第10話『空想バス』

 これまでも彩花とはお風呂に入ったことはあるし、昨日まで言っていた旅行でも何回も客室のお風呂に入った。

 しかし、体が小さくなったからか、今までで一番緊張している。彩花はこれまでと変わらずに楽しそうだけれど。

 服を脱いでいる彩花を見てみると……普段よりも体が大きく見えるな。まあ、実際に相対的には大きくなっているんだけれども。

「どうしたんですか、私のことをじっと見て」

「……大きいなって」

「あっ、胸のことですか?」

「……それもそうだけど、俺の体が小さくなかったからさ、彩花の体が大きいなって思ったんだよ」

 幼稚園や小学生の時は、中学生や高校生というのはとてもしっかりとした大人のように思えていた。実際にそうなると意外と子供っぽい感じがしたけれど、こうして体が小さくなると彩花達が大人っぽく見えるんだ。

「なるほどです。心は17歳だと分かっているのに、見た目が小さな子供ですから厭らしさが全く感じませんね」

「……そいつはどうも」

 心は17歳のままなので、バスタオルを巻いている彩花を見て緊張しないわけがない。

「さっ、入りましょうか」

「そうだな」

 浴室の中に入ると、渚と咲の後だからかボディーソープの甘い匂いが漂っている。

「さあ、直人先輩。髪と体を洗いますよ」

「こ、子供扱いするなよ。普段通りに接してくれって美緒からも言われていただろ?」

 彩花のご厚意は有り難いけれど、子供の姿になっているからって、何から何までやってもらってはいけないだろう。

「旅行に行ったときも洗ったじゃないですか。それに、小さくなった直人先輩の体に触れてみたいというか……」

「それが本音か……」

 渚と咲が家に来る前に、俺の顔にキスしまくったじゃないか。小さくなった俺を見てさらに気持ちが高ぶったってことか。どれだけ変態なんだよ、俺の彼女は。

「今、先輩……私のことをどれだけ変態なんだって思いましたよね? 自分の体を見て興奮しているからって」

「……すげえな」

「直人先輩の彼女ですから。それに、先輩だってバスタオル姿の私を見て興奮してますよね?」

「……心は17歳だからな」

「……それなら、お互い様です。それに、こうして体が小さくなった状態の直人先輩と一緒にお風呂に入るのはこれっきりかもしれません。先輩の髪と体を洗いたいという私の我が儘を聞いていただけませんか? お願いします」

 ここまで丁寧に言われて、頭を下げられると……断れないな。それに、彩花に髪や体を洗ってもらうこと自体が嫌なわけじゃない。

「分かった。今日は彩花に任せるよ」

「ありがとうございます!」

「でも、その……度を越して変なことをしたらその場で終了だから」

「分かりました。では、まずは髪から」

 そして、俺は彩花に髪を洗ってもらう。2人きりだからいいけれど、今の姿を渚や咲に見られたら凄く恥ずかしいな。洗面所の扉には鍵を掛けているから大丈夫だろう。まあ、緊急事態のために外からでも容易に開けられるようになっているけれど、そんなことをするような非常識な奴らじゃないと思うし。ただ、扉の前で聞き耳を立てて俺と彩花の会話を聞いている可能性はありそうだ。

「髪は元の姿の時とあまり変わりませんね。頭がちょっとちっちゃくなっているなぁ、ってだけで」

「まあ……そうだろうな」

「先輩の髪って小さい頃からサラサラだったんですね」

「……まあ、髪質が変わったなぁとは思ったことはないからな」

「ふふっ。その髪もいつかは無くなっちゃうんですかね」

「……何ていうことを訊いてくるんだ」

 この先、どうなっているかなんてその時になってみないと分からない。できればハゲたくないけれど、ハゲてしまったら受け入れるしかないか。

 でも、幼くなる方向に体が変化して良かったよ。老いる方向に変化して、髪の毛事情を知りたくないから。

「でも、ハゲていたら髪を洗うのは楽そうでいいですね」

「……お前、結構ポジティブだよな」

「だって、私は直人先輩っていう存在が大好きなんですもん」

「……そうか。俺も……彩花っていう存在が大好きだよ」

 まあ、大抵の女性に比べたら嫉妬心や束縛の気持ちがかなり強いけれど。それも今は彼女の個性として受け取っておこう。度が過ぎた行動をしそうになったときは、またそのときに考えればいいか。


「今の言葉、元の姿になったときに聞いたらもっと素敵だったんでしょうね」


 鏡越しで彩花のことを見ると、彼女はうっとりとした表情で俺のことを見つめていた。本当に可愛いな。

「元の体に戻ったら、聞き飽きるくらいに言ってやるよ」

「……ふふっ、そうですか。ただ、飽きないと思いますけど。……そろそろシャンプーの泡を落とすので目を瞑ってくださいね」

 彩花の言うように目を瞑り、シャワーでシャンプーの泡を落としてもらう。あぁ、温かくて気持ちいいな。まだ時間も遅くないのに段々と眠くなってきた。これも体が小さくなった影響なのかな。小さい頃は今よりも早い時間に眠くなったから。

 そして、今度は体を洗ってもらうことに。

「あ~、気持ちいい」

「ふふっ、そういうところは変わらないんですね。それにしても、直人先輩の背中……随分と小さくなりましたね」

「まあ、今まで着ていた服がブカブカになるくらいだからな」

 鏡で自分達のことを見ていると、彩花っていうお姉さんに体を洗ってもらっているように思えてくる。

「彩花、とっても楽しそうだな」

「だって、初めてのことですもん。それに、今夜しかないかもしれないなら、いっその事楽しんだ方がいいのかなって」

「……いい考え方だと思うよ」

 普通ならあり得ない状況になってしまったのはもうしょうがない。だから、いっその事楽しんでしまえばいいのかな。この体に慣れてくればそう考えることもできそうだけど、慣れてしまう前に元の姿に戻りたいのが本音だ。

「ただ、体が小さくなったのでもう終わってしまうのが寂しいです」

「……そればかりは仕方ないよ」

「一度、シャワーで泡を落として2度目っていうのは?」

「遠慮しておくよ。十分に綺麗になった」

「そうですか。じゃあ、シャワーで泡を落として、先輩は湯船に浸かっていてくださいね」

「うん。ありがとね」

 そして、シャワーでボディーソープの泡を落としてもらい、俺は1人で湯船に浸かる。

「おっと」

 前だったら、座ると胸くらいの深さだったのに、今は首まで浸かってしまうのか。ぼうっとして溺れないように気を付けないと。

 髪と体を洗っている彩花の後ろ姿を俺はずっと眺めていたのであった。

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