鬼のように暗い(おにのようにくらい)(oni no youni kurai)
@nido
第1話
自由について考えているなら、そいつは不自由だ。考えるのはいくらでもそいつの自由だが、だからといって自由について考えるなんて、いかにも不自由だ。自由について考えるのはもちろん自由だ。でも、自由について考えなきゃいけないなんて、いかにも不自由だ。そうだろ、要はそいつは何か現に不自由な状況に悩まされている。それが自由について考えるってことだ。
俺は自由だ。ならば、この認識についてはどうだろう。考えるっていうのは何も頭の中で理屈をこねまわして初めて考えるっていうわけでもない。そうだと思ってるってことは、つまりは考えてるっていうことだ。俺は自由だ。そう思ってる俺は、つまり不自由だってことになるんだろうか。
自由な奴って、「たぶんもう何かしている」。
自由と不自由の境目について、あるいはそれに伴うはずだろう行動についてぼんやり想像をめぐらしているうちに、俺の身に起こった出来事は何だと思う。
当たり前のこととはとても言えないけれど、お前なら多分当てられるだろう。何だと思う。俺は酒に酔っているのかもしれない。それが大きなヒントだ。
彼らは俺に話してくれた。俺が置かれた状況について、俺がこの状況に置かれる原因になった彼らの儀式について。過不足なくとは到底言えないけれど、とにかく初めから終わりまで包み隠さず話してくれた。話し初めにはだいぶん高いテンションで、途中、彼らの儀式について話すあたりからは涙も交えながら。それでもその結果俺がここに来たんだと言う時には、ちょっと怖いくらい興奮している様子だったけれどね。彼らと言うのは父と母と娘の家族のことで(名前やプロフィールについてはおいおい触れることになるだろう)、説明をしてくれたのは親父さんだった。お母さんと娘さんは特に口を挟まなかったけれど、儀式の話に差し掛かるとうつむいて、涙をこらえきれない様子だった。その度にハンカチを差し出したり、キュッと軽くハグしたりして慰めるものだから、どうにも暗い、その、儀式とかいうことについての話が余計に長引いて、今となっては当事者なんだが、当時のことは何も知らない俺としては、ずいぶん居心地が悪い感じがしたのだった。
一通り話を聞き終えても、まだ俺は話を飲み込めていなかったのだけれど、そういう様子を察してか、親父さんは「いったん休んでそれから考えるといい」ということを馬鹿丁寧な口調で俺に言って、寝室に案内してくれた。
ベッドに入ると、他人の家のにおいがした。いや、そんなことはどうでもいいんだが。特に何かしたわけでもないが、気疲れしていたんだろうか、黙って暗い天井を見つめているうちに、俺はいつの間にか眠っていた。気持ちは妙に凪いでいた。予期せぬ新しい出来事に頭がついてこなかったのだろうか。そうかもしれないし、あるいは「こんなもの大した変化じゃない」と感じていたのかもしれない。俺はそれからしばらく、眠っていた。
さて、俺の身に起こった出来事とは何だと思う。改めて聞こう。わかるように話したつもりだが、端折りすぎたのかもしれない。もう答えを言おう。
俺は異世界にいた。
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