第115話 父

 突如俺を呼び出したのは、一歩先の男もとい包茎フェイスマスクの少年だった。

 どうやってこちらのアドレスを知ったのか知らないが、奴の誘いに乗って俺は再び学校近くで少年と再開する。

 直後灰色空間、アストラルフィールドが展開され、駒を目当てに襲ってきたのだった。


「ファーストイグニッション!!」


 アストラルフィールドに入ったことで、スターダストドライバーの変形機構が解除され拳から衝撃波を放つが、どうにも威力が弱い。

 パー君の時ならもっと威力は高ったはずなのに、思うように力が出なくてイラついていると、包茎少年が目の前で剣を肩に担いで不思議そうにしている。


「君、誰?」

「襲っておいて誰はないだろう」

「君もっと美形じゃなかった?」

「悪かったな美形じゃなくて」

「でも駒は持ってるし、攻撃方法は同じ。ってことはあれか……それが君のもとの顔か」


 パー君ではない姿であうのは初めてなので、へーっと包茎少年は笑みを浮かべている。


「変更前の容姿を保存しておくなんてできるんだね、初めて知ったよ。まぁ君が容姿にステータスを振りなおしたくなる気持ちはよくわかったよ」

「人の顔面見下してんじゃねぇぞ、この野郎!」


 スターダストドライバーの二撃目を放つ。


「セカンドインパクト!!」


 ガントレットの数字がⅡからⅠへと切り替わり、拳から深紅の衝撃波が放たれる。

 一発目と比べ強力ではあるが、やはりそれでもパー君の時の一発目には及ばない。

 包茎少年はやすやすとそれを剣で受けきる。

 二発目が弾かれ、俺は逆に自身の衝撃に耐え切れず吹き飛ばされる。


「ぐああああっ!!」


 地面を転がり膝をつくと、突如腕に痛みが襲う。何か見えないカウンターでも貰ったのかと思ったが違うようで、ガントレットの関節部がビクビクと震えている。


「クソ、なんなんだこれ。スターダストドライバーがおかしい」

「その魔器が撃った分のエネルギーを君から吸収しているだけだよ」

「な、に……」

「だから魔道具は欠陥品が多いんだよ。でも、それは分かりやすい方だね、放出したエネルギーを吸収するだけだし」


 くっそ、今更になってそんな副作用的なものに気づくとは。


「本来は魔力を吸うみたいだけど、魔力がないから生命力を吸ってる感じかな。撃ちすぎると死ぬよ? こっちとしては願ったり叶ったりだけど」

「うるせー、こんなところで死んでたまるか!」


 俺は右腕に最後の力を込める。

 腕が金色に煌めき、虹色の粒子が腕から放出される。

 右腕にエネルギーを溜めるかわりに自分の生命力をガソリンとしてガンガンくべているのがわかる。

 撃つ前に倒れそうな体を必死に支える。


「勝手に自滅しそうだね」

「お前の駒を渡せ!」

「それはこっちのセリフだよ」

「なら、お前を落とす! ファイナルスターダスト!」


 ガキンとリボルバー弾倉が回転するような音がして、肩の数字がⅠから0へと切り替わる。

 スターダストドライバー最後の弾頭は金色の拳となり撃ち放たれるが、少年にかすりもせず威力は霧散していく。


「本来の一割の力も出せていないね。俺とやりあうときはあの美形で来た方がいいよ。あっちの方がまだマシなアバターだ。まぁ次があればの話だけど!」


 それから一方的な攻撃は続き、更にスターダストドライバーに生命力を持っていかれ、全く抵抗できないままズタボロにやられる。

 ほんの数分で俺はボロ雑巾のようになり、少年の前に横たわる。


「ほんと君よく二周目入れたよね、その弱さで……どうしよっかな、いつでも駒は奪えるってことはわかったし、君をエサにして他を集めた方が効率良さそうだな。ってことで今日は帰してあげるよ」


 少年はにこやかに壊れた笑みを浮かべてその場を立ち去る。


「畜生、待ちやがれ……」


 かすれた声は誰にも聞こえず、響きもしない。

 そしてどれくらいの時が経ったかわからないが、アストラルフィールドは解除され、動けないままになった俺は地面に横たわっていた。




 目を覚ますと、そこには見知らぬ天井があった。

 真っ白で染み一つない。煌びやかな電灯が目に入り目を細める。

 どうやらベッドに寝かされているらしい。全身が痛くて動く度に痛みが走る。

 窓の外には白銀総合病院と書かれた巨大な病院が見える。日は高く上っており、どうやら丸一日眠っていたらしい。

 点滴の雫を眺めていると、ガチャリと音がして寝ころんだまま首を傾ける。

 するとそこにはオールバックで和服姿の強面のおっさんが俺を見ていた。

 おっさんが近づくと、俺はアルコールの臭いに顔をしかめる。このおっさん顔には出ていないが相当飲んでいるだろう酒臭い。

 おっさんは首にかけた聴診器を俺の胸に当てると、しばらくして耳から聴診器を外す。


「大丈夫なようだな」

「あの、ここは……」

「私の家だ。お前は血まみれで路上に転がっていた」

「すみません、助けていただいたみたいで……」

「私が何者なのか? という顔だな。私はただの金持ちで偉い医者だ」

「…………」


 その金持ちってとこいる? 自己主張激しいなと思いながらも助けてもらったことに感謝する。


「切創、裂傷、刺傷、挫傷、火傷、脱臼、よく生きてたものだな」


 男は生きていたことを喜んでいると言うよりは、悪運が強い奴めと皮肉っているように聞こえる。


「久しぶりに生の患者を診た」

「あの、お医者さんなんですよね?」

「そうだ偉くて金持ちだ」


 いや、金持ちのとこは言ってないけど。

 だから、それいる? と首を傾げずにはいられない。

 しかしながら、部屋の中には医療用の機器が揃っており、とても素人が扱えるものではないとすぐにわかる。

 俺は上半身を起こして礼をする。


「助けてもらいありがとうございます。梶勇咲と言います」

「ふん、礼をされる覚えはない」


 男はそっぽを向くと、部屋に燕尾服の初老の男性が入ってくる。


「旦那様、金暮かねくれ様がお見えになられていますが」

「どうせ金の無心にきたのだろう。追い返せ」

「かしこまりました」


 執事らしき男性が下がると、男は苛立っているようで、強面の顔を更に強張らせている。

 男は懐から銀色のウィスキーボトルを取り出すとそのまま煽る。


「どいつもこいつも……」


 男の目は座っており、そこからは苛立ちや諦観が感じられ、世界を呪っているようにも見える。


「あの、俺が言うのもなんですが相当飲んでいるみたいなので控えた方が……」

「子供に何がわかる! 黙っていろ!!」

「す、すみません」


 怒鳴られて萎縮する。男はもう一度酒を煽ると、手近な椅子に腰を下ろした。


「すまんな……最近、いやここ数年よくないことが続いていてな。酒がやめられんのだ。おかげでメスを握ることもできず、医院長という肩書と共にここに引きこもっている」


 男は窓の外に見える白銀総合病院を指さす。


「白銀病院……」

「白銀鉄男だ。昔はブラックジャックか鉄男かと言われていたくらいの天才だったが今はただの金持ちになりさがっている」


 このおっさん謙遜したいのか金持ちアピールしたいのかイマイチよくわからん。


「そ、そうなんですか……」

「私には子供がいてな。丁度お前くらいの歳の女の子だ。唐突に現れた子供だ……」

「唐突に現れた?」

「隠し子というやつだ。全く知らなかった。一晩の過ちで抱いた女が出産しているとは思わなかった。皮肉なもんだ。きっとあの女は今の私の状況を見てザマァミロと思っているに違いない」


 鉄男は酔っているのか、全く関係ない人間に語りたかったのかは知らないが、饒舌で鉄男からしたら壁にでも話しかけている気分なのだろう。自嘲気味に笑う姿はどことなく哀愁を感じる。


「子供の名は黒乃と言う。私が黒色が好きだからそう名付けたに違いない。皮肉がきいている」

「黒……乃?」


 俺は外にある白銀と、黒乃という名前でピンと話が繋がる。


「あなた、まさか一条の……」

「お前、黒乃の知り合いか?」

「ええ、そうです……その、お父さんなんですよね?」

「ふっ、あの子にも同じことを言われた」

「それで、なんと?」

「お前に父と呼ばれる言われない。お前さえ産まれてこなければよかった、とんだ誤算だと怒鳴ってから知らん。そのおかげで父にも愛想をつかされるし、私の人生は狂いっぱなしだ」


 そう言って鉄男は再び酒を煽る。


「本当にとんだ誤算だ。あの子のせいで父からの援助は打ち切られるし、病院にも私の居場所はなくなった。親族にも隠し子の、と後ろ指をさされる。なぜ今になってでてきたのか、そのまま隠れていてくれれば良かったのに。父があんな子を見つけてこなければ……」


 俺は自身の胸についている器具を全て取り払い、フラフラな体になんとか活を入れて立ち上がると、無傷なくせに俺より力の入っていない男の胸ぐらを掴んだ。

 本来助けてもらった人にこんなことするのはどんな礼儀知らずなんだって思わずにはいられない。

 だが、この男が俺の無責任な母親と被って仕方がない。


「ふざけるなよオッサン。自分が撒いた種だろうが、それを子供や周りのせいにしてんじゃねー。とんだ誤算だと? 誤算で産まれてきた子供の気持ち考えたことあんのかよ!」

「な、なんだ! はなさんか!」

「誰かが自分の人生狂わせたみたいな言い方すんな! 自分が勝手に気持ちよくなって狂ったんだろうが! あんたが狂ったところから戻ってこれないのはその事を認められてないからだ!」


 唐突に怒り狂い始めた俺を見て鉄男は困惑する。


「なんなんだ貴様は!」

「産まれてこなければ良かったなんて、自身の生を否定された一条がどれだけ傷ついてるのかわかってんのか! 自分が被害者みたいなツラしてんな! 生まれてきた真っ白な命に親が泥かけてんじゃねー!!」


 怒鳴り声を聞いて、先ほどの執事が戻ってきて俺を羽交い絞めにしておさえる。


「こら、やめなさい!」

「一条が不幸の中から産まれてきたみたいな言い方しやがって! 親が愛さなきゃ誰が子供を愛するんだ! 愛されなかった子供がどうやって人を愛するんだよ! 離せ! いい歳して自分の子供にびびってるだけだろうが! 自分が作った命に怯えてるだけだ! あいつは今誰にも頼れなくて毎日怯えてるんだぞ!」

「!」

「旦那様に無礼なことを言うな!」


 執事の数が増え、三人がかりで俺は床に押さえつけられる。


「畜生、あいつが何したって言うんだ……子供にとって親はあんたしかいないんだぞ……あんたに見捨てられたら一条は何にすがって生きていきゃいいんだよ……」


 一条がこんな無責任な男の子供と思うと涙が流れてくる。

 俺の中で事故で死んだ親父と、他の男と再婚して一切俺に関心を示さなくなった母親が脳裏に映る。


「何て礼儀知らずな子供なんだ! 旦那様に助けていただいた御恩を仇で返すとは」

「どうなさいますか、警察に突き出すか、親の連絡先を聞きだして……」

「……よい、離せ」


 鉄男は手を振る。


「よ、よろしいのですか?」

「構わん……」


 俺は解放され、おっさんの前に立つ。


「お前、名は?」

「梶、勇咲です」

「勇咲か……親は?」

「……父は死にました。母はもう何年も見てません」

「……そうか」


 鉄男はウィスキーボトルに手を伸ばそうとして思いとどまった。

 ボトルを机の上に置く。


「少し、つき合え」

「どこに?」

「偉くて金持ちの私でも一人では行けない場所だ」



 言われて俺はおっさんに連れられて高級車に乗り込むと、そのままどこぞへと連れて行かれる。

 このままどこかの山に放置されるんじゃないだろうかと冷や冷やとしたが、おっさんが向かったのは墓地だった。

 緑の多い山間に作られた墓地は日当たりが良く、墓石は日の光を反射している。

 鉄男は木桶に水をくみ、どこから湧いて出たのか執事から美しい桃色をした仏花を受け取り墓地を歩く。

 やがて一つの大きな墓の前に立つと鉄男は花を供えた。

 予想通りその墓石には一条家と書かれており、一条の親父は線香に火をつけ、墓石を拝んだ。


「……妻……と呼んでやることもできなかった哀れな女の墓だ……」

「…………」

「この石はダメだな。撤去しよう」

「なんでそんなことするんです!」


 憤る俺を前にして、鉄男は悲し気な目で墓石に刻まれた一条の文字を見据える。


「…………一条の姓では私が入れんだろう。それに、これは私の父が建てたものだ……妻の墓くらい夫が建てるべきだろう」

「…………そうですね」


 カコンと木桶を落とす音がして振り返ると、そこには真っ黒なワンピースを着た一条が驚いた表情でこちらを見ている。


「……父……白銀……さん」


 一条が父と呼びかけて、言い方をかえる。


「黒乃……」


 俺はここにいたら邪魔になるなと思い、ゆっくりフェードアウトしていく。

 一条は近づいてくると、墓石に向き直った。


「ここ……、いいですか?」

「ああ……」


 静かで冷たい空気と、線香の匂いだけが漂う。

 立ったまま黒乃を見据える父親と、拝み終わった黒乃が立ち上がる。


「もうじき……命日ですね……」

「ああ……黒乃……」

「はい……」

「……お前は白銀の姓を名乗りなさい」

「……それはどういう?」

「産まれたことを誤算と言ったこと、父と呼ばれる覚えはないと言った事を詫びる」


 鉄男は黒乃に深く頭を下げた。


「えっ……あっ……」

「不出来な父であるが、お前のことをこの白銀鉄男の娘として受け入れさせていただきたい」


 黒乃は目を白黒させると、やがて微笑みを浮かべた。


「……父さんと呼んでも……いいんですか?」

「私をそう認めてくれるなら」

「……はい、父さん」


 母の墓前で、父と娘が和解する。

 良かったな。

 隣で執事がグズグズと泣いている。


「本当に、旦那様……よか、よか、うぉぉぉぉぉいうぉぉおぉおぉい」


 うるせーなこの執事、こっち気づかれるだろうと思ったら、予想通りバレた。ばっちり目があった。

 一条は完全になんでここにいんの? みたいな顔をしている。

 一条の喪服可愛いな。もう一条は何着たって可愛いな。


 鉄男は一条、今はもう白銀と一緒にこちらにやって来る。


「お前の知り合いなのだろう? 彼の後押しがなければ、こうならなかった。クラスメイトか彼氏かなのだろう?」

「……下着……ドロ」

「…………」


 なんか後ろの執事からカチャって黒光りする、九の後に続く数字みたいな武器が見えるんですが。

 一条さん、そのオチはあんまりなんじゃないでしょうか。


「嘘……とも……だち……」


 一条が少しだけはにかむと、俺は心の中で「ホレてまうやろがーーー!」っと叫ぶ。

 既に手遅れだと自分でも気づいてはいる。


「そうか……友達は大事にしなさい」

「……はい、父さん」






 その夜、鉄男は父、源三の屋敷を訪れていた。

 一升瓶片手に気持ちよく横たわるちんちくりんの爺の隣に鉄男は正座する。


「誰じゃあ……お前か、酒がまずくなる、さっさと出て行け」


 源三は寝返りを打つと、鉄男からそっぽを向く。


「父上、この度一条黒乃を正式に白銀鉄男の娘として迎え入れたくお願いに上がりました」

「…………」


 源三は上半身を起こしてあぐらをかくと、くわーっと大きな欠伸をする。


「お前が良くても黒乃ちゃんが嫌って言ったらダメじゃ」

「本人には既に確認をとりました」

「…………どういう風の吹き回しじゃ。今の今まで逃げ回っとったくせに」

「良い歳して自分の子供に怯えるなと叱られまして」

「ククク、ワーッハッハッハッハッハそいつは傑作じゃ。そんなこと誰に言われたんじゃ?」

「梶という少年で、同じ様に親に無視され続けて生きてきたようです」

「ほぉ……して、今の気分はどうじゃ?」

「……今までの自分が恥ずかしい限りです。己のことしか考えずに生きてきた事がよくわかります。医者という人を救う立場でありながら、自身が人を一番傷つけていたと理解しました」


 鉄男はウイスキーのボトルを源三に差し出す。


「相変わらず気の利かん奴じゃ、ワシ洋酒は嫌いだと言っておるじゃろう」


 しかし源三はボトルのコルクを抜くと、二つのグラスに琥珀色の酒を注ぐ。

 いつもであれば、こんなもんいるかボケーっと罵ってボトルを投げつける源三であったが、今日だけは鉄男の話を聞いてやろうと言う気になっていたのだった。


「まぁ、自身の娘と認めると急に愛着がわいてくるもので、とても可愛く思えてきます」

「じゃろう、一番不幸なのは実はお前なのじゃぞ。あんなにも可愛い黒乃ちゃんと一緒に歳を重ねることができんかったのじゃ。子供の時が一番手がかかり楽しい時だと言うのに、後はもう高校卒業と大学、結婚式しかない。そうなったらあの子はお前から離れていくんじゃ」

「そうですね……後悔しております。一緒に生きられなかったことを」

「じゃろう」


 源三はツマミのスルメをむしゃむしゃと食いながらウイスキーをがぶがぶ飲んでいく。


「ええ、私は本当に……」


 目が赤くなった鉄男に源三は酒を飲ます。

 鉄男はなぜあのように自身の娘を認められなかったのか、なぜあのように酷い言葉をかけてしまったのかと思い目じりに涙を貯める


「お前は気を失っていて知らんかったかもしれんが、昔初めて黒乃ちゃんと会った時、ワシがキレてお前をボコボコにしたが、その時、間に割って入ったのが黒乃ちゃんじゃ。お父さんを許してくださいとお前をかばったんじゃ」

「そんなことが……」

「子は立派に親を守った。しかしお前は子を守らんかった。一生後悔せい。それがお前の罪じゃ。いつか黒乃ちゃんが幸せになるまで悔やみ続けろ」

「はい……父上、もう一つお願いがあります」

「なんじゃ、病院の融資再開か、しゃーないのー、ワシ酔ってるから再開してやっても……」

「いえ、違います。黒乃を後継ぎにしてやりたいのです。まだ、本人に確認はとっていませんし、親族から批判もあるでしょうが、どうか黒乃を」

「お前、ちゃんと教育もしとらん黒乃ちゃん跡取りにするって相当きっついこと言っとるぞ」

「ええ、あの子は恐らくそれを望まないでしょう。ですが、あの子が親族から陰口を叩かれるのは親として許せないのです。堂々と表に出してやりたいのです」


 源三は早くも空になったウイスキーボトルの中を覗きながら、自前の日本酒を押入れから取り出し、封を開ける。


「…………考えてやる」

「ありがとうございます」

「それと早いのですが、結婚相手も決めております」

「お前そんなこと勝手に決めたら黒乃ちゃん怒るぞ?」

「いえ、きっとあの子もそれを望んでいるはずです」

「ほぉ、言い切りよったな。ん、ちょっと待て、お前まさか」

「はい、梶勇咲を許嫁としたいと思います」

「ん゛ん゛ん゛ん゛んん? それはちとまずいんじゃないんかのー?」



 翌日、源三が発した報せは白銀家全体を揺るがすものであった。

 白銀家の跡取りを白銀揚羽、白銀黒乃の二人のどちらかに絞り込んだというものだった。

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