21gのたましぃ

お風呂上り、火照った身体を冷やすため、実乃里みのりは、洗面所に備え付けの扇風機の前で弱い冷風にあたる。

最近ダイエットを始めてからというものの、少しの運動で汗がどっと溢れて、新陳代謝が良くなった気がする。


そして、恒例の体重測定。


濡れた足を、バスマットから、体重計の上へと乗せる。

実乃里は、恐る恐る目を開き、体重計の目盛りを確認する。


50.021キログラム。


あと、21g減らせば、50キロ切ったのに……。

と、自分の詰めの甘さを後悔する実乃里。


そういや、今日数学の授業で、先生がなにか言っていたな。


───魂にも、重さがある。とか、なんとか。


そうだ。確か、魂の重さは、21gだったはず。

昔、海外のどこかの研究所で、とある実験の最中、

なんでも、ネズミが死んだ時、21gだけ体重が軽くなったんだとか。


つーか、魂って、どうやって取り出すんだろうな。

そもそも、魂ってのは、本来どこに収まっているものなのだろう。


やっぱり、心臓? それとも、頭?



鏡の前に立ち、自分の今のプロポーションを確認する実乃里。

そして、頬をぱん、と両の掌で軽く叩いた。


「たましぃです!

 体重は、一円玉21枚分です!」


…………。


……金で換算するって、なんかいやらしさが匂い立つな……。


「たましぃです!

 体重は、くるみ7個分です!」


…………。


……いやいや、いくら軽いモノに置き換えても、さすがに7個はかさばるぞ。



そういや、魂って、タイムマシーンと語呂が似ているな。



「タイムマシーンです!

 失恋してお菓子をばか食いする直前へとひとっ飛びします!



 ……いい加減にしろ! 過去の私!

 たかが失恋ごときでくよくよしよってからに!

 とりあえず、そのスナックに手を伸ばすいやしい手を引っ込めたまえ!


 イヤや! アタシの傷ついた心は、食べることでしか癒されへんねん!


 あぁそうか! でもな、気持ちが楽になるのは今だけだ!

 キミのその後先考えない浅はかな行動のおかげで、

 今度は未来のキミが苦しむことになるんだぞ?


 未来の……アタシ、が……?


 そうだ。今にこのアゴの下のお肉がぷよぷよになって、

 トドか子供の頃の貴乃花みたくなっちゃうぞ?



 あ゛どねー、ぼくねー、ばばみ゛だいにね゛ぇーづよくてね゛ぇー」



ふと、目盛りが50キロジャストになった。

こんなくだらない茶番劇でも汗をかいたのか、21gもカロリーを消費したらしい。

とにもかくにも、実乃里はガッツポーズをした。



すると、ちょうど脱衣所の前を、母親が通り過ぎる。


「あぁ、そうそう。確か、その体重計。

 バネが壊れてるみたいでバカになってるから、

 ちゃんと計りたいなら、乗る前に5キロほどマイナスの方向に調整し直してね」


「5キロも!?」


その瞬間、実乃里の口から、魂が抜け出てきた。

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