115期 思い出の海

思い出に浸りながら生きていくことなんてできない。

そんなことはわかっているのに、心にポッカリと空いてしまった穴を埋めるため、私の心は思い出の海に行きたがる。

あなたを探して……。


あなたが居なくなって3年になる。その時間が、もう3年なのか、まだ3年なのか。


あなたとの出会いは、クライアントとしてだった。会ったことも数回しかない。それ以外はメールしかやり取りをしたことがない。

初めはクライアントとしてのつながりがあったこともあり、メールは頻繁にやり取りをしていた。仕事に真っ直ぐなあなたは、わからないところはわかるまで確認してきた。最近は担当があなたから別の方に変わったためか、あなたからのメールは殆どなかった。それでも、私はあなたを忘れたことなどなかった。いつも心のどこかで、あなたを支えにしていたのだと思う。

真っ直ぐに仕事に打ち込むあなたを見習いたくて。


ある日、携帯メールにあなたからメールが届いた。珍しいこともあるものだと思い、メールを開いてみた。あなたではない別の人が書いた文章だった。あなたのお母さんがあなたの携帯を使って打ったのであろう。その事実を伝えなければならない思いと、その事実を受け入れられない思いとの間で、必死に。

その事実は私もはじめはうまく理解できなかった。時間が過ぎ、その意味が理解できたころ、私はただ涙を流していた。あなたが居なくなった。その事実に心にポッカリと穴が開いてしまった。


あれから3年。

お葬式で見た遺影があなたの最後の姿だった。その姿以外、あなたの声もしぐさも思い出すことなどできないのに、私はあなたのことを思い出すことが多くなった。それでも、あなたはもう居ないと思うと、忘れていた心の穴が大きく広がる。まるで、恋人が死んでしまったかのような。

そう、もしかしたら私はあなたのことが好きだったのかのしれない。最近になってそう思う。ずっと理想の働き方をする人だと思っていたけれど、実は違っていたのかもしれない。

今となってはもう自分の気持ちですら確かめる術はないが。


ただ、私はポッカリと空いた心の穴を埋めるために、今日も思い出の海にあなたを探しに行く。

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