第250話 Bモンバトル
俺は対戦表を見て、用意された特設リングへと向かう。
六角形に切石を敷き詰めらたリングはコーナーやロープはないが、十分自由に戦える広さがある。
もっと適当なものを想像していたが、意外と本格的だ。
その外周をぐるりと取り囲むようにして、出場者や物珍しさで覗きに来た観戦者たちが開始を待っている。
俺がリングに上がると、同じく対戦者の青年もリングに登り、お互いを見据えた。
対峙する相手はベストを着た、トンガリ頭の小太りで特徴的な糸目をしている。目が開いているのか開いてないのかわからないほどで、あれで本当に前が見えているのか疑わしくなる。
対戦者は腰からボックスを取り出してこちらに構える。
「あいつが俺の相手か」
強そうなのか弱そうなのかもわからないと思っていると、不意に後ろから声がかかった。
「奴はストーンシティでギルドリーダーをしている、いわばBモンのエキスパートだ。奴の使用するBモンは岩や鉄の硬化型モンスター、初戦の相手としてはかなり危険な相手だ。頑張れよ未来のBモンマスター」
振り返って声をかけてきた人物を見やると、肩マントをしたモヒカン姿の男が、こちらにニッとエールを送ってくると観客の中に消えて行った。
「誰なんだあいつは……」
ゲームによくいる、いきなり出てきて勝手に助言とかしていく奴だな。
[それではB1グランプリ1回戦を開始します!]
司会のアナウンスが響き渡り、対戦者の青年が俺を見据える。
「お前が俺の相手か。いいだろう俺はストーンシティでBモンギルドリーダーをしているフトシだ。エリートテイマーより一つも二つも格上だぞ」
「はぁ」
さっき聞いた。お前の個人情報漏れてるぞ。
「俺のBモンはちょっとやそっとじゃ倒せない。かかって来い!」
[Bモンリーダーフトシが勝負をしかけてきた!]
謎のテロップと共に戦闘が開始される。
「いけメタルハンバーガー!」
フトシがモンスターボックスを投げると、中から人間の身長を悠々と超える巨大なハンバーガーが出てきた。通常のハンバーガーと異なり全身が銀色で、どうやら金属でできているらしい。
「HAMBAAAAGAAAAA!!」
モンスターの鳴き声が自分の名前ってありえなくね?
そんなことを思いながら、俺はモンスターボックスを放り投げた。
「行け、ドンフライ!」
ボックスの中からドンフライが姿を現し「えっ? ここどこ?」と首を左右に振っている。
「ドンフライ、ドリルくちばしだ!」
「なんだそれは、我輩そんな技知らないである。というかここはどこであるか!?」
「HAMBAAAAGAAAAA!!」
「ギョエエエエエエエエエッ!! なんじゃこの化け物は!」
「メタルハンバーガー、鉄属性らしいぞ! 鉄属性と飛行タイプのドンフライは相性ばっちりだ!」
「なにをわけのわからんことを言っているのだ! 正気に戻れ!」
ドンフライが慌てふためいているのを見て、フトシはニヤリと笑みを浮かべる。
「やれ、メタルハンバーガー! メタルレタス!」
「HAMBAAAAGAAAAA!!」
ハンバーガーのバンズ部分が二つに別れ、胴体のレタス部分が電動ノコギリのように回転し、ドンフライに襲い掛かる。
「かわせドンフライ!」
「アホか、そんなもんでかわせたら苦労はないである! もっとまともな指示を出すである!」
メタルレタスはドンフライのギリギリ左にそれ、運よく助かった。
「ドンフライ、ファイヤーバードだ!」
「絶対できないってわかってる技を命令するのはやめるである!」
ドンフライの攻撃は不発した。
すかさずフトシが次の命令を下す。
「メタルハンバーガー押し潰すだ!」
「HAMBAAAAGAAAAA!!」
くそ、なんて語彙力のないモンスターなんだ。
こいつに声優がいたら気の毒になってくる。
「かわせ、ドンフライ!」
が、回避がうまくいかずドンフライは踏みつぶされてぺちゃんこにされてしまった。
「ダメか。戻れドンフライ」
ボックスをかざすと、ぺちゃんこになったドンフライは中へと吸い込まれて行った。
あっさりとやられてしまい、フトシは高笑いを上げる。
「フハハハハ、これでは勝負にならんな。ブサイクなのは顔だけか?」
くそ、自分もブサイクのくせに。
「しょうがない。エリザベス、君に決めた!」
俺がボックスを放り投げると、中から小さいイカちゃんが姿を現した。
「キュイー」
それを見るなりフトシは更に大笑いしだした。
「フハハハハハハ、属性の関係もわからないとはな。鉄属性のメタルハンバーガーに水属性モンスターの攻撃は効果が半減する。しかもメタルハンバーガーの防御力はモンスターの中でも随一。素人Bモンテイマーめ! 面白いのは顔だけにしてくれ!」
野郎ぶっ殺してやる。
俺の殺意が伝わったのか、エリザベスはやる気だ。
「フハハハハ! メタルハンバーガー、軽くひねってやれ!」
「HAMBAAAAGAAAAA!!」
メタルハンバーガーは命令に従い、エリザベスに迫る。しかしエリザベスはペッとガムでも吐き捨てるかのように口から水弾を放つと、メタルハンバーガーの額らしき上部バンズに拳大の穴が開いた。
そのままズンと音をたててメタルハンバーガーは倒れる。
「ハッハッハッハッハッハ……はっ?」
エリザベスはキュイーと外側の足を上げて勝利の舞を舞っている。
俺も一緒に踊る。
[おっとメタルハンバーガー、エリザエスの水弾で一撃です! レベル差がありすぎると属性なんて関係ないという良い例ですね]
司会が今あった出来事を的確に説明する。
「くっ、まぐれに決まっている! 行けゴッドノーズ!」
フトシはメタルハンバーガーをボックスに戻し、次に鼻のでかいモアイ像にしか見えない、デカい石のモンスターを呼び出した。
「遊びは終わりだ。こいつの重量に耐えられるモンスターはいない。行けゴッドノーズ、ふみつけるだ!」
天高くミサイルの如く飛び上がったモアイ像は、隕石のように体を赤熱させながら急降下してきてエリザベスを押し潰そうとする。
というか、あんなスピードで落ちてきたら、リングは木端微塵で観客も危ない。
「エリザベス、ハイドロキャノン」
「キュイー」
エリザベスは足を振りながら魔力を貯めると、目の前に魔力の塊である水球が現れる。
俺は人差し指と中指を突き出し、降下してくるゴッドノーズに狙いを定める。
「撃てっ!!」
「キュイー」
俺の命令と共に発射された水の極太レーザー砲は余波だけでリングを真っ二つに割り、空中のゴッドノーズに命中する。
ゴッドノーズはなんとか押切ろうとするが、ハイドロキャノンの水圧に耐え切れず、真っ二つに砕け散ってしまった。
上空からパラパラとゴッドノーズの破片が落ちてくる。
「しまった、やりすぎたな」
「キュイ?」
「もう少しおさえて撃たなきゃダメだぞ」
「キュイキュイ」
エリザベスはこれが最低だと抗議しているようだ。なら仕方ないな。
ハイドロキャノンが真横を通ったフトシは完全に腰をぬかしていた。
だが、立ち上がりゴッドノーズをボックスに戻すと、最後のボックスに手をかける。
「まだやるか。さすがBモンリーダーだけあるな」
「フッ…………ギブアアアアアアアップ!」
立ち上がったフトシは声高らかにギブアップを宣言した。
[勝者、梶勇咲!]
アナウンスが大きく響き渡り、観客から拍手が起きた。
「まだ相手、最後の一体残ってたのにな」
どうやらエリザベスには勝てないと悟ったらしい。
あっさりと勝利できたが、他のBモンテイマーたちを完全に警戒させてしまったらしく、なにやら対策をねる声が聞こえてくる。
「次からは一筋縄じゃいかないかな?」
そう思ったが、2回戦目のテイマーがあっさりと棄権し、Bモンマスターを除けば決勝まで来てしまった。
ってことは、恐らく勝ち上がっているであろう蜜男との頂上決戦になるわけだな。
本当にあいつがライバルみたいになってて嫌だな。
対戦表でも見に行こうと思った俺の背に鬱陶しい声がかかる。
「ここまでよく勝ち上がって来たなライバル。次の戦いを楽しみにしているぜ」
「ああ、俺もお前のカビパンを倒すのは気が引けるが――」
蜜男だと思って振り返ってみると、さっきの全く知らないモヒカン頭の男がニッと笑みを作ってから、また観客の中に消えて行った。
だから誰なんだコイツは。
変な奴ばっかりだなと思いながら、蜜男は順調に勝ち上がっているのだろうかと思い対戦表を確認する
白板の蜜男の名前には既に×印がついており、彼は1回戦目で敗退していた。
嘘だろ……。もうちょっと頑張れよ。
そう思っていると、気落ちした蜜男が俺の肩に腕をのせてきた。
「よぉ親友……俺は負けちまったけど、でも俺の想いはお前に託した。だから俺とお前の心は一心同体だ」
「…………」
「なぁ梶、火っていうのは二つの力が合わさることで炎になるんだぜ?」
「だから!?」
やめて、いきなり出てきて長年の親友兼ライバルだったみたいなこと言うの。
「梶……恥をしのんで頼む。お前が勝ったら、景品の女の子モンスターを譲ってほしい」
「ほんとに恥ずかしいこと言ったな。もう恥も外聞もないな」
「頼む!」
「都合良いな……。まぁ良いよやるよ。別にBモンマスターに興味はないからな」
正確には今回の優勝賞品である美少女モンスターは、幼すぎて俺のストライクゾーンに入らなかっただけだが。
しかし、この
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