第10話リリアーナ・ノワール②
互いにサイドボーディングを行い第二戦を開始する。
一戦目とは訳が違う。相手のデッキに対しての対策が張られたデッキ構築。既に引きやデッキパワーの概念は限りなく薄い。プレイヤーの戦術が全てといえる。
「俺のターン」
前の試合ではリリアーナが先攻だった。ルール上、先攻は次戦に相手に移る事になっているので、ナナキの先攻になる。
「俺は基本エネルゲン(緑)をセット。更に緑マナから『エルフの女魔術師』をプレイ」
エネルゲン、クリーチャー共にタップ状態。次のリリアーナの攻撃はフリーパス当然となる。だがマナ基盤は1ターンで安定した物になる。
「ターンエンド」
ナナキがエンド宣言を行う。
「私のターンね。ドローフェイズ」
カードをドローするリリアーナ。その表情はにやついていた。既に勝利を確信している者の余裕の表情である。
「すまないけど、この勝負は既に見えているわ。ここまで理想的な初手だとね。ちょっとあっけないけど、悪く思わないでね。エネルゲン(黒)をセット。更に『血の代価』をプレイし3マナ生成。そこから黒1マナを使い『早贄』をプレイ。SS:C」
『早贄』 コスト 黒
魔術
あなたのデッキからカードを1枚選ぶ。選ばれたカードをあなたの墓地に置く。その後、デッキをシャッフルする。
SS:C レア
墓地にデッキにあるカードを落とす、一種のサーチカード。手札と違い、墓地に置くられる為、一見して大した効果では無いように見えるが、実際はわずか1マナで好きなカードを墓地に肥やせるので強力無比なカードだ。
「私は『アニステルトの疫病犬』を墓地に置くる」
『アニステルトの疫病犬』 コスト②+黒
パワー2 タフネス2 タイプ 猟犬 ゾンビ
あなたのバトルフェイズ移行時に『アニステルトの疫病犬』は全てのプレイヤーとクリーチャーに1点のダメージを与える。
『アニステルトの疫病犬』を生贄に捧げる:全てのクリーチャーに2点のダメージを与える。
SS:B レア
カードを公開し、しばらくして墓地に『アニステルトの疫病犬』を置くリリアーナ。
「その後、デッキをシャッフル。カットをお願い」
デッキを入念にシャッフルし、ナナキに手渡すリリアーナ。受け取ったナナキはデッキを3山に分け、無作為に山を重ねていく。必要最低限度のカットだ。カットを終えたデッキをリリアーナに手渡すナナキ。
「ふふ、ありがとう」
軽くお礼を述べ、リリアーナはデッキを指定位置に置き、プレイを再開させる。
「更に、残った2マナで『ゾンビパウダー』をプレイ。SS:C」
『ゾンビパウダー』 コスト黒黒
魔術 結界術(墓地にあるクリーチャーカード)
『ゾンビパウダー』の追加コストとして、あなたが対象に選んだ墓地のクリーチャーカードの点数で見たマナコスト分のライフを支払う。
墓地あるクリーチャーカード1枚を対象とする。そのクリーチャーがタイプ・ゾンビ以外なら-2-2修正を受けた状態でタイプ・ゾンビに変更した状態で『ゾンビパウダー』を装備した状態で場に出す。
タイプ・ゾンビである場合、修正を受けずに場に出す。
SS:C アンコモン
「当然、対象は『アニステルトの疫病犬』よ」
『ゾンビパウダー』はナナキの使う『生命の奇跡』とは些か毛色の違う蘇生呪文。ライフコストの支払いとゾンビクリーチャー以外は弱体化するデメリットを有している。しかしマナコストは『生命の奇跡』の半分で済む為、高速展開を得意とするスーサイドブラックには合っているカードと言えるだろう。
更に蘇生させた『アニステルトの疫病犬』にはバトルフェイズ移行時にタフネス1以下のクリーチャーを全て殲滅できる火力効果が備わっている。現在ナナキの場にはタフネス1の『エルフの女魔術師』1体のみ。次にバトルフェイズに移行されたら殲滅させられる。
更に言えば『エルフの女魔術師』はマナソース要因。むしろ、この能力に対してのメタの意味合いの方が強く、マナ基盤に重大な問題が生じる。リリアーナのサイドボーディングの狙いはこれだった。
ナナキのデッキはタイプ・エルフを主軸にした3色デッキ。かつてマイゼルが事故を頻発させた様に、2色以上のカラーデッキは、エネルゲン関連で事故を起こしやすい。
そこをナナキは好きな色を出せる『エルフの女魔術師』や『宝珠の万華鏡』でカバーしつつ、マナ加速を用いて、相手の展開力に対して後れを取らない様にしていた。
だがリリアーナはそれを理解している。その上で『アニステルトの疫病犬』を投入し、パワーを落としてでも、敵の展開力を阻害する戦術にシフトしていたのだ。
最もそれを引けなくては話にならない。そこでタイプ・ゾンビである事を利用し、『早贄』や『ゾンビパウダー』といった軽く尚且つ早く展開出来る戦術。
「そのまま、バトルフェイズ移行。『アニステルトの疫病犬』の効果発動、全てのプレイヤーとクリーチャーに1点のダメージを与える」
この能力により、ライフはナナキ19、リリアーナ16となる。しかし肝心なのは『エルフの女魔術師』の除外。これにより圧倒的にリリアーナ有利となった。
ダメージチェックが入り、墓地に『エルフの女魔術師』を送るナナキ。それを確認したリリアーナはすかさず攻撃に入る。
「『アニステルトの疫病犬』でアタックよ」
対抗しようにもマナが無いので、この攻撃は受けざるおえない。ライフ差は17対16となったが劣勢なのはナナキの方だ。
「ターンエンドよ」
エンド宣言を述べるリリアーナ。
「俺のターン」
ターン突入宣言を行うナナキ。エネルゲンをアンタップし、カードをドローする。
ナナキにとって『アニステルトの疫病犬』の存在は極めて厄介だ。ダメージを振りまく効果がバトルフェイズ移行時に誘発的に発動する為、『停滞の心得』の効力では防げない。
また『エルフの女魔術師』を除去された事はナナキのデッキの弱点を露呈する事になる。
「……ターンエンド」
エンド宣言を行うナナキ。今彼の手札には展開できるカードが1枚もない。
これこそナナキのデッキの弱点。各種エルフのマナ加速と『宝珠の万華鏡』のマナ加速を基盤にプレイしていくのがナナキのデッキ。しかし、ただマナ加速を大量に詰め込んでも、そのマナを使う有力なカードなくてはデッキとしてはパワーは無いに等しい。そこでナナキは基本エネルゲンカードを元々少数だけ投入し、低マナ圏で展開出来るマナ加速カードと低マナ圏でドローを行えるカードを複数枚投入してカバーしていた。
しかし序盤で手詰まりをしていれば展開力は大きく阻害される。元々デッキにマナエネルゲンカードを少なくしている事がそのまま、欠点として帰ってくる。ドローカードをプレイしたくてもマナが無くてはそれも叶わない。事実上ナナキの手は『アニステルトの疫病犬』一体だけで機能不全に陥っているのだ。
「私のターンね。アンタップフェィズ」
カードをアンタップし、デッキからカードをドローするリリアーナ。わずか1ターンで大幅有利になった事もあり、その表情は余裕に満ちている。
「エネルゲン(黒)セット。更に2マナ全てを使い、『アニステルトの信奉者』をプレイ」
カードを宣言と共に場に出すリリアーナ。これでパワー比は0対5と圧倒的差が付く。
「そして『アニステルトの信奉者』の効果により全てのプレイヤーに1点のダメージを与える」
召喚時にプレイヤー全体にダメージをばら撒く能力。互いにライフからダメージ分が引かれる。
「更にバトルフェイズ移行。移行時に『アニステルトの疫病犬』の効果により、更に1点のダメージを与える」
加速するダメージ。ライフはナナキ15、リリアーナ14となる。
「そして2体でアタックよ」
「……通しだ」
対抗は出来ず、ダメージチェックが行われる。2ターン目にしてライフはナナキ10。対してリリアーナは13とリリアーナが優位に立つ。しかも場は圧倒的ナナキが不利。既に勝負が見えていると言ったリリアーナの発言が、徐々に現実味を帯びていく。
「ターンエンド」
リリアーナの猛攻が終わり、エンド宣言を行う。全てに置いて不利となったナナキ。このドローで基本エネルゲンが引けなくてはもう後は無いだろう。
「ドローフェイズ」
カードをドローするナナキ。嫌でも力が籠っている。
「ちっ……ターンエンドだ」
が……駄目。引けない。露骨なまでにデッキ構築の欠点が響く。
「ふふふ、私のターンね。アンタップフェィズ。ドローフェイズドロー」
アンタップとドローを済ませ、メインフェイズに移行するリリアーナ。
「エネルゲン(黒)をセット。更に手札から『対結界汚泥獣アモン』をプレイ。SS:C」
『対結界汚泥獣アモン』 コスト①+黒黒
パワー2 タフネス2 タイプ ビースト
『対結界汚泥獣アモン』をプレイする追加コストとしてあなたの場にある結界術1枚を手札に戻す。
『対結界汚泥獣アモン』がプレイされた時、基本であるエネルゲンカード1枚を対象とする。対象となった基本であるエネルゲンカードを破壊する。
SS:C アンコモン
極めて特殊な追加コストを要求するクリーチャー。【アトランティス・ロストブロック】の第二エキスパンション【マリンズ・ウォー】で収録されたカードであり、結界術を餌として生きる【結界獣】と呼ばれるクリーチャー群をメカニズムとして取り入れられたカードだ。
結界術を餌に、戦力としても使え、餌の結界術を別の術に転換させる能力、またはその結界の効果を引き継ぐ能力持ちのクリーチャー達だ。
『対結界汚泥獣アモン』は転換させる能力。その効果はマナエネルゲンが乏しいナナキにとっていやらしい物この上ない。
当然リリアーナはナナキのデッキに置ける弱点を加味した上で、二戦目から投入したカードだ。実際ナナキの場は『対結界汚泥獣アモン』の登場により場は何もない、がら空き状態になる。
「コストとして『ゾンビパウダー』を手札に戻すわ」
そしてこの追加コストも
つまり、この様にクリーチャーには手を付けず『ゾンビパウダー』だけバウンスすれば、再利用が可能になる。
「そして『対結界汚泥獣アモン』の効果により、貴方がコントロールする唯一のエネルゲン(緑)を破壊するわ」
場からカードが無くなるナナキ。ターンが進むにつれて、状況は不利になる一方だった。
「バトルフェイズ移行。『アニステルトの疫病犬』の効果が発動し、まずは全てのプレイヤーに1点のダメージを与える」
ナナキのライフが遂に一桁となる。
「そして全クリーチャーでアタックよ」
当然対抗は出来ない。ライフは残り2点。既に勝負は決したも当然だった。
「ターンエンド」
リリアーナのエンド宣言。既にこの勝負は取ったも当然。故にリリアーナは余裕に満ちている。その余裕から既にこの勝負ではなく、次戦に目を移していた。
「俺のターン。ドローフェイズ」
生き残りはしたが、既にこの差を覆す事は不可能に近い。
「ターンエンド。エンド時にディスカードフェイズに移行。『手向けの書物』を墓地に置くる」
ディスカードフェイズに移行し、手札にあった『手向けの書物』を墓地に置くるナナキ。完全に手詰まりしており、このエンド宣言は敗北と同意義であった。
「私のターン」
アンタップとドローを行うリリアーナ。そして右手中指を顎に立て、考えごとを始める。
その考えごとは、言うなれば欲。このまま勝負を決めるのも良いが、次戦に向けて情報を集めようと考えていたのだ。
だからこそ、こう発言する。
「ターンエンド」
既に勝負は決している。その中で、こうやって無駄にターンを費やしていけば相手がディスカードフェイズに移行のたび、相手の手の内が見えて来る。
その中で初戦に使われていないカードがでれば、それは相手のまだ使われていない戦術の一つかもしくはサイドから引っ張ってきたカードだ。
今回は余りにも圧倒だったので、相手の動きがまともに見えていない。そこで情報収集に走ったのだ。これが欲の正体。
言うまでもなく、それは隙だ。本来は愚策。しかしリリアーナは何時でもナナキを仕留められる。その余裕の表れと言えるだろう。
「俺のターン。ドローフェイズ」
当然ナナキはリリアーナの目論見を察している。だから降伏するのも一つの手ではあった。しかしナナキはそれをあえてしなかった。
「エネルゲン(青)をセット。ターンエンドだ」
ようやくエネルゲンをドローし、展開するナナキ。ディスカードフェイズに移行せずに済んだ。
「私のターン。ドローフェイズ」
カードをドローするリリアーナ。ドローしたカードを眺め、にやける。
「ふふふ、私は黒2マナを使い、『思考殺し』をプレイ。SS:D」
『思考殺し』 コスト 黒黒
魔術
対戦相手ひとりを対象とする。対象になったプレイヤーは手札を公開する。あなたは公開されたカードの中から1枚を選び、それをゲームから追放してもよい。
SS:D コモン
手札破壊効果。
黒は破壊の色。それ故、手札すら破壊する事が可能なのだ。しかしリリアーナの本当の狙いは手札破壊ではない。
「通していいのかしら? 通しなら貴方の手札を見せて貰いたいのだけど」
リリアーナの狙いは手札を見る事にある。
相手の手札を確認し、その上で相手のデッキの変化を確認する。その中にまだ確認していないカードがあり、それが戦術的に重要性が高い物ならば、次戦のサイドボーディングにそれを視野に入れて行えばいい。次戦に目を置いた戦術だ。
「通しなの? それとも対抗するの?」
確認をしつこくとるリリアーナ。これも策の1つ。カウンターをプレイして対抗すればカウンター呪文が入っている事が確認できる。それだけでなく、相手に見られたくないカードが手にある事が分かる。通れば通ったで手札を確認できる。
また相手が悩む素振りを1つでもすれば、それは相手にとって手札が公開されてもいいかの迷いを感じ取れる。その迷いは結果として、手札にあまり見せたくないカードが存在している事を証明する事になる。
リリアーナは情報というアドバンテージにおいても優位に進めようとしている。このプレイングはそれが見て取れた。
だからこそ、ナナキは動く。
「ふぅー。参ったよ。降参だ。この勝負。俺の負けだ」
「なぁっ」
降伏を宣言し、手札をデッキトップに置き、墓地のカードを回収するナナキ。
リリアーナは多少驚いてはいたが、直に冷静になり、考えを巡らせる。
「なーんだ。やっぱりいいカードが入っていたのね」
1つため息を吐き、そう言ってカードを片すリリアーナ。しかし目線はナナキに焦点を1ミリたりとも動かさず、真っ直ぐ捉えている。
(特に反応なし……中々見えない相手ね)
この期に及んで、まだナナキから情報を引き出そうとしているリリアーナ。先の一声は言わば揺すり。だがナナキには何の変化もなかった。
カードを一通り片すとナナキに合わせていた目線を切り、サイドボードに目をやるリリアーナ。その時だった。ナナキの言葉を耳にしたのは。
「卑しい女だな。お陰様でお前の性格は理解できたよ」
ナナキのその言葉を聞き、慌ててナナキに目線を合わせるリリアーナ。その表情は先ほどまでの余裕はない。寧ろ凍りついた様に険しい物だ。
「私の性格? 何を馬鹿な。確かに幾らか派手に動き過ぎたけど、そんな物を晒す程ではないわ」
「そうでもないさ。お前は勝利に対して貪欲。しかもその欲が歯止めを聞かないタイプだ。あの場面、無駄にターンを費やさなくても良かった。何故ならお前自身のデッキの情報を公開しなくて済んだからな」
「そんな事、理解しているわ。だからこそ廻したのよ。貴方の事をもっとよく知っておきたいからね」
「まぁそれがお前さんの欠点であり、弱点なんだよ。お前は物事に対してのリスクを軽んじている。悪いがこの勝負、もう見えた」
そういうナナキの表情は笑っていた。相手を見下した様な笑み。それがリリアーナには些か、腹立たしい物である。
しかしここでそれを表情に出せば、相手に情報を与える事になる。そう言い聞かせ、リリアーナはグッと感情を咬み殺し、顔に出さぬ様に耐えた。
そして互いに最終戦に備え、サイドボードに手をやる。
ナナキは特に考える素振りもなく。そそくさとサイドから5枚のカードを取り出し、メインのカード5枚と取り換えた。
一方のリリアーナは悩んでいた。相手が方向性に変わりがあるのかないのかがイマイチはっきりしなかった事と、先のナナキの発言がやはり引っかかっていたのだ。
(リスクを軽んじる……何を馬鹿な。でももしそう思われているなら、寧ろ天啓。その大いなる誤解を食い殺す手にすればいい)
リリアーナは色々考えた結果、サイドから7枚ものカードを取り出す。
そしてメインのカードを眺める。何を残すかを考えていたのだ。
(次は私の先攻。このカードは残すとして、問題は相手がどう動きを変えるかね。仮に先の展開でメタを張るなら狙われるのは……やはりこれね)
相手の思考を投影し、デッキを組み直すリリアーナ。次戦は先攻という事を加味した構築を行う。
その中でサイドから1枚、追加で引っ張り出す。そしてメインからカードを1枚取り除いた。
(仮にあいつが本当に私の事を理解しているなら……これは読めないはず)
最後の1枚は、ナナキの発言にある程度警戒している事を表現する1枚であった。
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