で告げるのは、狂戦士ローだった。
『頼むッ!』
そうヴィルが答えるや、ローは魔刃に渾身のマナを注ぐのであった。
『鳴け、魔刃よッ!』
との言葉を発し、ローは本日2度目となる
その平面にわたる大規模な攻撃は古代龍をとらえ、一瞬、硬直させた。
さらに、マニマニは古代龍に体当たりをして、大量の手で古代龍を掴んだ。
『やれ、ヴィル!私達ごとッ!』
『マニュマニュッ!』
との二人の覚悟に、ティアとヴィルは応(こた)えるのだった。
『オオオオオオッッッ!』
と叫び、ヴィルとティアは《共神》の一撃を放つのだった。
その火球はゆるやかに古代龍へと向かった。
『そこをどけ、この馬鹿者がッ!』
古代龍は必死にマニマニを振りほどこうとして、腕を振り下ろした。
しかし、マニマニは《柔らかい結界》を展開し、それを阻んだ。
とはいえ、次第にマニマニの拘束は解かれようとしていた。
その時、ローは古代龍に跳び移り、古代龍の右眼に魔刃を突き立てた。
『鳴き貫け、魔刃よッ!』
ローは全身の魔力を刃にこめ、究極なる剣技を発動した。
放たれた剣撃は古代龍の眼球から脳内へと入りこみ、その内部を反射しズタズタに斬り裂いていった。
しかし、竜の脳は二重に出来ており、脳の内に《脳核》が存在し、それさえ無事ならば基本、問題は無いのだった。
《脳核》は球体の硬い竜骨に覆われており、ローの一撃もそれを貫く事は出来なかった。
とはいえ脳を破壊され、古代龍は苦悶の声をあげていた。
ただし、魔刃は諸刃の剣(つるぎ)。
魂喰らう呪われし刃を酷使した事により、ローの全身は深く傷つき、血を流しながら力なく天を落ちていった。
『マニッ!』
思わずマニマニは叫び、古代龍を縛る力を緩めてしまった。
その一瞬の隙に、古代龍はマニマニを殴り飛ばした。
結果、マニマニとローは同じ方向に落ちていくのだった。
しかし、まさにその時、必殺の火球が古代龍にチリッと小さな破裂音をたてて、触れた。
『しまッ』
そう言葉を発する事も許さず、神話級の炎は古代龍を焼き尽くすのだった。
だが、それでも古代龍は耐えた。
耐え抜いたのだ。
その半身が消し炭と化す程に傷ついていたが、不屈の闘志で意識を保ち、瞳に強い光をたたえていた。
一方で、ヴィルとティアも二度の《共神》で、肉体と霊体に深い傷を負っていた。
撃ててあと一発。
それがティアとヴィルには分かっていた。
もしかしたら、次を放てば自分達の命は尽きるかもしれないという予感もあった。
しかし、二人は構わずに深く波動を重ねていくのだった。
一方で、飛翔艇の中において、信じられない動きが生じていた。
砲塔には弾では無く別のもの、ダーク・エルフのトゥセ、格闘家のアーゼ、ドワーフのギートの三名がそれぞれ入っていた。
それはさながらに人間砲弾と言えた。
「あ、あの・・・・・・本当によろしいのですか?」
と部下のドワーフがおずおずと尋ねた。
「構わんッ、やれい!」
そうドワーフのギートは砲塔の中から叫び返した。
この命令を聞き、ドワーフ達は発射の準備を進めるのだった。
「おいおい。うちのドワーフは、とんでもない事を考えてくれるぜ」
トゥセは砲口内で、そうぼやくのだった。
「言うな。これしか方法が無いんだから」
そう答えるアーゼに対し、トゥセはため息を吐(つ)いた。
『カシム、結界を俺達の周りにちゃんと張ってあるだろうな?そうじゃなきゃ俺達、点火の爆発で焼け死んじまう』
と、トゥセはカシムに念話を送った。
『任せてください。ケシャと一緒に結界を重ねがけしてますから』
そう答えるカシムの横では、茶猫のケシャが共に結界を構築していた。
「ギート様!いつでも行けますッ!」
との部下の声が響いた。
「よーしッ!発射じゃッ!」
砲塔の中からのギートの命令に、ドワーフ達は『オオオオオッ!』と声をあげ、発射ボタンをポチッと押した。
次の瞬間、足下に爆風が起き、トゥセ達の体を天空に向け-すさまじい速度で放つのだった。
そして、人間砲弾は何とも上手く、古代龍に命中していった。
この時、ギートとアーゼは魔力を前方に展開し、衝突の勢いを利用して古代龍を攻撃したのである。
一方で、トゥセの人間砲弾だけは狙いを外れ、古代龍の足の下を通り過ぎようとしていた。
しかし、トゥセは驚異的な動体視力と勘を発揮し、連結するカードを放ち、古代龍の足に何とか掴まった。
『チクショウッ!こんな事だろうと思ったぜ!』
と、トゥセは古代龍の足にしがみつきながら、叫ぶのだった。
『いいから、やるぞッ!』
このアーゼの言葉と共に、三人は古代龍に攻撃を直接、叩き込んでいく。
それを見て、団長のヴィルは思わず口を開いた。
『お前達ッ、何をやってるんだ!』
すると、すぐさま念話が返ってきた。
『団長!俺達に構わずやっちゃって下さい!』
と、トゥセは声を張り上げた。
『お願いだ、団長!俺達は少しでも団長の役に立ちたいんだ!』
そうアーゼが。
『団長、世界を頼みますぞいッ!』
と、ギートが最後に叫ぶのであった。
彼らの想いを無碍(むげ)にする事は、ヴィルには出来なかった。
『分かった・・・・・・先に向こうで待ってろ』
そうヴィルは告げ、《共神》を開始した。
古代龍は必死にトゥセ達を振り落とそうとするも、トゥセは無数のカードを古代龍を覆うように放ち、それらを基点に束縛の結界を構築した。
これを受け、古代龍は動きを封じられていく。
さらに、ギートとアーゼは全身の筋肉がはち切れんばかりに力をこめ、斧と拳を叩き込んだ。
二つの衝撃を受け、古代龍は動きを硬直させるのであった。
その間に、《共神》の火球は古代龍に迫った。
眼前の火球を見て、古代龍はとっさにその背に第三、第四の翼を生やし、上方に羽ばたいた。
これこそ、古代龍の切り札だった。
ただでさえ小さな火球が下方で、さらに小さく点のようになりながら-さまようのを見て、古代龍は安堵の表情を浮かべた。
しかし、真の恐怖は古代龍の右方から迫っていた。
そこには人の拳ほどの大きさしか無い、非常に小さな火球があった。
だが、それこそが《共神》の火球なのだ。
下の火球は偽物であり、普通の炎に過ぎなかった。
上から迫る、さらに小さな火球こそ《共神》の力を秘めているのだ。
《囮》との言葉が古代龍の脳裏に浮かぶ頃には、神聖なる炎が彼の全身を骨の髄まで焼き尽くさんとするのだった。
極大なる爆発が古代龍を包んだ。
しかし、それは同時にトゥセ達3人をも滅ぼす事を意味していた。
「トゥセ・・・・・・アーゼ・・・・・・ギートッ」
ヴィルは家族とも言える仲間達の名を声を震わせながら口にした。
自身の手で彼らを殺したとなれば、その悲しみもひとしお強かった。
その時であった。
竜ティアの上に、何かが出現した。
歪んだ時空から現れたのは一人の魔導士だった。
その魔導士は何と、爆炎に飲まれたはずのトゥセ達3人を魔法で抱えていた。
彼こそ、サーゲニア皇帝の元親衛隊である異端の魔導士シーレイであった。
かつては敵であった彼が、トゥセ達を助けたのである。
『借りは返したぞ』
そう念話で告げ、シーレイはトゥセ達を竜ティアの上にぞんざいに放り投げた。
ヴィル達は対サーゲニア戦争のおりにエストネア側に付いて戦ったが、少しでもサーゲニアの民間人に被害が出ないようにしたのだ。たとえば、モル=テンやア=シンと幼なじみであるエルフの将軍オーフォンは難攻不落の要塞を落とすため、大河をせき止め一気に堰(せき)を切らせようとした。しかし、それをすれば川下の村や町が濁流に呑み込まれてしまう。ヴィル達は川下の村や町の住民に逃げるように告げ、それが済むまで堰を守ったのだ。これにより数十万もの人々が救われたと言われており、その中にはシーレイの年老いた両親や親族も居た、
その為、ヴィル達は反逆者として一時的に捕まったが、それでも彼らはサーゲニアの民を救ったのだ。それをシーレイは『借り』と言い、トゥセ達3人を救ってくれたのであろう。
「お前達ッ!」
ヴィルは痛む体の中、3人に駆け寄った。
「無事・・・・・・なんだな。良かった。本当に良かった」
そう口にするヴィルの瞳は涙でうるんでいた。
「団長ッ・・・・・・」
トゥセ達3人も感極まり、声を震わした。
そして、彼らはヒシッと抱きしめ合うのだった。
「ありがとう、シーレイ」
ヴィルの心からの感謝の言葉に、シーレイは『フンッ』とそっぽを向くのだった。
シーレイはアルニア民族という少数民族の血をひいていた。このアルニア民族は迫害を受け続け、世界中に離散し、その一部がサーゲニア地方にて移り住んでいた。さて、サーゲニア国は戦闘商人レーシと呼ばれる者達が建国した国家なのだが、それを陰から支えていたのが、世界で最も優秀な商人とも呼ばれるアルニア民族だった。
他にも優秀な商人の民族としてユーシス人があげられるが、三人のユーシス人より一人のアルニア人の方が優秀と言われるほど、アルニア人は優れていた。だが、アルニア人は表に出る事を良しとせず、陰から国を支え影響を与えてきた。表に出ない事、それが迫害されし民族の生き方だった。
とはいえ、一般のアルニア商人はサーゲニア国内で少なからず儲けており、それがサーゲニアの一般国民にとって不満になっていた。
シーレイはアルニアの集落に住んでいたのだが、そこの集落長と仲違いをして、集落に居られなくなり、外の世界に飛びだした。そして、紆余曲折を経て、若く美しく才能あふれるシーレイはサーゲニア皇帝の親衛隊にまで登りつめたのである。
この時、シーレイはアルニア人である事を捨て、サーゲニア皇帝の手足として生きる事を誓ったのだが、彼の心の奥底にはアルニア人の魂、その炎がくすぶっていた。
サーゲニアとエストネアの戦争のおり、戦況の悪化と共に、サーゲニアの貴族達は不満をつのらせていった。そして、その不満は少数民族のアルニア人へと向かったのだ。
貴族達は連日、酒の肴(さかな)にアルニア人の悪口を言い続けた。冗談で、アルニア人の虐殺を肯定する悪口を言った。それをアルニア人である事を隠した従者や官僚達が聞いているとも知らずに。隠れたアルニア人達はその言葉を心の底に刻みつけ、忘れずにいた。
そして、貴族達の一人、彼はアルニア人の商人との取引で失敗し、己の無能さを顧みずにアルニア人を逆恨みしていたのだが、段々とアルニア人を虐殺したい気分になっていた。
この貴族ナタペは、敵国であるエストネアに裏取引を持ちかけた。サーゲニアの難攻不落の要塞を落とす方法を教える代わりに、仮にサーゲニアが敗北しても自分の領土は保たせて欲しいと。それをエルフの将軍オーフォンは聞き遂(と)げ、水攻めの方法を貴族ナタペから教わったのである。
しかし、その難攻不落の要塞周辺にはアルニア人の集落が存在し、水攻めをすれば彼らは濁流に巻きこまれ水死するのは間違いなかった。アルニア人は箱舟により洪水を生き延びた民だと伝説で言われており、貴族ナタペからすると、今度こそ洪水で滅ぼしてやろうという気持ちなのだった。それを貴族ナタペは誰にもしゃべらず、こっそりと実行した。
だが、この計画はオーフォン配下の隠れアルニア人から、ヴィル達、ヒヨコ豆-団の知る所をなった。
ヴィル達はは堰き止められた地点を守り、時間を稼ぎ、さらにドワーフのギートは逃げ遅れたアルニアの人々(老人などはテコでも土地を離れようとしなかった)が収容できるような巨大な舟を即席で作り、老人達はその舟を見て祖先の伝説を思い浮かべ、涙を零しながら祈りと共に舟に乗り込むのだった。
結局、ヴィル達も多勢に無勢で堰(せき)を守りきる限界まで来ていたが、その時、下流の方から一発の花火が上がった。それはドワーフのギートからの合図であり、無事にアルニアの人々を巨大な舟に避難させたとの証であった。そして、堰は切られるも、舟は確かに作動し、濁流と洪水の中を無事に浮上した。それは蘇った伝説の箱舟と言えたかも知れない。
この恩をアルニア人は忘れず、さらにはサーゲニアは自分達の味方にはならぬと悟り、彼らは内乱を引き起こした。さらに、行政機構は停止し、経済もメチャクチャになった。こうして、一つの少数民族の為に、サーゲニアという大国が滅びるのであった。
それをシーレイは思い出し、内心、複雑な気分でもあるのであるが、それでも確かに彼はヒヨコ豆-団に誰よりも感謝しているとも言えた。
その時、下方から竜マニマニと狂戦士ローが飛翔して来た。
二人は海面に激突するギリギリの所で浮上して助かったのである。
『マニちゃん、ローも』
竜ティアは二人に向け叫んだ。
それに対し、マニマニとローは手を大きく振った。
すると、《共神》の爆煙が晴れ、見るも無残な古代龍の姿が現れた。
その体の大半は炭と化し、あちこちからは骨が突き出しており、青い血が至る所から噴き出していた。
しかし、痛ましいその姿であっても、その尊容は未だ失われていなかった。
『見事だ・・・・・・。極大なる力を持ちし竜と竜騎兵よ。そなた等(ら)の名を教えてくれぬか?』
古代龍は口から青い血をあふれさせながら言うのだった。
「俺の名はヴィル・ザ・ハーケンス」
『私の名はティアナトー』
と、それぞれ己(おの)が名を口にした。
『そうか。我が名はグレドロス・エルトシア。そなた等(ら)の名を胸に刻み、冥府へと赴(おもむ)こうぞ』
そう言い残し、古代龍グレドロス・エルトシアは、その身を灰に帰(き)していくのだった。
霧散した後には、古代龍を構成していた金色に光(ひかり)輝(かがや)くマナが、夜の天空に昇っていった。
『古代龍グレドロス・エルトシア。彼は優しい心を有していた気がするわ。私達の2回目の攻撃が、マニちゃん達に当たりそうだった時、マニちゃんを攻撃して遠ざけていたもの。誇り高き古代龍が、幼い竜が死ぬ事を望んでいるはず無いわ』
光(ひかり)散る幻想的な光景の中、竜ティアはヴィルに告げた。
「そうかもしれないな・・・・・・」
ヴィルは強敵であった古代龍を偲(しの)びながら答えるのであった。
その時だった。
天に暗雲が渦巻き、そこより魔王の禍々しい声が響いた。
『下らぬ。情に流され、結果、敗北するとは。その力、返して貰おう』
次の瞬間、古代龍の最期を踏みにじるように、魔王は空中を舞う古代龍のマナを回収した。
今、古代龍の魂とも言えるマナは、無惨にも魔王の化身たる暗雲へと吸い込まれていった。
それを見て、ヴィルは怒り叫んだ。
「アセルミアッッッ!貴様は、貴様だけは許しはしないッ!」
すると、魔王の嘲笑が聞こえた。
『ならば、降り立つが良い。我が天の居城へ。出来るものならばな』
気づけば、魔王城は眼前にそびえていた。
そして、ヴィル達、ロー達と飛翔艇は魔王城に向け突き進むのだった。
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