157期 ハロウィンナイト

「いっちゃんてさ、マメだよね」

昨日の夜作ったらしいジャック・オー・ランタンをポンポンと叩いて、キッチンにいるいっちゃんに言った。今はいっちゃんがハロウィンナイトの準備をしているところだ。

いつもなら、アップルサイダーしか作らないんだけど、今日は土曜日だからっていっちゃんがパンプキンシチューも作ってくれるんだって。

電子レンジにラップで包んだ栗カボチャを入れて温めている。その間になんだか香辛料の匂いがして、そうかと思ったら、次はリンゴの甘酸っぱい香りがしてきた。

チンッという音がして、いっちゃんはタオルでくるんでカボチャを取り出す。ヘタのほうを切り取って、いっちゃんはカボチャをくり貫き始めた。

「それ、やろうか?」と声をかけたら、いっちゃんが驚いたような顔をしてオレを見た。「それ2個やるんでしょ?」って言って立ち上がり、キッチンまで移動する。

「じゃ、お願いします」と、いっちゃんからスプーンとカボチャを差し出された。「善処いたします」と言ったオレに、いっちゃんは苦笑いで返した。

再び電子レンジに栗カボチャを入れて温め始めたいっちゃんは、ザクザクとシチューの具材を切る。切った具材をフライパンに入れて炒めている。

いっちゃんとこうやってキッチンで並んでいると、新婚さんみたいじゃない?


「零くん、ほじり過ぎ……」

いっちゃんの呆れた声が聞こえて、オレはハッと我に返る。

「もう、それ今日器にしようねって言ったでしょ?」といっちゃんが予定よりも容量が大きくなったカボチャをオレから取り上げる。

「そんなにほじりたいなら、もう一個あるから」と言って、いっちゃんは新しいカボチャをオレに寄越した。


「いただきます」

ふたりで手を合わせる。

食卓に並ぶパンプキンシチュー。自分でくり貫いたんだと思ったら、いつもより美味しい気がする。器になっているカボチャも結局2つとも中身を出し過ぎたんだけど、それはそれで愛おしい。

買ってきたバームブラックをつまみながら、暖かいアップルサイダーを飲む。

ふと、テーブルの上のジャックが目に入って、いっちゃんに聞いてみた。

「ジャックの中身って、今日のシチューになってんの?」

「ジャックは魔除けです。そもそも彼は食用品種ではありません」

淡々と説明するいっちゃんに、過去に仕事がうまくいかずジャックにあたって茹でてしまったことを思い出した。

チラッとジャックを見たら、嘲笑われたような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る