第8話『見知らぬ女』

 特別課題のプリントの中に、知らない女子生徒の写真があった。黒髪のショートヘアで……結構幼い感じだな。

「この子、雰囲気が香奈ちゃんに似てる。ちっちゃくて可愛らしい感じが」

「……言われてみれば、確かに」

 背も小さくて、中学生だと言われたら信じてしまうくらいだし。ショートヘアの髪型も同じだけれど、香奈さんはこの写真の女子生徒とは違って金髪だ。

「それで、この子……うちの高校の制服を着ているけれど、直人の知り合い?」

「いや、この写真で初めて見る子だよ。ていうか、この写真……今まではなかったのに。課題は全部プリントだから、これまでずっと気付かなかったこともないだろうし」

 この写真……日付が15年前だな。ということは、15年前に月原高校に通っていた生徒ってことか。今は30代前半……か。

「渚は知ってる? この子のこと」

「ううん、私も知らないな。月原高校の生徒みたいだけれど……」

「右下の日付が15年前だ。ということは、この写真に写っている女性は月原高校のOGってことになる」

「そうだね」

 15年前ってことは、この写真に写っている女子生徒のこと知っている教職員が月原高校にいそうだな。うちの高校は私立ということもあって、長く勤めているベテラン教師もいるから。

「直人先輩。広瀬先輩と一緒に確かめましたけど、こっちは全部終わっていましたよ……って、何を見ているんですか? 写真みたいですけど……」

「特別課題のプリントに挟まっていたんだ。今までなかったのに……」

 そして、彩花に写真を渡すと、程なくして写真を持つ手が震え始める。

「直人先輩、この女子生徒……一体誰なんですか?」

「俺が訊きたいくらいだよ」

「本当ですか? ま、まさか……う、浮気相手の写真じゃないですよね? 直人先輩はこういったロリっ娘の方が好みなんですか? だから、体も小さくなったんじゃ?」

「そんなわけないだろ……」

 そもそもどういう理屈なんだよ。

 やっぱり、見知らぬ女子生徒の写真を見せたら、彩花は俺の浮気相手だと勘違いしているよ。

「うわっ!」

 そんなことを考えていると、俺は彩花に押し倒される。


「直人先輩、どういうことなのか……きちんと説明しなさい」


 低い声で彩花はそう言うと、俺の両肩をぎゅっと掴んでくる。ちょっと痛いぞ。そして、恐い。

「その写真は午前中に見たときはなかったんだ。ついさっき、渚と一緒に特別課題が終わっているか確認しているときに初めて見たんだよ」

「……本当ですかぁ? 本当のことを言わないとくすぐりの刑ですよ?」

「写真に写っている彼女のことを知らないのは本当だって。それに、その写真……15年前のものだ」

 というか、くすぐりの刑って。きっと、体が小さいからそういった可愛らしい内容なんだろうけど、元の姿だったらどうなっていたんだろう。

「彩花ちゃん、落ち着いて。さっきも直人は同じように知らないって言っていたけれど、その時も嘘を付いているようには見えなかったから」

 彩花がきつく質問しているように見えたのか、渚がそんなフォローをしてくれる。

「……なるほど。まあ、大人になったこの写真の女性が渡したっていう可能性は捨てきれませんが、渚先輩の証言もありますし直人先輩のことを信じましょう」

「……ありがとう」

 何だか、彩花の恐ろしさに触れてしまったような気がする。過去に手錠で束縛しようとしたこともあるから、こういう風になるかもしれないっていう想像はできていたけれど……実際にそうなると恐いな。説明しろって言われたとき、寒気がしたよ。

「それにしても、この女性は誰なんだろうね。あたしは知らないけれど。宮原さんは知っているの?」

「いえ、私も知りませんね。この写真から読み取れるのは月原高校のOGであることくらいしか……」

 さすがに彩花もこの女性のことは知らないか。

「直人先輩、今夜になってこの写真が課題に紛れ込んでいたんですよね」

「ああ。午前中に課題が終わっているか確認したときはこの写真はなかった。もちろん、今まで見たこともないし、課題はプリントだから今まで気付かなかったっていうことはないと思ってる」

「……そうですか。ということはもしかしたら、直人先輩の体が小さくなってしまったことに関係しているかもしれませんね」

「彩花もそう考えていたか」

 さすがは彩花だ。まあ、旅行中に入れ替わりっていう不思議な出来事を体験したから、こういう風に考えることができるんだろう。

「じゃあ、私が先輩から話された課題の呪いに出てくる女の子って……まさかこの女性のことなの?」

「えええっ……」

 渚と咲は顔色が悪くなって、ぎゅっと抱きしめ合っている。渚もこういった類の話は苦手だったのか。それなのに、よく課題の呪いのことを話してくれたな。

「体が小さくなったのが課題の呪いなのかは分からない。この写真の子が課題の呪いの張本人かも分からない。でも、彩花がさっき言ったように、この写真に写っている女性が俺の体が小さくなったことに関わっている可能性はとても高いと思う」

 まあ、体を小さくさせるなんてこと、普通の人間にはできないだろうから、この写真に写っている女性が既に亡くなっていて、幽霊になっている可能性は非常に高いと思う。そう考えれば、課題の呪いの張本人がこの写真の女性である可能性もあるな。

「とりあえず、今日はもう夜だし……明日、この写真の女性について訊くために月原高校に行こう」

「そうですね」

 ということは、今夜は体が小さいままで過ごすことになるのか。今のところ、生活をすることに支障はないけれど……早く元の体に戻りたいなぁ。

「えっと……このことは俺と彩花で解決できるかもしれないし、課題が終わったから2人は家に帰るか?」

『いやだっ!』

 渚と咲の声が見事にシンクロしたぞ。


「だって、もう暗くなってるし……私、1人で帰るのは嫌だよ!」

「今回のことが解決できるまで安心できない! あたし、1人じゃ眠れない!」


 ここまではっきりと言うなんて、凄く苦手なんだな。幽霊とか呪いの話を訊くと、暗いのが嫌になったり、1人で眠れなくなったりするよな。

「……どうする、彩花。2人とも帰る気配がなさそうだけど」

「……仕方ありませんね。渚先輩と広瀬先輩、とりあえず今日はうちに泊まっていいですよ。もちろん、直人先輩に変なことをするのは禁止という条件で」

「ありがとう! 彩花ちゃん!」

「このご恩は何かしらの形で絶対に返すわ! 宮原さん!」

 2人とも、彩花にお礼を言っているけれど……ここは俺の家でもあるんだから、俺にも感謝の言葉を言ってほしいな。まあ、彩花の許可がなければ泊まれないって分かっているからこそ彩花にお礼を言っているんだろうけど。

「ただ、服や寝間着や下着は私に合ったものしかもちろんないですから、そのことについての文句は言わないでくださいね」

「もちろんだよ、彩花ちゃん」

「着るものがあるなんてむしろ有り難いくらいだわ」

「……Tシャツやズボンでいいなら、俺のを着てもいいよ」

 俺は体が小さいから着る服も限られるし。2人は彩花よりも背が高いから、彩花の服が着られないかもしれない。

「直人、今夜はよろしくね」

「小さくなった直人と同じ場所で夜を明かす日が来るなんてね。あたし、今まで想像したことしなかったよ」

 俺だって体が小さくなるときが来るなんて想像したことないけどな。

 というか、渚と咲が泊まるんだったら、女子と男子で別れて寝た方がいいんじゃないかなぁ。俺、別に心霊系はあまり苦手じゃないから1人でも眠れるし。

「2人とも、さっき私が言ったことを覚えていますか?」

『直人に変なことはしない』

「……よろしいです。さてと、まずは夜ご飯ですね」

 彩花、今の2人を見て俺に変なことをすると思ったんだ。

 2人のことを信用していないわけじゃないけれど、今夜は体が小さくなったことを理由になるべく彩花の側にいた方がいいだろうな。

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