152期 はんごろしかみなごろしか

「だからね……」

ドアの向こうでいっちゃんの話声がする。多分、いっちゃんの実家からの電話だろう。いっちゃんの実家からの電話はほぼ毎日だ。

仕事をしながらウトウトしてしまったようで、気が付いたらPCの画面にはrが連打されていた。軽く溜め息をついて、大量のrを消すためにバックスペースキーに指を置く。

「わかんないよ、そんなこと……」いっちゃんの困ったような声が聞こえた。

「はんごろしでもみなごろしでも、零くんは構わないと思うけど……」

は? 半殺しでも皆殺しでもオレが構わないって、何?

「あ~、でもこの前、みなごろしのほうが好きそうな感じだったかも。多分、どっちもみなごろしのほうが好きなんだと思うけど」

オレ、今まで皆殺しなんてしたことないけど……。いっちゃんにはそういう風に見えてるってこと? オレってそんな卑劣なヤツ?

「え? だから、今零くん仕事中だから、声かけられないんだって」いっちゃんがちょっとイラッとしたような声。

「仕方ないじゃない。なんか、急に明後日までの仕事が入ったって言うんだもん」

そうだ、昨日会社から急に仕事の連絡があって、オレは……。

「ぅわぁ!!」

オレの大声にいっちゃんが「どうしたの?!」って、慌てて部屋のドアを開けた。

「いや、ごめん。データ、全部消しちゃっただけ……」

オレは、いっちゃんに引きつった笑いを向けた。そんなオレに、いっちゃんは苦笑いを浮かべる。そして、急に思い出したかのようにいっちゃんはオレに尋ねた。「牡丹餅と御萩とどっちが好き?」って。

「えぇっと……」困惑するオレに、いっちゃんが言った。「おばあちゃんがオハギ作るから、零くんの好みを教えてって」

「零くん、こし餡のほうが好きでしょ? お餅はしっかり潰してある方が好き?」

「あ、あぁ。しっかり潰してある方が好き、かも」

「わかった、ありがとう。お仕事頑張って」

いっちゃんは笑顔を浮かべて、部屋のドアを閉めた。オレは、困惑したままだけど。

「聞いてた? やっぱり零くんどっちもみなごろしのほうが好きなんだって」と、ドアの向こうからいっちゃんの声がする。

あぁ、はんごろしとかみなごろしって、餅や餡のツブツブのことか。怖いことを想像していただけに、ちょっとホッとした。


こっちに越してきて半年。

まだまだいっちゃんの地元は、知らないことが多いなって思うとクスッと笑みがこぼれた。そして次の瞬間、データを消去した画面にオレは大きく項垂れた。

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