037.仮初の朝

 また朝がやってきた。仮初の朝だ。

 昔の誰かの歌にあったようにカーテンを身体に巻いてひらひらと踊ってみたくなるような、清らかな朝。ビルとビルの間から昇ってくる太陽に射抜かれる前にカーテンを閉めて逃げ出す。私にはその光を浴びる資格はないから。

 けれど私は格別に汚れているわけではなくて、ただごく平凡に生きているだけで、本当は私にも太陽を拝む資格はあるのかもしれない。そう思うとカーテンを開けてみようかという気持ちになる。でも、結局はいつもと同じ、光ゆく部屋の中で涙を流すだけ。

 私は何故泣いているのだろう? それが分からないから、きっと泣いているのだ。どこからやって来て、どこへ行くのか。そんなことも分からずにたくさんの人と同じように働き、疲れ、眠りに就く。日々は巡っていく。私はいつもひとりぼっち。

 朝は、この仮初の朝はどこへ向かっていくのだろう。私は、私が断罪されることを願いながら、今日もまた歩いていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る