第308話 そうだバカンスに行こう
ラブコメ警察に見つかった俺は、執務室へと強制連行されオリオンとソフィー、銀河の前で正座させられていた。
銀河は俺の後ろに回ると「すみません、すみません」と謝りながらロープで体を縛っていく。
彼女達は異端審問官が被る目出し帽と真っ黒いローブを身に纏い、手にした鞭で床を叩く。
「罪状、最近あの軍服白衣の悪魔と異様に仲が良いことが確認されています」
「
刑の判断が早すぎる。最初から決まっていたとしか思えない。
「しょうがないだろ、あの人はお前らと違ってヒロイン適性高――痛あああああい!!」
どこから話を聞きつけたのか、鞭を器用に持ったドンフライが俺の背中を打った。
「こちらが質問した時以外喋るなである! この蛆虫が!」
あのニワトリここぞとばりに……。
「わたしとあの悪魔一体何が違うって言うんですか!?」
「だからイロモノ枠かヒロイン枠のちが――痛ああああああい!!」
パーーンと良い音が鳴り、ドンフライが鞭を振るう。
あのニワトリ絶対生きたまま焼き鳥にしてやる。
しかしこのままでは分が悪い。何せ中世の異端審問だ、俺を弁護してくれる人間は誰一人としていない上、初めから刑が確定した上での裁判だ。これは早々に謝ってしまうのが賢者の道。
「わかった、俺が悪かった、落ち着けお前ら。謝ろう……ごめんねごめんねー痛あああああああい!!」
ちょっとふざけた謝り方をすると、容赦なく鞭が振るわれた。
「気持ちがこもってませんね」
「うん、でもタチ悪いのが、咲この状況ちょっと美味しいと思ってるとこだよね」
「お、お館様、熱湯風呂とか大好きですから……」
「ひょっとしたら一番マゾなのって王様なんじゃないですか?」
なんて失敬な奴らだ。
ソフィーたちは俺を上半身裸にすると、体をロープで天井につり上げ、床に蝋燭を敷き詰めていく。
そして悪魔召喚の儀式の如く、俺の下をグルグルと回り始めた。
「お前らのそういうところがイロモノ枠って言われる原因なんだぞ!」
「さぁ王様、この際です誰が一番好きなのかおっしゃってください」
「そうだよ咲、そういうの大事」
「じ、自分も気になります」
「さぁ恥ずかしがらずソフィーさんが一番好きですって言って下さい」
「「えっ?」」
オリオンと銀河が中央にいるソフィーに振り返る。
するとそのタイミングでディーが執務室へと入って来た。
「王よ、手紙が届いていますが……」
ディーは半裸にされ鞭打ちを受けている俺の様子を確認すると「楽しそうですね、後片付けしといてくださいね」とニッコリほほ笑んで、そっと執務室の扉をしめた。
「ディー―!! カムバーーック!!」
なんとか吊るし上げ鞭打ちの刑から保護されると、ディーは呆れたため息をついた。
「何があったらそういうことになるんですか?」
「深くは聞かんでくれ……。そんでなんだって?」
「あぁ、手紙が届いていますと」
俺はディーから手紙を受け取ると、中身に目を通した。
[やぁ梶、元気か? 俺は今南の島でバカンスを楽しんでるんだが、お前もどうだ? 俺のチャリオット美人が複数人加入してお前に自慢がしたい。実のところ自慢できる友人ってお前くらいしかいないんだ。ここに招待状を同封するから、遊びに来いよ。頼みたいこともあるんだ]
「なんだ、このネガティブなんだかポジティブなんだかよくわからん手紙は」
「お知り合いですか?」
「チャリオットって書いてるから王だと思うが、俺に王の友達なんて……」
封筒の裏側を見ると、【永遠のライバル藤木蜜男より】と書かれていた。
「ゴミ箱に捨てておけ」
「えっ、よろしいんですか?」
「迷惑メールだ」
Bモン使いの藤木蜜男。俺の第六感的な何かが、こいつを再登場させるのは非常にまずいと訴えかけている。
そして俺のないに等しいプライドが、この男にだけは借りを作りたくないと言っている。
そう思っていると、オリオンが手紙を奪い取って中を確認する。
「南の島でバカンスだって!」
「本当ですか!?」
「待てお前ら、それはダメだ。
「さっきの件、これでチャラにてあげてもいいですよ」
「あたしも海行きたい」
「お前ら海って、季節外れてるし」
「南の島なら季節関係ないですよね。遊びに行きたいです!」
「そうだー南の島旅行を要求する!」
オリオンとソフィーが肩を組んでギャーギャーとわめいている。こうなっては手が付けられない。
「お世話になってはいけない理由があるのですか?」
ディーの質問に俺は苦虫を噛みつぶしたような表情になる。
「別にないんだけど……ただ単純に俺が蜜男と会いたくないだけだ」
「いいじゃん行こーよー!」
「そうですそうです! 王様の個人的な好みはここはぐっとこらえてください!」
「むぅ……まぁいいんだけどな」
監獄ではこいつらに世話になったしな。
ルナリアさんからも、戦士たちに甘えていますと言われたし、リフレッシュ休暇的な意味合いも兼ねて話に乗るのも悪くないか……。
なにより……タダっぽいし。
「王よ、お断りするのでしたら先程話したチャリオットの資金繰りについての会議を――」
「よし、皆バカンスに行くぞ!」
ディーの言葉を遮り、俺たちは蜜男のいる南の島とやらに向かったのだった。
☆☆☆
「「「うーーみーーーー!!」」」
照り付ける日差し、白い雲、青い空、輝く海。水着姿でにぎわう観光客。
季節外れのバカンスへとやって来た我らトライデント一行。
アルタイルに領地で大人しくしておけと言われたが、チャリオットと交流を深めるのは王の役目だし、何より海と言えば水着が見れる。
「招待するなら交通費くらい入れといてくれりゃいいのに」
「向こうもまさかこんな大所帯で来るとは思ってませんよ。というか本当にこんな大勢で来て大丈夫なんですか?」
ディーは大型客船から降りてくる我らチャリオット一行を見やる。
「女性は何人でも
ウチの男の数なんてたかだか知れているから大丈夫だろう。
もしダメだって言われたらそのまま帰ってやるつもりだ。
しかし驚いたのが、蜜男の奴本当に金持ちになったらしく島の一つをまるまる買い取り、蜜男アイランドというふざけた名前をつけていたのだ。
あいつも俺に負けず劣らず貧乏チャリオットのはずなのだが、一体何があったことやら。
「俺は先に蜜男に会って来るから。君らもう砂浜に行って遊んできなさい」
「「イェーイ!!」」
言わずともオリオンやソフィー、兎たちは砂浜へと駆けて行った。
「ディーは先に俺達の宿泊施設を見て来てくれ」
「わかりました」
「僕は君についていこうかな」
そう言って新入りのクリスが俺の後に続く。
今の彼女はゆったりとしたパーカーにデニムのホットパンツ、やたらレンズのでかいおしゃれサングラスをかけており、見た目の性別がはっきりしない。
そのおかげか、島を行きかう水着姿の女性が次から次に逆ナンしてくる。
「お兄さん、あたしたちと遊ばない?」
「お兄さんかっこいい。私たちと遊びませんか?」
「お兄さん抱いて」
クリスはそれに「ごめんね~」とハニーフェイスで軽く断っていく。
さすが元イケメン、さらっと断っていくな。
俺なら二つ返事で「遊びますぅ!」と言っているところだろう。
カッコイイ女に嫉妬しても仕方ないので、蜜男のいるログハウスへと向かった。
「おーい蜜男、来てやったぞ」
やたらでかいログハウスの中へと入ると、アロハシャツにトロピカルジュースを持ったTheハワイみたいな男が「ぃよう」と俺を出迎える。
「よく来たな親友」
「そう思ってるのはお前だけだがな」
「ハハッ、冗談きついぜ」
全く冗談ではないのだがな。
こいつはBモンマスター蜜男。ブサイクなモンスターを使役する、モンスターテイマー兼、俺と同じチャリオットを統べる王だ。清々しいほどにクズでブサイクなところがある。
「あれ、お前モンスターボックスはどうしたんだ?」
「あぁ、俺Bモン使いやめたんだ。なんかダセェだろ? いい歳してブサイクなモンスターを戦わせるってさ」
「嘘だろ、お前クズのBモン使いなのに、ただのクズになっちまったぞ」
「今の俺はまぁ、いうなれば投資家って奴かな」
「なんだそれは?」
「金のない王達に融資して、後から金を利子つきで返してもらうんだ。それが成功してな。きっかけは金がなくて死にかけてた戦士に1000ベスタ貸してやったら、その戦士が実は有名な騎士だったらしく、俺に100万ベスタお返ししてくれたんだ。それを元本にして金に困ってる戦士を見つけては融資して――」
話している最中、ピリリリっと何かのコール音が聞こえる。
蜜男は懐から音の魔法石を取り出すと耳に当てた。
「もしもし? 俺だけど。えっ? カネナシ王が借金返済できないって? 返済期限は今日だろ……あ? 返せないじゃないんだよ! 金が無いなら内臓売っちまえ! あと三日待ってくれ? 待たねーよバーカ!」
そう怒鳴り散らして蜜男は魔法石を切った。
「チッ、最近は金貸しても返せないクズが増えて困るぜ。梶もそう思うだろ?」
「お前ロクな死に方せんぞ……」
こいつ完全に闇金業者と化しとる……。
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Amazonさんとファミ通文庫オンラインにてガチャ姫のカバーイラストが公開されています。
とても綺麗なイラストなので是非見て下さい。
綺麗な主人公とオリオン、ソフィー、ディーが映っています。
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