第216話 トラブル続き
俺たちは、砂漠都市マンスラータリアに到着した。
街の中へと入ると、周囲は砂と石で造られた家が多く、このクソ暑い中なかなか活気にあふれている。
遙か奥の方に三角形の巨大な建造物が見える。
どうやらあれがオベリスクのピラミッドとかいうダンジョンらしい。気温のせいか遠くに見えるものが歪んで見え、ピラミッドが二つあるように思える。
明るく広い通りには陽気にギターを奏でる男や、サリーと呼ばれる薄着を着た女性が頭に荷物を乗せながら歩いている。
だが、それよりもしっかりとした装備を着た人間が多く、恐らく外部から来た冒険者がこの街の住人の数を上回ってるようだ。
ラクダを降りて全員が水分補給を済ませると、俺たちはガイドが予約しているホテルへと向かった。
ホテルはこの街の中ではかなり良いところらしく、他の建物に比べて造りがしっかりしており、豆腐型の四角い外観はマンションのような雰囲気を受ける。
俺たちは順次ホテルに入りチェックインしようとするが、ホテルの従業員らしき人物が慌ててこちらを止めに来る。
「すみません、お客様団体のご予約は受けていないのですが」
「えっ? ガイドにここに行けと言われたのですが」
「我々は何も聞いていません。このような大人数でお越しになられても、こちらには受け入れる部屋がございません」
「待ってくれ」
どういうことだと、俺はガイドに説明を求めようとしたがガイドの姿は忽然と消えていた。
「すみません、アブラ・カタマルゥって男ご存知じゃないですか?」
ホテルの従業員にガイドの名前を聞いてみると、顔をしかめた。
「その男は盗賊団広い砂漠の赤い太陽のメンバーでございますね」
「えっ……まさか」
「はい、奴らはガイドと偽って旅行客を盗賊団に襲わせるのです。よくご無事でしたね」
「街の近くで襲われた」
まさかあのガイドグルだったのか。ってことは、あの撃たれたってのは自作自演か。
海外旅行はこういったトラブルが多いらしいが、まさかまんまとハマるとは。
今は奴に騙されたことより、滞在場所がなくなったことの方がダメージが大きい。
「どこか他に泊まれるところってないだろうか?」
「う~む、これほど人数が多くなりますと、街の安宿ではほとんど無理でしょう」
「となるとキャンプしかないか」
一応もしもに備えてテントは用意してあるが。
「お力になれず申し訳ありません」
「いえ、ありがとうございました」
俺はホテルの従業員に話して、テントを張って良い場所を聞き、そこにキャンプをすることにした。
一時間ほどでテントの設営が完了し、中へと荷物や棺を運び込む。
「クッソ重いな」
俺は投げやり気味に棺を放り投げると、中からG-13が出てきた。
[モウ少シ優シクデキナイノデスカ?]
「うるせーロボットのくせにへばってんじゃねぇよ」
[ワタシノ高性能AIヲ砂漠デ使ウナド、バカゲテイマス]
「エーリカ見習え、あいつ普通に動いてるじゃねぇか」
[ボストロルノヨウナ戦闘用ロボノエーリカサント高性能AIヲ備エルワタシヲ一緒ニシナイデクダサイ]
口の悪い奴だ。エーリカが聞いたら怒るぞ
そう思っているとテントの中にエーリカが入って来る。
「本機への誹謗中傷センサーが反応しました」
「嫌なセンサーつけてるな。それ行きすぎるとディストピアに発展するぞ」
「誰がボストロルロボですか」
焦りからG-13のアイカメラがせわしなく動く。
[イイ意味デデス。イイ意味デ]
「良い意味で、なんと?」
[ボストロルト]
ゴインと金属音が響き、エーリカの肘鉄でG-13の頭が凄い凹み方をする。
「丁度いい機会です。ボディの中に砂が入ってないかメンテナンスしましょう」
[イエワタシハ正常アアアアアアアアアアッ!!――――プツン]
エーリカは両手に持ったドリルとチェーンソーを回し、ギュインギュイン恐い音をたてながらG-13のメンテ(?)を行う。
自業自得だなと思い別のテントへと入ると、棺の中から、この旅で一番最初に倒れた
神官を棺の中から出す姿はなかなかシュールだ。
どうやら本気でグロッキーになってるらしく、ぴくりとも動かない。
「大丈夫か、死んでないか?」
俺は生きてるか確かめるために、
「神は言っております。具合悪い人に悪戯するなと」
「すんません」
具合が悪いのは間違いないようなので、顔色の悪いソフィーに水枕をやってから俺はレイランの棺へと向かう。
レイランは長いこと氷に囲まれていたのでカチンコチンになってしまっているようで解凍作業に入っているようだ。
だからなんだよ、冷凍されたり解凍されたりするヒロインって。マグロかよ。
ウサギ軍団も長旅で疲れているようで、皆テントの中でぐったりとしながら寝転がって休んでいる。その中に暑さでゲル化したオリオンが、徐々に人型に戻りつつあった。あいつもしばらく使い物にはならないだろうな。
ほんとはもっといい場所で休めるはずだったんが、本当にすまねぇ。
ラクダから全ての積荷をおろして、俺の危機感は更に強くなる。
ここに来る途中、流砂にあってラクダを加速させる為積荷をいくつか捨てざるをえなかったのだ。
その為、水はかなりの量を持ってきたにも関わらず、恐らく後一日ももたないくらいに減っている。
「ダンジョン云々に入るより、まず水の確保が先だな」
拠点のことを考えるにしても、まずそれからだ。
そう思い、水を求めて街の広場へと向かうのだった。
「水がたけぇ……」
俺は目の前に並ぶ水のボトルを見て大きく唸る。
水売りの男に話を聞くと、1リットル1万ベスタと暴利で商売してやがる。
「おじさん、ほんとにこれだけで1万ベスタ? 普通300ベスタもしないぞ?」
小さなボトルをとって、なんとか値下げできないかと思うが、水売りの男はヤレヤレと肩をすくめる。
「ここでは水は貴重なんだよ。当たり前のように水がある土地と一緒にしてもらっては困る」
すると隣に、ここの住民らしき女性がやってくると水売りに硬貨を渡して水のボトル二本を持って行く。
俺は女性が渡した硬貨がベスタ銅貨だと気づいて、おかしいと思う。
「なんであの人は300ベスタで2リットルも持って行ったんだ?」
「あの人はこの街の市民だ。住民割りだよ」
「マジかよ」
どうやらこの水売りは、よそから来た冒険者からはぼったくって、この街の住民には安くで売っているらしい。
しかし困った。ここ以外に水売りはいないので、この男から買うしかないのだが。
「まいったな……」
こちらの焦りを溶かすかのように灼熱の日差しはサンサンとふりそそぐ。
トラブルが頻発して、俺の頭も少し朦朧としてきた。
一旦休んで……。いや、ダメだ水のことだけは今日中になんとかしないと。
そう思って俺は他に水を売ってくれる人か、使ってもいい水道がないか探してまわることにした。
炎天下の中一時間ほど探して回ったが、水売りはやはりあの男だけ。
それに水道らしきものはあったが、水が出ないように封鎖されているものばかりで、どうやってもあの水売りから買わせる仕組みになっているようだ。
「しかし……あっついな……」
道端のレンガに生卵を落としたら、そのまま焼き上がりそうなくらいの気温だ。
乾燥している為か、汗はあまりでないのだが、やはり水分補給だけは必要だ。
しかし休んでいる暇はない。そう思って自身を奮い立たせると、クラっとして倒れかけた。
「ちょっと大丈夫?」
後ろから俺の背中を支えたのはフレイアだった。
どうやらキャンプが完成し、一休みしてから追いかけてきたようだ。
彼女はいつもの魔術師ローブを脱ぎ、上は革のブラだけで、下はデニムのミニスカとロングブーツ姿になっており、どうやらこれが彼女の砂漠仕様らしい。
「ローブは着た方がいいぞ。これだけ気温が高いと皮膚が火傷してもおかしくない」
「ちゃんと耐熱オイルは塗ってるわよ」
まぁ俺がローブ着た方がいいって言ったのは、その零れ落ちそうな胸をなんとかしろという意味合いが強かったりするが。
俺とフレイアは街の広場にある、でっかいヤシの木の下で休んでいた。
「あんたさ……」
「なに?」
「視線が露骨すぎない?」
「そんな格好してるのが悪いんだろ」
ミニスカや露出度の高い服に視線が向いてしまうのは健全な男として致し方ないことなのだ。
「スケベ」
「悪い」
「別に謝らなくてもいいわよ。この格好あんたの気を引くためだし」
「…………お前、いつの間にそんなビッチに」
「しょうがないじゃん。全力ださないとウサギに持っていかれそうなんだし」
ふんとそっぽを向くフレイア。
「お前、可愛いよな」
「アタシはそんなありふれた言葉じゃ喜んだりしないわよ?」
バカじゃないのと自身のツインテールをはじくフレイア。
「内心は?」
「めちゃめちゃ嬉しい。もっと言って」
「素直な奴だ」
最近ツンの仮面がすぐ剥がれるようになったなと、俺は小さく笑みを作る。
俺は自身の水を飲もうとして水筒をだすが、中身が軽い。反対にして底をトントンと叩いても水は一滴も出てこなかった。
「アタシの飲む?」
フレイアが自身の水筒を差し出す。
「そりゃお前のだから自分で飲め」
「……水落としたこと気にしてるでしょ? あんた水が流砂に飲まれてからほとんど水飲んでない。だからふらつくのよ。あれは砂漠ではよくある事故なんだから、誰もあんたを責めたりしないわよ」
「水の補給が難しいんだ」
「あたしもさっき水の価格見たけど、あれを全員分買ったらスゴイ額になるわね。かと言ってあんた一人が我慢すればなんとかなるって問題でもないでしょ?」
「正論過ぎて耳が痛い。正直トラブルが続いて申し訳ない気持ちでいっぱいだ」
「なんで?」
「砂漠に来るならもう少し気を使った編成にして、装備ももっとちゃんとしたものにすればよかった」
「そうすれば流砂に装備を流されず、あの変なガイドにも騙されなかった?」
「それは……」
「あんたそういうやっちまったなって後悔するタイプじゃないでしょ? やっちまったらどう切り抜けるか考える。それだけよ」
「逞しい奴だ」
「男を立ち上がらせるのは女の甲斐性よ」
「男前すぎてやばい」
フレイアに元気づけられ、彼女の水筒を受け取り口をつけた。
「お前の水筒なんで飲み口こんなギザギザなんだ」
「噛むくせがあるのよ」
「吸血鬼みたいな奴め」
「こんなかわいい吸血鬼がいたら世界滅びるわよ」
「よく言うよ」
そう言って俺はフレイアの水筒を傾ける。
すると彼女は嬉し気な表情でこちらを見やっていた。
「どうしたんだ?」
「好きな男が自分の飲みさし飲むのって結構いいものね」
俺は水筒の飲み口と、フレイアの唇を交互に確認してほんの少しだけ心臓が高鳴った。
「そういう意識させること言うのやめろ」
「あら、意識してくれてるんだ」
だからそういう嬉しそうな表情はやめろ。
砂漠都市デート編じゃないんだぞ。
二人で話していると、休んでいる広場に人だかりができている。
なんだろうかと思い視線を向けると、そこには筋骨隆々の男が、弱そうな冒険者をノックアウトしているところだった。
「さぁ、他に挑戦する奴はもういないのか!? 条件はレアリティが俺と同じRより下で、武器やスキルの使用は認めねぇ。純粋な殴り合いだ。一回5千ベスタで挑戦できる。俺に勝てば、この水の魔法石をやるぜ! これがあればいくらでも水が飲める! どうだ!?」
男が手にした青い魔法石を掲げると、そこから水がダバダバと流れてくる。
周囲では俺と同じような問題に直面した冒険者たちが、どうしようかと悩んでいる様子だ。
あれだけ水が高ければ、こういう商売にでる奴もいるだろう。
「たった5千ベスタでこいつが手に入れば、ピラミッド攻略も勝ったようなもんだ!」
野次馬に紛れて俺たちも観戦に行くと、男は俺を指さした。
「そこの兄ちゃん、どうだいやってみないか?」
「えっ、俺か? いや、俺は王だからレアリティとかないんだが」
「ほー、王なのか」
男は俺の体をくまなく見ると、勝てそうだと思ったのかニカッと笑みを浮かべる。
「かまわねぇ、特別に王でもいいぜ!」
それなら、と思うがフレイアは俺の服の裾を引っ張る。
「やめときなさい。あいつ自分のレアリティと同じって言ってるけど、Rなわけないわ。最低でもHRクラス。今のフラフラのあんたじゃ一撃でのされて――」
「任せろ。元気づけてくれたお礼に、お前のためにとってくる」
そう言うとフレイアは言葉を失う。
「こっちが何にも言えなくなること言うな」
「女を守るのが男の甲斐性だ」
そう言うとフレイアは俺の背中をパンと叩いた。
どうやらお許しがでたらしい。
「頼りにしてるわよ」
引き留めて心配する言葉より、その言葉の方がよっぽど嬉しい。
「やるよ」
「いいね、こっちに来な!」
そして俺は筋骨隆々の岩石みたいな男と向き合った。
☆
「痛った……」
俺は見事なまでに、男にボコボコにされた。
目の周りには青痣できるし、奥歯は欠けるし、最悪だ。
疲れ果てて一歩も動けなくなってしまい、今はフレイアに膝枕されている。
「凄まじい泥仕合だったわね」
「最低な殴り合いだった。筋力以外に強弱がなかったからな」
石みたいな拳でガンガンぶん殴ってきやがって。痛いじゃすまないぞ。
それでも今フレイアの手には青い魔法石がにぎられている。
「まぁ、根性と忍耐であんたに勝てる奴なんかいないわよ」
「これが男の甲斐性だと言うにはあまりにも恥ずかしい」
「相手、もうゾンビ相手にしてる気分だったでしょうね」
「何回頭の上に星が飛んだかわからん」
「あんたさ、これ以上アタシの好感度上げても上がらないわよ?」
「なら優しくちゅーの一つでもくれ」
冗談でそう言うとフレイアは本当に膝枕した状態でちゅーの一つをくれた。
惜しむらくは唇切れてて、感触がさっぱりわからんことだ。
「…………」
「ク、クロエには内緒にしておいて。なんかスイッチ押しそうだし」
俺はがばっと立ち上がって両手を掲げた。
「やったぜちゅー貰った!!」
「やめろ!」
俺はフレイアに後頭部を殴打されて倒れた。
岩石男なんかよりよっぽど痛ぇ。
とにかく水はなんとかなりそうだった。
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