第41話『青空ノムコウ』

 午後4時半。

 ついさっき、楓ちゃんから電話があって、もうすぐ月原駅に到着するとのこと。

 私と美月ちゃんは月原駅に向かい、改札口の前で楓ちゃんのことを待つ。

 また、ひかりさんのおかげで担当の先生から外出の許可が降りたので、明日、なおくんと一緒に決勝戦の観戦に行くことになった。


「良かったね、美緒ちゃん。お兄ちゃんと一緒に応援することができて」

「うん。応援できるなら、なおくんと一緒に応援したいってずっと思ってたから」


 それに、なおくんと一緒に出かけることが久しぶりだから楽しみだったりする。ルピナスの花畑以来かな。


「そういえば、楓さんってどういう方なの? 前にお兄ちゃんが倒れて入院したときに、病院で会ったことはあるんだけれど。あまり話したことがないから、どういう方なのかあまり分からないんだよね」


 なおくんや私達が中学時代のときも、美月ちゃんと楓ちゃんは会ったことはないのか。私の家で遊んだことはあったけれど。彼女と一緒になおくんの家に行った記憶もないし。


「ええとね……典型的な委員長タイプかな。とても真面目で責任感があって。クールな感じだけれど、結構熱い性格なんだよね」

「へえ、そうなんだ」

「ふふっ。親友の試合を応援するために、特急列車に2時間以上乗ってまでも来るくらいなんだから、友達想いの子でもあるかな」

「素敵な方なんだね」

「そうだよ」


 付き合いは長いけれど、未だに意外だなと思うことがあるし。今、美月ちゃんに言ったことだってそう。咲ちゃんとそこまで親交があるとは思わなかったし、こっちまで応援しに来るとも思わなかった。


「美緒! 美月ちゃん!」


 すると、改札の向こう側から私の名前を呼ぶ声が。その声はもちろん楓ちゃんのものだった。パンツルックの楓ちゃんが私達の方に手を振っている。


「楓ちゃん、久しぶり」

「お久しぶりです、楓さん」

「2人とも久しぶり。洲崎にいるときはこういう休みでも2、3日に一回は会ってたから。10日以上も会わないと本当に久しぶりって感じね」

「そうだね。懐かしい気分になるね」

「それにしても、前も思ったけれど月原って洲崎よりも暑いのね。建物ばっかりだから? ヒートアイランド現象ってまさにこのことを言うのね」


 楓ちゃんは汗を流しながらそんなことを言った。

 確かに月原は洲崎よりも暑い。けれど、この暑さに慣れた私はきっと、洲崎に戻ったら涼しいと感じるんだと思う。


「咲とは金崎駅で待ち合わせするんだけど、その前に美緒と話しておきたくて」

「そうだったんだ」

「まあ、さっきの電話で言うべきことは言っちゃったから、実際にここで話すことはあまりないんだけどね」

「唯ちゃんのことだよね」

「ええ。剣道部繋がりで当時の教員や部員に話を聞きに回ったんだけれど、手に入れられた情報は柴崎さんが直人のことが相当好きだったってことくらい。それが分かるものは何も遺されていなかった」

「そうだったんだ……」


 それでも、唯ちゃんがなおくんのことを相当好きであり、フラれたとしても決して諦めずに前向きだったという証言が手に入れられたのは大きい。


「ところで、藍沢君はどんな様子? 彼のところにお見舞いに行ったんでしょう?」

「私が月原に来たときよりも元気になってるよ。明日の試合も会場に行って見に行くことになったよ。まあ、色々あったんだけれどね……」

「藍沢君が再入院してからも何かあったの?」

「お兄ちゃんと同じ高校に通う女性が入院していて、その方は心臓の病気を患っていまして。その方のおかげで、紅林さんっていう女の子とも和解できたんですけどね。でも、その方がお兄ちゃんの目の前で急変してしまいまして。手術して助かったから良かったんですけど……」

「……そう。それは大変だったわね」


 楓ちゃんは苦笑いをしている。

 ただ、御子柴さんのおかげで、なおくんはここまで元気になったんだと思う。そこが悔しくもあり、嬉しい。紅林さんと和解できたのも彼女のおかげと言って過言ではないし。彼女がいなかったら、なおくんと一緒に観戦するのは無理だったかもしれない。


「柴崎さんのことも、美緒達のことも周りの人に協力をしてもらいながら、解決できるといいわね。ううん、きっと解決しないといけないんだと思うわ」

「さっき……電話で言ってた、神様からの試練?」

「うん。遺された人間がどうやって乗り越えていくか。美緒達に対する藍沢君の判断こそ、その試練を乗り越えるたった一つの術なんじゃないかって思ってる。これは藍沢君だけのことじゃなくて、柴崎さんに関わった全ての人が向き合うことだと思う」


 真剣な表情をして、楓ちゃんはそう言った。

 思い返せば、唯ちゃんが亡くなってから色々なことがあった。あの事件には笠間君が関わっていて。なおくんは執拗なバッシングを受けて。実は多くの人々が絡んでいることなんだと思う。


「柴崎さんの死をどう受け入れて、そして、美緒達へどんな判断を下すか。その瞬間に彼はきっと前に進めると思うわ」

「なおくんは今でも悩んでいると思う。多分、今は決断を下すかどうかってところの段階で。きっと、明日の決勝戦もそのヒントを探すために観戦すると思うの」

「それでもいいじゃない。スポーツを観戦して、頑張っている選手を観て元気が出たり、勇気をもらったりするのはよくあることだから」

「……そうだね」


 明日の試合を観戦することで、なおくんに何かいい影響があればいいんだれど。


「さてと、私はそろそろ金崎の方に行こうかしら」

「もうちょっと話したいけれど、咲ちゃんを待たしちゃったらまずいよね」

「ごめんね。また明日、ゆっくり話しましょう」

「うん」

「美月ちゃんもまた明日ね」

「はい」

「……さてと、今夜は咲に藍沢君と付き合っているときの話でも聞こうっと」


 楓ちゃん、意外と恋バナに興味があるんだ。中学の修学旅行でも、そんな話はせずにさっさと寝るタイプだったのに。


「そんなことしたら、明日の試合に響いちゃうんじゃない?」


 寝不足で。


「確かに、話が盛り上がりすぎて寝不足になったらまずいか。金崎高校が負けたら嫌だし。じゃあ、明日の決勝戦が終わったら夜通しで聞いてみることにする」

「是非、そうしてあげて」


 まったく、咲ちゃんが心配になっちゃうよ。

 楓ちゃんは再び改札口に入っていき、金崎方面に向かう電車が止まるホームの方へと向かっていった。

「何だか、美緒ちゃんの話とは違って面白い人だね」

「私も最近になって意外だなって思うことが多いよ」

「そっか……」

 なおくんのことが好きだったりして。意外だなって思うことが多くなったのはゴールデンウィークになおくんが洲崎に帰ったときぐらいからだし。


「さあ、私達も帰ろうか」

「そうだね」

「途中で何か冷たい物でも買って帰ろうか」

「うん、ありがとう! 美緒ちゃん」

「もう、お礼を言われたら買わざるを得なくなっちゃうよ」


 そういえば、なおくんはよく美月ちゃんに物を買ってあげたりしてたな。なおくん、美月ちゃんには甘いところがあるし。

 それにしても、月原市は夕方になっても暑いなぁ。雲のほとんどない青空だからかな。


「どこかで、唯ちゃんは見守ってくれているのかなぁ……」


 青空の向こうで、唯ちゃんが私達のことを。そうだったら嬉しいな。

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