161期 えび天
隣でうどんを啜る彼女は一体何を考えているのだろう。
こうやって、合コンの帰りにラーメン屋ではなく近所のうどん屋で待ち合わせるのもいつものことだし、当然合コンで知らない振りするのもいつものこと。
そもそも合コンに彼女が欲しくて行っているわけではないし、多分彼女も彼氏が欲しくて行っているわけではない。では、なんのために頻繁に合コンという名の集まりに出かけていくのか。
そんな俺達を見て、お互い好きあっているのにそうじゃないみたいに振舞って、馬鹿じゃないの? と言った友人の呆れ顔が頭をよぎる。
馬鹿は過去の自分以外ありえない、と心の中で大きな溜め息が出る。
こうやって合コンの帰りにうどん屋によっている間はまだいいが、こんなくだらないことを続けていればいずれ彼女は誰かに食われてしまうだろうことは明白だ。
彼女が俺ではない誰か別の男に抱かれる日を想像する。その時は、同意の上、ということになるのか。ま、合コンの帰りなんだから、割り切ってそういうこともあるだろう。
そう思って、うどんに乗っかった汁をたくさん吸ってぽたぽたになったえび天を持ち上げた。
ベチャッ、と音を立てて衣は再び汁の中に戻っていく。箸に残ったのは衣を失ったえびだけだ。確かに合意の上だと、彼女もすんなり着ているものを脱いでしまうのだろう、などとえびにちょっとだけ彼女を重ねてから、俺はえびを口に入れた。
隣では、食べる気のない彼女がえび天を突いてチビチビと衣を破りながら口に運んでいた。
もし同意の上ではなく、何かのはずみで彼女が別の男に持ち帰られたら、あんな風にジワジワと迫られて、ジリジリと着ているものを剥ぎ取られていく感じになるのだろか。少しずつ甚振られるかのように。そして最後は……。
そこまで考えて、俺は身震いした。嫌な汗が背中を流れていく。
「どうしたの?」とうどんを1本つまみ上げた彼女は、俺に聞いた。「そのえび天、食べないなら頂戴」と、俺は直前まで考えていた嫌な想像を飲み下すように彼女の丼からふやけたえび天を奪い、自分の口なのかに流し込む。でも、俺ではない誰かに無理矢理抱かれる彼女の影は消えなかった。
彼女が「えび天、そんなに好きだっけ?」と一気に食べきった俺を不思議そうに見ながら言う。その瞳の中に映る自分が小さくて、不安になる。
「なぁ、いつまでこんなこと続ける気?」
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