ヒポポタマックス!
まおうのーと
ツートップ
『監督! 次の試合のフォーメーションは、どうされる考えで?』
『次の試合は……、
ツートップ、でいこうと考えている』
とある昼下がり、ピークが過ぎ去り人気の少なくなった校内のカフェテリアで、女子生徒が2人、まったりしていた。
「ねぇねぇ、
「なーにぃ、
いい具合にお腹も膨れて、しばらくすると、うとうとと眠気を感じてしまう。
だから、こうしてひんやりとした机の上に寝そべって、だらだらするのが、彼女らにとって、
「ツートップ、って、なんなん?」
「はぁ?」
「いや、今さっきテレビで言ってたじゃん」
あぁ、うん、そうだね、と適当に
正直言うと、こんなどうでもいいサッカーの記者会見なんかよりも、裏番組が見たい小右。
UFOを頭に
しかし、食堂のテレビのチャンネル権は、2人のような若輩者には永劫回ってこない。ずっと、配膳のおばちゃんのターンである。
「ウチ、サッカーよう知らんし、
小右だったら、知ってるかなーってさ」
「だからって、なんでよりにもよって私にパス出すん?」
「あ、それうまい」
「あんがと」
「んで、結局どーいう意味なワケ?」
小右も、戸松同様、サッカーについては無学である。
分からないからと言って投げ出すのは、簡単だ。
そこを敢えて、何かしら考えて答えに導いてあげるのも、友人としての務め、
「えぇとね、ツートップっていうのはねぇ……」
ウトウトする頭で考えるのは辛いが、なんとか思考をフルに回転させる小右。
「…………
まじで? と、戸松は声には出さず、ぱくぱく、と口元の動きだけで、そう表現した。
「こうやってね、左右に髪の房を分けて、ワックスでバリバリに固めるの。
ムフロンの角、みたいにね!」
自分の髪の毛を手で束ねて、形作って説明する小右。
「ムフロン、が何なのかよく分からないけど……、
とにかくサッカー男子の間で流行ってんのかなー、その髪型」
「多分、相手チームを威嚇するのにも、一役買ってるんじゃないのかな?」
「確かに、強そう(笑)」
でしょー、と、小右も、くすくすと笑う。
「でもさぁ、なにも2つじゃなくて、
3つにしたら、もっとイイと思うんだけど」
どういうこと? と、小右は声には出さず、眉を歪めて表情だけでそう表現した。
「ほら、3つにすればさ、
その真ん中にボール挟めそうじゃない?」
「…………その発想は、なかったわ」
「ねぇ、やばくない? ウチ。
今、ハナホジホジ超えたんじゃない?」
「ちょ…………ッ(笑)、
なによ、ハナホジホジって……ッ!?」
「あれ? 今の日本代表の監督って、そんな名前じゃなかったっけ?」
「私もよく覚えてないけど、
少なくとも、そんなフザけた名前じゃなかったと思う」
そうだっけー、と、自分の頭を指でとんとん、と突いていた戸松。
「ねぇね、小右」
「なに?」
右手で鼻全体を覆い隠すと、その下方の隙間から左手の人差し指を出し入れする動きをする戸松。
「ウチ、今鼻ほじってるか、ほじってないか」
「ちょ、ヤメなよ…………!
田中っち、見てるよ?」
少し離れた席で、田中っち、もとい担任である田中先生が、遅めの昼食の味噌ラーメンを掻き込んでいる真っただ中だった。
「つーかさ、
田中っちの今日のネクタイの柄、サッカーボールっぽくね?」
「っぽい! っぽい!」
イタズラな笑みを浮かべた2人は、少し冷やかしにと、田中のいる席へと近づく。
「ねぇねぇ、田中っちー?
…………いつになったら、だいて、くれるのォ?」
悩まし気な表情を作りながら、戸松は、田中の昼食であるラーメンが乗ったトレイの横に腰かける。
そのまま、田中がラーメンを頬張る手前で、ミニスカートから差し出された、むっちりとした剥き出しの生足を、セクシーに組み替えてみせる。
「…………戸松か。
確か、昨日の放課後も、そんなこと言ってたな。
すっかり忘れてたよ」
そう言うと、田中は、胸ポケットから、あるものを取り出した。
「というか、お前さ。
無くしたから代わりの生徒手帳ください、って素直に言えよな」
「略して、
「ウマイ! 戸松っちゃん!」
「……人が食ってる横で、騒がしくするな。飯がまずくなる」
「だったらぁ……、私をおかずにしても、いいんだよぉ?」
スカートをぱたぱた、とさせて、見えるか見えないかの、人類史上誰も到達することを禁じられた
田中はそれを無視して、調味料入れから酢を取ると、そのまま、だぼだぼ、とラーメンにぶち込む。
「うっわ、ないわー。ラーメンに酢とか」
「バーカ。これで味が引き締まるんだよ」
「ホントにぃ?」
試しに一口、と、戸松は、器の中から1本だけ摘み上げ、そのまま口の中へと放り込む。もきゅもきゅ、と麺をしっかり味わっているのか、割と長い時間を掛けて堪能しているようだった。
すると、戸松が、小右をちょいちょいと手招きする。
「見て」
戸松が口を開き舌を出すと、なんと、麺が団子結びになっているではないか。
「戸松っちゃん、器用ー!」
「お前……食べ物で遊ぶな」
「知ってる? これ出来る人って、キスがウマイんだって」
「そうなの!?」
「ちょっとだけ、田中っちで、試してみよっか?」
戸松は、田中が食事中だろうがお構いなしで、田中の膝の上に向かい合うようにして跨ると、顔の両側を手で包み込み、そのまま唇を重ねようとする。
「やっだ、戸松っちゃんったら、大胆ー!!」
「お前、マジでやったら唇噛み切るからな」
「つれないなぁ。こんなぷるぷるりっぷ、めったにお目に掛かれないってのに」
そう言って、田中の唇に指で触れると、そのままその指を、自分の唇の上へと押しやった。
「ご飯粒、ついてたぞ♥」
「俺が食ってたのは、ラーメンだ」
すると、小右が、突然素っ頓狂な声を上げた。
「ちょっと、戸松っちゃん!
田中っちのネクタイ、よくよく見たら、サッカーボールじゃないよ!?」
「え?」
ネクタイに顔を寄せて、確認する。
……これは、化学式だ。
「化学の担任じゃないくせにー! なにインテリぶってんだよー!」
「どうせ杉原からもらったんだろー!」
杉原先生。この学校に珍しい女性の教師。男子からはマドンナのように持て囃され、女子からはとことん嫌われている。
「わ、悪いかよっ!
ネクタイぐらい、貰ってもいーだろ!?」
そして、田中のこの反応。2人にしてみれば、とても面白くない。
「……そうそう、ちなみに田中っち。
この化学式って、分かるー?」
「あいにくと、化学は守備範囲外だ。
そして、お前らもな」
後半部分をやたら強調して、田中はそう返答した。
「まーたまた、強がっちゃって。
実はここ……、もうはち切れんばかりに大きくなってるんでしょ?」
「おい触るな!
あんまり強く押したら……、ラーメン吐いちまうだろうが!」
小右は、田中の膨れたお腹を、ぎゅうぎゅう、と押していた。
「苦しい? じゃぁ、ベルトを緩めちゃおう」
「お前ら……いい加減にしないと、親呼ぶぞコラ。
お宅の娘さんは、学校でけしからんのです、ってな!」
親の名前を出されて、露骨にイヤな顔をする2人。
そう、何を隠そう、親の頭の中では、2人は学校ではイイ子ちゃんで振る舞っていると思われているからだ。
「そ、それはさておき、
さっきの答え、分かったの?」
「あぁ!?
……だから、化学は俺はてんでダメだって」
「しょうがないから、答え合わせね?」
ネクタイの上から、マジックで『CH1NCO』って書き加える戸松。
「あーーー!
お前……ふざけんな!
よりにもよって、油性ペンで書きやがって……!?
つーか、これなんだ!? 絶対答え違うだろ!」
「フザけてないし!
これ、多分一酸化窒素だもーん」
「本当だろうな?」
「疑うんなら、杉原にでも聞けば?」
ぷいっと、顔を背ける戸松。
ちょうど、その時。
「私が、どうかしたの?」
噂の杉原登場。
「杉原先生っ!
これって、なんて読むー?」
田中のネクタイを引っ掴んで、杉原に見せつける小右。
「え? …………ち○こ?」
「ちょ…………ッ、杉原先生!
食堂でそういうワードはちょっと……」
「あっ! ちょっとやだー!?
これ、この前田中先生にプレゼントしたやつじゃないですかー!」
見るも無残に落書きされたネクタイを手に取って、悲し気な目で眺める杉浦。
「コイツらにやられたんですよ!」
知らぬ存ぜぬフリの2人。
「まったく……ヒドイメスガキどもの担任で、カワイそうですわ。
ねぇ、田中先生?」
よしよし、と、田中の頭を撫でる杉原。
「あらやだ……?
少しなでなでしただけなのに、もうここがこんなに……」
「ち、違うんです!
これはその……さっきコイツらが無理やり」
「やっぱり勃ってたんじゃねーか、田中っち!」
田中の両膝の間に潜り込み、膝まづく杉原。
「こんな情けない姿のままじゃ、午後から教壇には立てませんよね。
私が治めるのをお手伝いして差し上げますわ。
……ちょうど、ベルトも緩んでいることですし♥」
「ちょ………、杉原先生っ!? ここ食堂…………はぅあ♥♥♥!!」
「うっわ、マジかー……。
ここでヤッちゃうんだぁ……」
「これだから、年増ビッチは……。
杉原マジ氏ね」
まだお昼なのに、ピンサロと化した食堂。
そして、憩いの場を追いやられた2人は、そのまま食堂を後にする。
「ねぇねぇ、小右……」
「なに、戸松っちゃん」
「…………ツートップってさぁ、
ひょっとして、びーちくのことじゃないの?」
「…………かもしれない!
ユニフォームで擦れて痛いって、よく聞く話だし!」
「冴えてるね、今日のウチ!
やっぱりハナホジホジ超えちゃったかなぁ!?」
「だから、ハナホジホジって誰だよ(笑)」
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