第36話『好敵手を知る-金崎・前編-』

 彩花ちゃんや渚ちゃんと合流した私達は、なおくんに月原高校の勝利を報告した。電話をかけた渚ちゃんや途中から変わった咲ちゃん曰く、勝ったことを聞いたなおくんは喜んでいたみたい。

 金崎高校の試合会場は月原高校が試合した会場とは異なる。なので、途中で昼食を食べて会場へと向かった。食事をする直前になおくんから電話がかかってきて、御子柴さんの意識を取り戻し、彼女も応援していることを聞いた。



 午後3時。

 私達は金崎高校の試合会場に到着する。


「じゃあ、あたしは女バスの方に行くから」

「分かった。試合頑張ってね、咲ちゃん」

「ありがとう、咲」

「金崎高校の試合、じっくりと見させてもらうよ」

「あのときとは違うチームだと思えるような試合をしてくる」

「楽しみにしてるよ」

「その笑顔がいつまで続くかしらね。試合が始まったら驚くことになるでしょうね」


 それって、さっきの咲ちゃんだった気がするんだけれど。最初こそは冷静だったけれど、結構驚いた様子を見せるときもあったし。月原と当たりたくないとも言っていたし。


「あははっ、ますます楽しみになった」


 余裕だからなのか、それとも強がりなのか、はたまた言葉通りの意味なのか、渚ちゃんは爽やかな笑みを浮かべながらそう言った。


「じゃあ、また後でね」


 そう言って、咲ちゃんは金崎高校の女バスの方へと向かっていった。


「ごめんね、渚ちゃん」

「別にかまわないよ。勝負師として強い気持ちでいることは大切だと思うし」

「そういう渚ちゃんは結構余裕があるように見えるけれど」

「そんなことないよ。金崎高校は一番の強敵だと思っているし。でも、予選で負けた経験をしているから、そこで見つかった課題をクリアしていって、今日からの試合を観られるだけ観ていって対策を練ればいいだけのことだよ」

「おおっ……」


 そういうことをさらりと言えるのが凄いと思う。本人はそんなことないって言っているけれど、私は余裕があるように見えて仕方がない。


「予選のときは渚先輩が病み上がりだったのもありましたもんね」

「うん。あのときに比べたら、今回の方がよっぽど体が軽かったよ」


 そういえば、咲ちゃん……言っていたな。予選のときは渚ちゃんが病み上がりだったから勝てたんだって。今のところ、気持ちの面では咲ちゃんよりも渚ちゃんの方が勝ちそうな感じ。


『うおおおっ!』


 さすがはインターハイ。この会場も試合でかなり盛り上がっているみたい。


「前の試合が結構盛り上がっているみたいだね」

「試合が終わらないと席は取れないかな」

「まあ、その方が賢明だね。あと小一時間もすれば終わると思うし、それまではフロントで待とうか。ここだと暑いし」

「そうですね」


 私達は金崎高校の1つ前の試合が終わるまで、フロントで冷たい飲み物を飲みながら待つことに。


「そういえば、広瀬さんは私達の試合を観て何か言ってた?」

「予選で試合をしたときよりも強くなってるって。渚ちゃん、桐明さん、すずちゃんのことをとても褒めてた。特に渚ちゃんはさっき言ったように、病み上がりだった予選とは違って本調子のプレーだから」

「まあ、予想していた感じかな。チームワークを大切にしつつ、もっと個を強くしていくことを重点に練習してきたから。1年生のメンバーには、香奈ちゃんとすずちゃんを中心に教えていたからね」

「そっか。その2人の1年生のスタイルも見抜いていたね」

「まあ、バスケをある程度やっていれば、一つ試合を観れば彼女達の基本スタイルは分かるんじゃないかな」

「桐明さんはガンガンスタイル、すずさんはフェイクスタイルと広瀬さんは言っていましたよ!」


 美月ちゃんが言ったことに、渚ちゃんはクスッと笑う。


「ガンガンスタイルにフェイクスタイルか。まあ、確かにそうだね。香奈ちゃんは彼女の体格を活かしたスタイルで、すずちゃんは冷静な子だからフェイクで相手を切り抜くことが得意だからね。広瀬さんの推理は合っているよ」

「ここまで広瀬先輩に読まれているなら、何か対策を考えた方がいいのでしょうか」

「彩花ちゃんの気持ちも分かるけれど、基本的には今のままでいいんじゃないかな。今まで積み上げてきたものを大きく変える必要はないよ。今から変えてしまったら実力が発揮できなくなるかもしれないし。ただ、小さな工夫くらいはは考えた方がいいかもね」

「そうですか……」


 もし、対戦するとすれば5日後の決勝戦。毎日試合もあるし、時間はあまりないけれど、月原に対する策を考えてきそう。そんなことを考慮した策を月原高校はこれから考えていくんだと思う。


「そのためにも、まずは金崎高校の試合をしっかりと観よう。予選のときと何が違うのかも注目してね」

「私にできるでしょうか」

「彩花ちゃんは感じたことを口にしてくれればいいよ。椎名さんや美月ちゃんもお願いできるかな」

「うん、いいよ」

「あたし、頑張ります!」


 女バスのサポートをしている彩花ちゃんよりもバスケの知識はないけれど、協力できることがあるんだったら喜んでしよう。美月ちゃんよりも見つけられないかもしれないけれど。


「とりあえず、興味があるのはどれだけチームワークを磨いているかかな。予選のときの金崎は広瀬さん中心で動いていたからね。でも、決勝戦でチームワークが出てきた。きっと、チームとしてどれだけ多くの種類のプレーができるのかを重点に練習してきたんじゃないかなと思って」

「咲ちゃんもチームワークはかなり気にしていたよ。私が見学しに行ったときも、チーム全体を見てどうだったかを訊かれたし。ね、美月ちゃん」

「そうだね。月原はチームも凄くて個人も強くなっていると絶賛でした」

「それは嬉しい言葉だね。ただ、それに慢心せずに頑張らないと」


 渚ちゃんは爽やかな笑みを浮かべながらそう言った。渚ちゃん、凄いなぁ。一番の強敵だから金崎を研究しているんだろうけれど、予選のときの様子からどんなことを中心に練習してきたのかを当ててくるなんて。

 そんな渚ちゃんに感心していると、観客なのか多くの人がぞろぞろと歩いてきている。


「試合が終わったのかな」

「多分、そうだろうね。出てくる人の波が落ち着いてきたら、すぐに観客席へ行こう。いい場所で試合を観戦したいしね」

「では、みなさん。渚先輩について行きましょう!」

「まったく、彩花ちゃんは。彩花ちゃんも協力してよね。4人並んで座りたいじゃない」

「ふふっ、分かりました」


 何だか2人のことを見ていると、先輩後輩というよりかは気心の知れた仲のいい友達のように見える。

 やがて、人の波は収まったので、私達は渚ちゃんを先頭に観客席の方へと向かう。

 両校の応援団や、前の試合から引き続いて見る人がいるからか、半分くらいの席は既に埋まっていたものの、なかなかいい位置で並んで4席が空いている場所を見つけることができた。彩花ちゃん、渚ちゃん、私、美月ちゃんという並びで座る。


「試合、楽しみだね」

「そうだね。金崎高校がどんな風になっているのかが凄く楽しみだよ」

「……あっ、咲ちゃんだ!」


 両校の選手達がコートに姿を見せる。もちろん、金崎高校の方には咲ちゃんの姿があった。他のメンバーと仲良く喋っている様子が見える。


「……なるほどね」


 渚ちゃんは何か思うことがあるのか、咲ちゃんのことを見ながらそんな言葉を漏らす。

 咲ちゃんが私達のことに気付き、元気に手を振ってきた。それに返事をするために、私達も大きく手を振った。元気そうだし、きっと大丈夫だと思う。

 金崎高校の初戦が始まるのであった。

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