第293話 プリズンブレイクⅡ
銀河が黒焦げにした武器庫の扉を見て、俺は顔をひきつらせた。
木製だと思っていた隣室の扉は、木の偽装が剥がれ落ち、金属の扉がむき出しになっていたのだ。
「地下と同じだな。大事なところは頑丈にしてると見える」
「申し訳ございません。次はダイナマイト爆符を使って完膚なきまでに吹っ飛ばして見せます」
「建物が吹き飛ぶからやめろ」
俺を火だるまにした後、次はダイナマイト使いますとよく言えたものだ。
金属扉にはちゃんと鍵穴があるので、俺はもう一度メタルスライムを取り出す。
最初からコイツで開けときゃよかった。マスターキー(物理)に頼ろうとしたのが悪いな。
だが、マスターキー(魔物)は再び硬化していて鍵穴に入らない。
「銀河、スカートあげろ」
「は、はい」
銀河は視線をそらしつつ、羞恥に耐えながらスカートをたくし上げる。
スカートの下からガーター付きのベルトと、小刻みに震える白い太ももが露わになる。
純白の下着にメタルスライムを近づけるが、なぜか球体形態から液体にならない。
「なんでだ? 銀河お前色気が足りないんじゃないか?」
「す、すみません」
「ちょっとセクシーポーズしてみろ」
「む、無茶ぶりですよ!」
銀河は頭のホワイトブリムを揺らしながら体をくねらせてみるが、MPを吸い取る踊りにしか見えない。
ダメだコイツ、顔とスタイル以外セクシーとは真逆の位置にいる。
そう思ったが、手のひらの上でメタルスライムがちょっとずつ溶けかかっていることに気づいた。
「こ、こいつ耐えてやがる……」
簡単に液化してたまるものかと、必死に球体形態を維持しようとしているのか、玉全体がプルプルと脈打っている。
「銀河もうちょっとだ、頑張れ!」
「は、はい!」
銀河に不思議な踊りをさせていると、守衛室に俺の見知った顔がもう一人現れる。
「ちょっと銀河何やってんのよ。爆発させるなら静かにやれって毎回言って――」
ツインテールを後ろ手に弾くメイド姿のフレイアは、銀河のときと同じように俺を見て固まる。
呆気にとられたかのように半開きになった口はパクパクと動くだけで、言葉を絞り出せずにいた。
「よぉ……久しぶり……だな」
「う、嘘……」
フレイアの目にジワっと涙がたまっているのが見える。
きっとずっと探しくれていたのだろう。彼女は小さく唇を震わせると、鼻をグズっと鳴らす。
「あんた……ほんとに……」
「フレイア……再会していきなりで悪いんだけど……」
「なに?」
「パンツ見せてもらっても……いいですか……?」
彼女の顔が一気にミジンコを見る目になり、その手に炎を灯らせる。
「あ゛?(威圧)」
「たんまたんま! 別にやらしい気持ちじゃないんだ!」
私の命に代えてもコイツだけは殺しとかなきゃ、みたいな顔しないでほしい。
かくかくしかじかでと、俺はパンツが必要な旨を伝える。
「再会の抱擁や、キスかと思った自分を殺したいわ」
「えっ、何か言ったか?」
「鼻から溶けた金属流し込んでやろうかって言ったのよ」
殺意が凄い。
フレイアは溶けそうで溶けないメタルスライムを見ると、舌打ちし心底嫌そうな顔をしながらパンダカラーのメイドスカートに手をかけた。
いいですね、その嫌々たくしあげさせられてる顔。恥ずかしがるのも好きですが、嫌々従わされるのも好きですよ。本当にありがとうございます。
俺は寝そべってローアングラーになりつつ、光沢のあるフレイアの赤と銀河の純白のパンツを堪能する。
二人のパンツを見て、ドロドロになったメタルスライムを容赦なく武器庫の鍵穴に突っ込み、扉を開いた。
「よし開いた!」
「ほんと再会した瞬間これなんだから呆れるわ」
「俺が帰って来た感凄いだろ?」
「うっさいわね、セクハラして何ドヤ顔してんのよ」
「そんなに嫌か?」
「嫌ならこんなとこまであんた追いかけてこないわよ」
フンっと鼻を鳴らして、ツインテールを弾くフレイア。
俺の周りはいい女が多くて困る。
武器庫の中に入ると、ヘックス領民やウォールナイツ達から接収した武器が所狭しと並んでおり、その膨大な数に驚かされる。
「大剣、長剣、槍、弓、槌、杖、ナイフにメイスに銃まであるのか。こりゃなんだ? 剣と銃が合体してんぞ」
「これパクったら怒られるかしら?」
「デブル共に悪用されるよりかは100倍マシだろ。使えるもんは適当に貰っとけ」
武器を回収していると、その中でひときわ目立つ、刀身がキラキラと光るクリスタルで出来た剣を見つける。
「あれ? これってオリオンの結晶剣じゃないのか?」
「ここで雇っていただくとき、我々も武器の類は接収されましたので」
「あぁ、どうりでお前包丁なんか使ってたわけか。ってことは、オリオンの奴今武器持ってないのか?」
「大丈夫よ、あの子歯があるもの」
「そうだな。じゃあ大丈夫だ」
「あ、あの歯って武器なのでしょうか?」
あいつの歯鉄くらいなら砕けるからな、凶器の扱いでいいだろう。
歯があるから大丈夫なんて言われるヒロイン、あいつくらいだろうな。
俺はスマホを取り出し、頼まれた武器を探す。
このデカい斧がグランザムのだな。他にこの指輪がクリスのか……あいつ気取った武器使ってんな。ってか指輪を武器にするってどうするんだ? そんでオスカーはこれで……。
一通り武器を集め終わったが、俺の黒鉄だけが見つからない。
「ない! ないぞ! 俺の黒鉄はどこだ!?」
三人で武器庫内をくまなく探すが、刀は一本もない。
「看守にパクられたんじゃない?」
「うっそだろオイ……」
そういやここの看守、ウォールナイツの制服パクってたな。ってことは気に入った武器も勝手にパクってる可能性は十分ある。
俺が顔をしかめていると、ひときわ大きい声が外から聞こえてきた。
『火事だ!! 収容棟が燃えてるぞ!』
クリスが収容棟への放火に成功したな。
これで混乱は更に大きくなって新型は地下から移動してくるだろう。つまりもう時間的猶予がない。
「フレイアはこの武器を持ってオスカーたちを解放してくれ。銀河は俺と一緒に来い」
俺は黒鉄を一旦諦め、武器と首輪の鍵、牢屋の鍵束をフレイアに放り投げる。
「アンタたちはどうするの?」
「この隙に敵のアーマーナイツを奪って来る。すげぇ強そうなのが地下にあったから貰って来るわ。黒鉄持ってる看守がいたら奪い返しといてくれ」
「それはいいけど、せっかく会えたんだから無茶しないでよ!」
「ほんとすまん! 帰ったら埋め合わせはする!」
★
その頃デブルはヘックス城の寝室にて、お気に入りの美少年の尻を掘っている最中だった。
「これは、たまらん、な!」
デブルは醜悪な顔に満面の笑みを浮かべ、悪臭のする汗を飛び散らしながら苦しむ少年にのしかかっていた。
少年はただただ涙を流すだけだったが、苦悶の表情を浮かべればデブルは大喜びするとわかっており、必死に枕に顔をうずめて我慢していた。
そんな欲望渦巻く歪んだ愛の巣に、警備の男が慌てて入ってきた。
「デブル様! 大変です!」
「見てわからんのか、ワシも、今、大、変、なのだ!」
「緊急なのです、囚人が暴動を起こしています!」
「その程度なんだと言うのだ。お前たちで解決しろ。逆らうものは殺して構わん」
「そ、それだけではなく――」
「ふむ、いいことを考えた。逆らったものを捕まえ、その家族を殺させよう。子供、妻、両親に袋を被せて殺す人間を選ばせるのだ。誰が死んだかは殺してからのお楽しみ。ファミリーデスルーレットなんて面白いとは思わんか? ハーッハッハッハッハッ!」
「それどころではありません! 暴徒化した囚人が一号収容棟に放火し、現在火災が発生しています!」
「ハーッハッハッハッハッハ、……はっ? 今なんといった?」
「ですから一号収容棟が燃えているのです。更に作業場も1、3号から火の手が上がっていると報告が!」
その報告にデブルの顔は一気に青くなり、意図せず絶頂してしまった。
「ふ、ふ、ふざけるな! 作業場はどうでもいい。収容棟の火を消せ、あそこはまずい!」
「し、しかし作業場には大量のエーテルバッテリーが残っており、引火すれば大爆発を――」
「そんなのはどうでもいい! 収容棟だ! あそこには新型がある。地下のラボが全焼したなんてことになればペヌペヌ、いや聖十字騎士団本国から粛清を受けるぞ」
デブルの脳裏にペヌペヌが心底失望した顔で「無能はいりませーん」と言っている姿が思い浮かんだ。
まずい、まずいぞと呻りながら、デブルは寝室のカーテンを勢いよく開く。
そこにはオレンジの炎を上げて、燃え上がる収容棟が遠目から見えた。
火の勢いが強く、明らかに今から消火を行っても無駄だということが見て取れ、デブルは更に顔を歪ませる。
「なぜこんなことになるまで気づかなかった!」
「その……火の早さと囚人の暴動タイミング、手際の良さからみて前々から計画されていたことではないかと……」
「ぐぐぐ。家畜風情が、ワシに牙をむくとは。とにかく新型を移動させろ! あれに何かあったらワシの首が飛ぶ! いや、ワシだけじゃなく貴様ら全員の首が飛ぶと思え!」
「はっ、はっ!」
警備が走り去るとデブルは大慌てでガウンを着る。
すると今度は城壁警備を担当している男が息を切らせて走り込んできた。
「デ、デブル様! 大変です!」
「今度は何だ」
「ヘックス上空に飛行艇船団が接近しております!」
「なにっ、どこの国だ!?」
「そ、それが飛行艇にはグルメル運輸と書かれておりまして……」
「グルメル運輸? グルメル領の
「わかりません。ですが現在城壁のバリスタを攻撃し、領空内へと侵入しようとしています」
「ぐぬぬぬ、次から次に何だというのだ。アーマーナイツを城壁へと回し、捕捉次第撃ち落とせ!」
「はっ!」
「魔軍を帰還させた瞬間、続々と集まって来るこの感じは一体なんなのだ……」
苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべるデブルだが、不意にあっさりと撤退を決定したイングリッドの姿が頭に浮かぶ。
「まさかあの女、このことを知って……」
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