第150話 王の帰還Ⅴ
「ハッハッハ、どけどけ! 王様のお通りだ! 今までの俺と同じと思うなよ。帰って来た俺は強い! どんな漫画でもアニメでも、大体帰ってきた奴は強くなってる法則だ!」
黒鉄で貴族兵たちを斬っては魂を吸い込み、斬っては魂を吸い込みをくりかえしていく。
もうじきレイランとエーリカが見える。二人を熱いキスで目を覚まさせてやろう。
俺の脳裏に超絶イケメンになった自分と、うっとりとする二人の顔が思い浮かぶ。
「咲、今スケベなこと考えてるでしょ?」
隣に跳んできたオリオンがジトっとした目を向ける。
「ああ、俺は今スケベなことを考えている!」
「うわ、言い切りやがったよコイツ」
「いいことを教えてやろうオリオン、俺がこの顔になったのは可愛い女の子とスケベなことがしたいからだ」
「100%下心じゃんか!」
「前の顔では壊れるほど愛しても三分の一も伝わらないが、この顔なら1000%伝わる! ドキドキで壊れそう1000%ラブ!」
「うわ、やばい。ソフィーなんか目じゃないほど咲の方が残念だ」
「おらどけぇ! 下心なめんじゃねぇ!!」
次から次へと迫る敵を駆逐し、二人への道を作った。
やっとの思いでたどり着くと、その様子を怪訝そうな目で見るエーリカとレイラン。
「お前……誰ネ?」
「あなたは……」
二人は久々の再会に驚いているようで言葉も出ないほど感激しているようだ。
「いや、単に警戒してるだけだと思うぞ」
「会いたかったぞエーリカ、レイラン! 可哀想に俺がいなくなったせいで力が減退しているそうじゃないか! さぁ今すぐ元に戻してやるからな!」
「はっ?」
「えっ?」
だが、キスをしようとして、二人のおびただしい傷に気づいた。
彼女達はどこもかしこも傷だらけで、傷のないところを探す方が難しい。
顔は返り血に染まりドロドロで、彼女達の美しい髪も引っ張られたのかバサバサで泥にまみれている。
個人で見ても、レイランの腕はとれかかっているし、エーリカの装甲はバチバチと青い電気が走っていて、激戦だった様子が伺える。
傷は今できたものだけじゃない。彼女達の美しい肢体にはこの城を守る為についた、いくつもの傷跡があったのだ。
その傷に、俺のうかれた下心は霧散し冷静さを取り戻す。
それと同時に怒りがふつふつと湧いてきた。
よくも俺の可愛い女の子を傷つけてくれたなと。
「…………そこで休んでていいぞ。後は俺が片付ける」
王とは民を守るものであり、その民の中には勿論チャリオットも含まれている。
アホなことをして忘れかけていたが、俺の力はそんな者を守るために身に着けたものだ。
「剣神解放、剣影具現化」
コマンドにより薄くなっていた剣影が具現化を果たす。
骸が実体化したのと同時に、場の空気が一気に重くなった。
剣影の霊気に触発され、周囲を青白い人魂が舞う。体から抜けて間もない人魂は自身の体を探してウロウロと彷徨う。
「纏衣百式甲冑、装甲」
骸の侍にいかめしい鎧が装着され、中空に六本の手甲が舞う。
阿修羅を模した六本の手甲は、鬼の装飾をされており、さながら鬼の顔が宙に浮かんでいるようにも思える。
「金剛両断刀、抜刀」
骸の侍は巨大な刀を引き抜くと、中空に浮かんだ六本の腕が刀を具現化させ、力強く握りしめる。
完全武装を終えた剣影は刀を握りしめた阿修羅像の如く仁王立ちし、ため込んだ魂の総量だけ力を増幅させる。
いかめしい鎧にはいくつもトゲのようなツノが伸び、鬼を模した姿の侍はこの世からあの世へと連れて行く鬼神である。
「叩き切れ」
俺は掲げた刀を振り下ろすと、七本の金剛両断刀が振り下ろされ、地面が切断、いや爆破される。
巨大な刀の衝撃はもはや斬撃というより、爆撃であり、周囲を囲んでいた貴族兵達を一瞬にして吹き飛ばしてしまう。
その光景に誰もが口を開き、言葉を失った。
「なんネ……この力は」
「強い……」
「大丈夫か二人とも」
「……あなたは誰ですか?」
ポカンと口をあける二人に、ようやく俺は自分の顔がかわっていると伝えてないと気づく。
「あぁ、ごめん、俺だ俺」
「結婚詐欺師だよ」
俺はオリオンの頭を両拳で締め上げる。
「今いいとこなんだよ」
「痛い、ごめんごめん!」
「悪いな二人とも、しまらない帰還で。もう少しカッコよく登場できたら良かったんだが、俺のスペックではそんな感動的なシーンを演出できないらしい」
「でも、その方が咲らしくていいと思うよ」
レイランはまだ信じられない様子だったが、右手に酷い火傷を見つけ、驚きに目を見開く。
「お前……まさか……本当に」
「ああ、この通り顔と体はかわってるけどな」
「本当に……王、なのですね」
「今まで城の防衛ご苦労。二人がいなければ、ここはとうの昔に落ちていただろう。二人の忠義によって国は護られた。こんな無責任な俺を信じて待ち続けてくれた愛すべきチャリオットに感謝する」
俺はまた立ち上がって来た貴族兵たちに向かい、二人に背を向けた。
その後ろでエーリカはヘルムをとるとその場に跪いた。
「お帰りなさいませ」
「ああ、遅くなった。ただいま」
少年の笑みと、どんなときにでも前に出るその背中が記憶の中の人物と一致して、二人はわなないた。
「あぁ……あぁ……」
レイランは口元を覆い、頬に一筋の涙の線を描く。
「王のご帰還、心よりお待ちしておりました」
「よせよ、今のところまともに帰還報告ができたのはディーくらいなんだ。後は全員いつものノリだ」
「あなたの……あなたの為に、我らは……我らは今日この日まで戦ってきたネ……」
「うん……ありがとう。こんなときなんて言うかわかんないんだが……時代劇とかだと大儀であったとか言うのかな?」
「また、この身があなたをお守りできることを大変嬉しく思います」
「ああ、よろしく頼む」
二人は感極まったのか、嗚咽をもらす。
「それよりお前たちは下がってろ。後は俺とオリオンとソフィーでなんとかする。調子悪いみたいだしな」
そう言うと二人は顔を見合わせ、咳払いをする。
「ん、うん? 誰がそんなこと言ったネ?」
「本機は正常です。このようなものに遅れはとりません」
「無理すんな。遠目から見て、かなりやばそうだったからな。リリィたちに聞いた、かなり調子悪くてHRクラスぐらいまで戦闘能力が落ち込んでるって」
「そんなの嘘ネ」
「そのような誤解を招くようなことを王に吹聴されるのははなはだ遺憾です」
エーリカはヘルムを被りなおし、レイランは長い黒髪をかきあげながら前に出ると、己の体にエネルギーを漲らせる。
「コア活性率98%正常値です」
「ワタシも生まれ変わったみたいに調子がいいネ」
「アンデッドが産まれかわるとは、自虐ですか?」
「黙れポンコツ。お前はそこで指をくわえて見てるといいよろし」
「あなた一人に任せるなど、そんな危険なことできるわけありません」
「なら、どっちがチャリオット最強か、いい加減決めるよろし」
「いいでしょう。いい加減こちらも白黒つけたいと思っていましたのでね」
二人はその手に銃と青龍刀を持ち、先ほどまでの弱々しい雰囲気を全く感じさせない力強さで跳躍する。
邪教徒化した貴族軍の殲滅は再起したエーリカ、レイラン、ディー、オリオンの活躍でひとまずの終結を見せた。
幸い聖紋とやらはウチのチャリオットに転移することはなかったようで安堵の息を吐いている。
その後、教会からエクソシストとプリーストを呼び邪教徒化した遺体に封印処理をほどこして貴族は自身の領地へと無言の帰還を果たしたのだった。
ソフィーに封印処理とやらをやらせようかと思ったが、リアルに失敗しそうなのでやめた。
アギ、アデラ、キュベレーのアマゾネス部隊も急遽呼び戻され、王の帰還を祝した宴会が開かれることになったのだが、ぶっ壊してしまった領地内の施設や、オリオンの断空剣でつくった巨大な轍を先に直すことにし、俺は帰ってきてすぐに木材を肩に担ぎながら復旧作業に追われるのだった。
避難していた領民たちからも、お帰りと次々に声をかけられ、どうやら俺が不在だったのはバレていたらしい。
「帰って来たぞーーーーーーーー!!」
俺は天に向かって大声をはりあげる。
「お帰り咲。今度は勝手にどっか行ったらダメだからな」
「王様、この石重いです、どかしてください」
「王様、帰って来た。帰って来なかったら我らアマゾネス、とても困ってた」
「今後、勝手にいなくならないよう注意しなさい」
「おい、小僧、リカールがいい酒をまわしてくれたぞ!」
「兄貴、ぶっ壊したスターダストドライバー修理しときやすぜ」
「あらあら王様帰ってきてくれたんですね。これで寂しい夜をすごさなくてもいいのですね」
「やめてクロエ、本気で若い燕狙うような目しないで」
「王よ、執務が山積みになっていますので、しばらく缶詰ですよ」
「ワタシの方が多く敵を倒したネ」
「最後に貴族を討ったのは本機です」
「ホッホッホやはり王様が帰って来ると違いますな」
「王様、ボク王様がいなくなってから一杯修行しましたよ! 見て下さいワンワン!」
この騒がしい異世界に帰って来れたことに安堵する。
これからも俺たちの騒がしい異世界でのチャリオットライフは続いていくのだろう。
俺たちの戦いは……続く!
王の帰還 了
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打ち切り最終回っぽい終わりですが、次回から邪教の館編が始まります。
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