Memories 2

 唯の死からすぐ。

 俺は唯と最後に会った人物として、警察に事情聴取を受けた。彼女から告白されたことを話すと、警察は自殺の可能性も考えた方が良さそうだと言った。


 事故か。自殺か。


 唯が灯岬から転落して亡くなったことが事実でも、事故か自殺かで彼女の死の意味合いが違ってくる。中学2年生の俺でもそれは理解できた。


 自殺だったらどうしよう。

 俺は周りから責められるのか。

 俺も唯と同じように灯岬から身を投げなければならないのか。

 吐きたくなるほどに苦しかった。


 この苦しみをどうにか軽くしたい。

 でも、唯に直接、真意を訊くことなんてできない。

 だから、警察が掴んだ情報から俺は彼女の心を探ろうとした。何か気づける点があるかもしれないと説得をして、現場写真などの捜査資料を見せてもらった。

 その中で違和感を抱く箇所がいくつかあった。けれど、そんなことを言ったって、どうにもならないと思ったし、実際にたいしたことではない。当時の俺はそう思っていた。

 でも、そんな違和感を放っておいてしまったせいかもしれない。最終的に警察は転落事故だと断定したけど、俺の心には唯は自殺したんじゃないかと色濃く残った。

 しかし、新年度を迎えて中学3年になると、唯は俺のせいで自殺したのだと囁かれるようになった。どうやら、唯が俺に告白する場面を見た生徒がいたらしい。また、俺が唯のことで警察に言った情報をどこかから入ったとも聞いた。まだ、この当時の非難くらいなら何とか耐えることができた。しかし、


「直人君のせいで唯が死んだのよ! 唯を返してよ!」


 千夏さんのその言葉が火に油を注ぐことになった。決定打と言っても過言ではないだろう。俺への非難は一気に爆発して、それまで仲の良かった友人でさえ、俺のことを激しく非難し距離を置くようになった。殺人者という便利な文句を使って。

 俺の心には唯は俺のせいで自殺したんだと刻まれたのだ。それは永遠に消せない。俺は償いとして灯岬から飛び降りて自殺しようと思った。

 けれど、しなかった。

 家族が俺のことを必死に守ってくれた。

 美緒、笠間、佐藤、北川の他、一部の生徒が俺のいない3年2組の教室で非難に対する非難をしてくれた。

 浅水先生も非難した生徒の心を変えようと尽力した。

 それだけではない。俺には確かめたかったことがあった。


 警察の捜査資料を見せてもらったときに抱いた違和感とは何だったのか?


 どうして、その違和感を抱くのか。

 その正体とは何なのか。

 そこから導き出される真実とは何なのか。


 それが分からない限り、唯が転落したあの事件は終わらない。それは生きていないと絶対にできないことなのだ。

 それに、唯は俺が自殺してあの世に来ることを頑なに拒むだろう。だから、何が何でも生き続けると決心した。

 そこからは段々と恐怖心も取れていき、学校に行けそうだと思えるくらいまで回復した。


 外に出なければ事実は分からない。


 その考えが背中を押し、俺は不登校を脱出することができた。そう、学校へ再び行けるようになったのは唯のおかげだったんだ。


 しかし、意外にもすぐに、事実は何かを考えるきっかけに出くわすのであった。

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