第24話『決戦-2nd Quarter-』

 昨日までと違って体調が元に戻っている。

 第1クォーターは8点のリードをつけて終えられた。私がいないことを想定して考えた攻め方を上手く取り入れられたからだと思う。

 月原高校の応援席の方をチラッと見たら直人、彩花ちゃん、一ノ瀬さんの姿が見えた。彼らの応援も私達に追い風を吹かせている。


「まずはいいスタートを切ることができたわね」


 インターバルに入ってベンチに戻ると、部長が一言そう言った。彼女の白い肌の上を一筋の汗が煌びやかに流れてゆく。


「渚の体調は大丈夫?」

「はい、大丈夫です。むしろ、第1クォーターを本気でプレーして、朝よりも体が軽くなってきました」


 私がそう言うと、部長はクスッと笑った。


「頼もしいわね。さすがはエース。香奈も調子いいね」

「ありがとうございます。渚先輩が倒れたときに緊急で考えたプレーが功を奏していますね。広瀬先輩も困惑しているときがありました」

「そうね。でも、相手は金崎。色々な攻め方をしていかないと、きっと試合をしながら修正してきて、ブロックやカウンターされることが多くなると思う」


 部長さんの言うとおり、あの広瀬さんのいる金崎だ。広瀬さん中心のチームだけど、全体的なレベルは相当高い。同じような戦術ばかりだったら、きっと、あまり時間をかけずに私達のプレーに順応してくるだろう。


「じゃあ、もっと色々な攻め方をした方がいいですかね」


 第1クォーターはそれで8点差を付けることができたと言って過言ではない。終盤にはそのことで相手のプレーも乱れていたし、第2クォーターも同じスタンスでやった方がいいと思う。

 部長は一度頷いて、


「そうね。色々な攻め方をやりつつ、本来、私達が得意としているツーエースのプレーをしていきましょう。そのためにも1人、交代しよう」


 よく頑張ったねと交代するメンバーを抱きしめた。

 控えから呼ばれたメンバーは一昨日の試合でフルに出ていたメンバーだった。名前は金川かねがわすずちゃん。1年生の彼女は背が高く、攻めから守りまでするので私と似ているタイプの選手だ。

 香奈ちゃんほどではないけど、実力が伸びてきているので私も注目していた。彼女を投入することで、試合に新しい風を吹かせようってことかな。


「一緒に頑張ろう」


 すずちゃんの肩をポン、と叩くとすずちゃんは可愛らしく笑った。


「はい! 渚先輩達と一緒に戦うことができるなんて嬉しいです! 私、頑張りますね! 渚先輩や宮原さんが藍沢先輩と付き合えるために」

「うん、ありがとう」


 そう、今日の戦いは直人を賭けた戦いなんだ。金崎に勝ちたい気持ちはいつも以上に強い。それをみんなが分かってくれるから、持っている力をここで全て出し切るような姿勢で今日の試合に臨んでいる。


「そろそろ第2クォーターを始めます! 出場する選手のみなさんはコートに入ってきてください!」


 金崎高校との差をもっと広げられるように、第2クォーターも頑張らないと。

 そして、第2クォーターが始まる。

 このクォーターも新しい攻め方をしつつも、本来の私達らしいプレーを基本として進めていく。そのことで順調に点数を重ねている。

 けれど、金崎もさっそく私達のやり方が分かってきたらしく、なかなか点差を広げることができなくなってきた。


 ここで重要になるのは、第2クォーターで投入されたすずちゃんだ。


 私が倒れていたとき、代わりとして入ってくれていたすずちゃんは、攻撃も守備もそつなくこなすオールラウンダー。でも、彼女は控え目な性格であり、自分でシュートを放つ回数が少なめ。攻撃の要としてのポテンシャルはあるのに、どうも縁の下の力持ち的なポジションになってしまっている。それは一昨日の試合もそうだった。


「すずちゃん、今日はガンガン攻めて。それが金崎を引っかき回すことになるから。もちろん、周りの仲間が使えるときには遠慮なく使っていいよ」


 すずちゃんはどうしても周りに遠慮して一歩引いてしまうから、もっと攻めていいということを伝える。


「すず、どんどん攻めよう! みんな、すずに協力するから!」


 香奈ちゃんの後押しで、すずちゃんは一つ頷いた。


「分かりました!」


 よし、すずちゃんの攻めの姿勢がこれで確立することができた。ここからまた、金崎高校から点差を広げていこう!

 私の期待したとおり、すずちゃんの積極的な攻撃のおかげで、金崎高校との点差が再び広がり始める。さすがに金崎の方も、すずちゃんがここまで攻撃的なプレーをしてくるとは思わなかったんだろう。

 きっと、部長はこの展開を見通してすずちゃんを投入したんだと思う。彼女の持つ実力を信頼しているから。

 1年生のツーエースがチームを引っ張っていく日は近いかな。


「あの黒髪の女の子。彼女にどんな魔法をかけたのかしら?」


 広瀬さんとすれ違ったとき、不敵な笑みを浮かべながら彼女にそう言われる。黒髪の子というのはすずちゃんのことかな。きっと、広瀬さんはワクワクしているんだ。予想外の展開に。


「……彼女にほんのちょっと勇気をあげただけだよ」

「そう。本当に楽しませてくれるわね。……ムカつくくらいに」


 そう言う広瀬さんは口元では笑っていたけど、目つきはとても鋭い。戦いを楽しむ気持ちと試合に勝ちたい野心が彼女を取り巻いていることが分かる。

 それでも、私達は私達なりのプレーをするのみ。勝利をするために。


「すずちゃん、いい調子だよ。すずちゃんの攻撃的な姿勢が意外だったみたい」

「ありがとうございます! シュートを決めるのって気持ちいいです」

「うん。そう思うなら、もっとシュートを決めてほしい。すずちゃん、期待してるよ。この調子で頑張ろう!」

「はい!」


 すずちゃんは満面の笑みを浮かべている。月原には香奈ちゃん以外にも攻撃的な選手がいるのを、金崎のみなさんにもっと知らしめてあげて。

 その後も攻撃はすずちゃんを中心に進めていく。すずちゃんは背も高いので自然と相手に目に付かれやすくなってしまうけれど、彼女はそこを上手く利用する。


「部長さん!」

「任せて!」


 すずちゃんは一瞬の判断で、フリーとなっている部長にパスを出したのだ。そして、部長がスリーポイントラインの外側からシュートを放つ。


「ナイスシュートです!」

「すずちゃんもナイスアシスト!」


 すずちゃんと部長さんはハイタッチをする。すずちゃんは冷静な女の子だから、状況に応じて、とっさの判断で時には私でさえも驚くプレーを見せてくれる。


「すずちゃん、凄いですね。私も頑張らないと」

「ニューエースがあそこにもいたね、香奈ちゃん」


 どうやら、香奈ちゃんにもいい刺激になっているようだ。きっと、2人はこの試合中にも強くなっていくはずだ。

 金崎高校の方は今のすずちゃんと部長のプレーで、焦りが出始めたようだ。


「みんな、落ち着いて! ここからだよ!」


 そんな中でも広瀬さんだけは変わっておらず、周りの仲間に声をかけていく。さすがは広瀬さんだ、精神的な支えもきちんとしている。

 ただ、私達の期待通り、すずちゃんが金崎高校のプレーを引っかき回す。それに刺激されて香奈さんも積極的な攻撃を見せる。

 そのまま第2クォーターが終了する。


 月原 45 – 32 金崎


 金崎高校と点差を広げることができた。

 しかし、金崎高校も攻撃を段々と多く仕掛けてきて、結果、第1クォーターよりも多く点を入れている。点差を広げたからといって、これからも油断できない。

 このハーフタイムで少しでも休憩して、第3クォーターからも頑張っていこう。そうすればきっと勝利に辿り着けるはず。

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