第25話『合流』

 相良さんから20年前の事件、そしてこの20年間の話を一通り聞き終わったとき、彩花達がやってきたのだ。


「彩花、それに絢さん達も……」


 俺達と同じように、20年前の事件を知っているホテルの従業員に話を聞こうとしているのかな。


「自殺した女の子が斑目高校の生徒であることが分かったので、斑目高校というキーワードを中心に4人でネットとSNSを浸かって調べていたんですよ、先輩」

「そうだったのか……」


 俺と遥香さんは20年前の事件をキーワードにしてネットで調べていた。だからなのか、詳しい情報は見つからなかったけど、斑目高校というキーワードから調べていく方法があったのか。それにSNSなら、当時のことを知る人が事件について何か発信しているかもしれないし。


「Twitterで当時の事件について呟いているアカウントがあったから、心霊系好きを装って私が事件のことを呟くアカウントに色々と訊いたんだよ。まあ、彩花ちゃんや奈央さんと一緒にお返しのツイートを考えたんだけどね」

「そうだったんだ、絢ちゃん……」


 事件のことを呟いているアカウントがあったのか。まあ、20年前の事件について記事にしているブログもあるくらいだから、Twitterに20年前の事件に関する呟きがあっても不思議ではないか。現在も、夏を中心にこのホテル周辺では心霊写真が撮影されるから。


「そのアカウントは、20年前に自殺した少女の同級生だそうです。絢さん達3人はTwitterでその人と話して、そこから得られた情報を俺がまとめ、気になった情報は俺のタブレットを使ってさらに調べるという方法を取ったんですよ」

「そうだったんですか……」

「もちろん、自殺した少女の他にも、一緒に旅行に来た女の子の名前についても調べるつもりでしたから、メッセージ機能を使ってやり取りをしました。そうしたら、自殺した少女の名前は水代円加さん。当時高校1年生。そして、一緒に来ていたクラスメイト女の子の名前は相良悠子さんであることが分かったんです。水代さんが受けていたいじめについても、絢さん達が話した相手がいじめっ子の1人と思えるくらいに、詳細に話してくれました」

「……2人の名前は合っています。そして、その人から聞いた水代さんの受けたいじめの話も、おそらく合っているんじゃないでしょうか」


 今の話を聞くと、彩花達4人に対して申し訳ない気分になってきた。こっちなんて、早々にホテルの人に聞き込み調査をしようと決めて、ホテル近くのおそば屋さんでゆっくりと昼食を取っていたから。


「そうですか。それらの情報を確認するために、当時のことを知っているホテルの従業員に話を訊こうと思いここにやってきたんです。まあ、その前にホテルの中にある中華屋さんで昼食を取ったんですけど」

「なるほど。俺と遥香さんは……早々にネットででの調査を切り上げて、近くのお蕎麦屋さんに行って昼食を食べていました」

「ははっ、そうですか」


 良かった、みんな怒ってなさそうだ。食事をしてからホテルの従業員に話を訊くという流れが同じだからか。

 ホテルの中に中華屋さんがあったのか。彩花は……お腹の調子は大丈夫なのかな。中華料理は胃や腸にも結構来るから。さっき、お昼前にLINEで訊いたら段々と良くなってきたとは言っていたけど。


「へえ、遥香さんと2人きりでお昼ご飯を食べたんですか、先輩。元の体に戻ったら2人きりでご飯を食べましょうね。約束ですよ」

「分かったよ、彩花」


 彩花、不機嫌そうな表情をして頬を膨らませている。

 これは……食事以外にも遥香さんと2人きりでしたことを、自分にもしてほしいと言ってきそうだな。そう思っても仕方のないことだし、元の体に戻ったら存分に甘えさせると決めているから……覚悟しておこう。


「遥香はおそば屋さんで何を食べたの?」

「温かい鶏南蛮そばだよ。途中、直人さんが食べていたせいろそばを一口もらったの」

「へえ、そうなんだ。というか、藍沢さんにも一口交換したんだね。……遥香がご迷惑をおかけしました」

「いえいえ」


 どうやら、絢さんは遥香さんが俺と2人きりで食事をしたことについて、何とも思っていなさそうだ。遥香さんと一口交換をしたからかもしれない。今の様子では、絢さんにも普段から一口交換をしているのか。


「羨ましいなぁ、遥香さん。直人先輩と一口交換だなんて……」

「ごめんなさい、いつもの癖で。彩花さんの体の影響からなのか、つい直人さんに甘えてしまいました」

「……元の体に戻ったら、一口交換を自然に行なう術を教えてください」

「いいですよ」


 遥香さんはそう言うけど、あのときは普通に「せいろそばってどんな感じなんですか?」と言われただけ。それって、自然と一口交換するための作戦だったの?

 彩花、入れ替わりの影響で遥香さんに嫉妬しているかと思いきや、意外と意気投合していい友人関係を築けるかもしれないな。入れ替わった者同士にしか分からないこともあるだろうし、ある意味で特別な関係になるかも。


「藍沢様、失礼ですが……この方達は?」

「俺の知り合いです。彼等も昨日からこのホテルに宿泊しています。そして、この茶髪のショートヘアの女の子こそ、坂井遥香さんの元の体なんです」

「そうなんですか。つまり、今、坂井様の体の中に入っている女性が、藍沢様とお付き合いされている宮原様、ということですか」

「そういうことです」


 良かった。相良さん、すぐに今の状況を汲み取ってくれた。


「そして、この女性がこのホテルの総支配人である相良悠子さんです」

「初めまして、相良悠子と申します」

「遥香さんの体に入っている宮原彩花です」

「原田絢です」

「坂井隼人です」

「香川奈央です」


 1人だけ耳を疑ってしまうような自己紹介をした人がいたけど、体が入れ替わってしまったのは事実だからな。もちろん、相良さんは事情が分かっているので大丈夫。


「皆様の今の話を聞いていましたが、大体の内容は合っております。20年前、このホテルで私の恋人である水代円加が投身自殺をしました。彼女は同性愛を口実に中学時代からいじめを受けていました。そして自殺当日、私と円加がこのホテルの前にある海岸で一緒に遊んでいるところを、円加をいじめていた生徒の一人に見られてしまったのです。それをきっかけに私が円加を振ってしまい……おそらく、そのショックで円加は投身自殺をしたのだと思います」

「そうですか……」


 やっぱり、女性である遥香さんと付き合っているからか、絢さんが一番悲しそうな様子を見せているな。


「自殺直後から、夏を中心に心霊写真が撮影されるようになりました。おそらく、円加の霊だと思っています。また、このホテルの名前を10年前に今のアクアサンシャインリゾートホテルに変えたのは私なんです。あの出来事を機に業績が悪化していましたからね」

「そうだったんですか。今はとても人気のホテルですよね」

「ありがとうございます。申し訳ありませんが、私、この後すぐに予定が入っていますのでこれで失礼いたします」

「お忙しい中、ありがとうございました。俺や遥香さんが一通り話を聞きましたので、俺達の方から話します」

「分かりました。また、何か訊きたいことがございましたら……ここに書いてある番号にお願いいたします。午後3時以降であれば大丈夫だと思います」


 相良さんはそう言うと、俺達に名刺を渡してきた。父親以外で名刺をもらうのは初めてのことだ。『アクアサンシャインリゾートホテル 総支配人 相良悠子』か。こうして文字で見ると、より相良さんの凄さが分かるというか。


「それでは、失礼いたします」


 相良さんは一礼すると、ゆっくりと俺達の元から立ち去っていくのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る