第15章 剣神解放

第113話 悪魔

 俺が外に出てすぐだった。

 プハーとキセルの煙を吐きながら、先ほどのヤンキーを下敷きにしてくつろいでいるエロ爺の姿があった。

 どうやら俺が駆けつけるよりも早く、エロ爺にノされたらしい。


「見てたのか爺さん」

「まーのー」

「爺さんあのビルのオーナーだろ。客が困ってるなら助けてやれよ」

「ワシ基本民事不介入じゃから。まぁしかし見て見ぬふりしよった店員は解雇にしとく。私服警備員も何人か増やすかのー」


 そうぼやきながら爺はヤンキー少年のポケットをまさぐると、スマホを抜き取り俺に放り投げる

 俺はスマホを開いて一条が土下座させられている写真を全て消す。


「これで一安心」

「ぬるいの青二才」


 エロ爺はスマホを奪い取ると、ヤンキー少年のズボンを脱がして股間をパシャパシャと撮影する。

 そしてスマホのメモ帳に、また同じことをしたらこの写真をばら撒くぞと脅し文句を残してヤンキーのスマホを戻した。


「やりすぎじゃない?」

「アホはこりんからの。それがアホがアホたる所以じゃが。女の子を土下座させてSNSに晒してたクズの制裁にしては優しい方じゃ」

「そりゃまぁ確かに」

「ところで青二才、お主見えたか?」

「何を?」

「もう一人のクロノちゃんじゃ」

「えっ、あれ見えないもんなの? いきなり背中からすーっと出てきて」

「そうか見えとったか……あれが何か知りたいか?」


 爺は神妙な面持ちで俺に顔をよせる。


「何かわかるのか?」

「本来人に話してはならぬもの。耳を貸せい」


 俺は爺に耳を寄せる。

 すると爺はふーっと俺の耳に熱い息を吹きかけた。

 俺は爺をぶん殴った。


「痛い! なにするんじゃ最近の若いもんは! こんないたいけな老人の軽いジョークに本気になるとは!」

「くだらねーことしてんじゃねぇよ!」


 デビルなんとかって奴よりイラっとしたわ。


「ほんに余裕のないやつはこれじゃから。あれはクロノちゃんの自我みたいなもんじゃ」

「一条の自我……? というか爺なんで一条のことを知ってるんだ?」

「黒乃ちゃんはワシの孫じゃからな」

「はっ?…………はぁっ!?」

「ちなみに最近お前と仲良い揚羽ちゃんもワシの孫」

「はぁっ!?」

「なんでそんなブチギレとるんじゃ」

「いやいや、あのエンジェルに爺さんの遺伝子が入ってるとは到底考えられなくて。ん……ちょっと待て、てことは爺さんが揚羽の爺ちゃんってことは超金持ちなんじゃ」

「そっ、ワシ超金持ち。お前さんを女子寮に入れてやったのはワシじゃ、感謝せーよ」

「ま、マジかよ。下着ドロでいい加減な爺さんが、白銀家の……」

「総帥ってやつじゃな、ウハハハハハハハ」

「まぁでかい会社のトップってネジの一つや二つ飛んでるもんだと思うが、爺さんネジ残ってんのかよ」

「失礼なこと言うな。ワシまだまだ現役じゃから。明日五星館に来い、話をしてやる。あっ、お前の唯一無二の友達か彼女連れて来い。そんなもんおったらの話じゃがな~」


 ウハハハハと耳に残る笑い声を残してエロ爺は機敏な動きで消えていく。

 残された俺は衝撃的な事実に目をパチクリさせるだけだ。


「なんで友達か彼女連れてこなきゃならんのだ……あっ、一条のとこ戻らなきゃ」


 俺はゲームセンターに戻り、一条にデータを全て削除したことを伝える。


「ありが……とう」

「いやいや、マイエンジェルの為ならこんなこと」

「エンジェ……ル?」

「いや、気にしないでくれ。どうする送って帰ろうか? うん、そうしよう」

「梶君……わたしのアレ……見えた?」

「アレというのは?」

「わ、わからないなら別にいい。先に帰るから……」


 一条は俯きながら走って帰って行ってしまった。

 どうやらヤンキーから救った程度では彼女の信頼を取り戻すことはできなかったらしい。


「下着ドロは脱却できずか」


 俺は軽く肩を落とした。



 その数時間後。

 デビル花ちゃんと、ヒロヤたちヤンキーは深夜の公園にたむろしていた。


「マジひどい目にあいましたね」

「あいつら最低だぜ。俺様の聖剣を激写してばら撒くぞなんて人間のやることじゃねぇよ。つか気絶してたから俺のエクスカリバーも、ゴブリンソードくらいになってたっての」

「ヒロ君、違いがよくわかんないよ」

「マジかよ、お前ゴブリンソード知らねーの? ダセェ奴」


 友人のヤンキーたちは首を傾げていると、そこにプリプリと怒り狂った花ちゃんがブランコから飛び降りてきた。


「ちょっとヒロヤ、いつまでボサッとしてんのよ」

「どうしたんだい花ちゃん? また悪魔的な何か思いついたのかい?」

「復讐よ復讐。今のアタイはリベンジャーのアベンジャーなのよ!」

「かっこよすぎるぜ花ちゃん!」

「あいつらの制服見たことあるわ。高校で待ち伏せてボコボコにしてやるのよ。じゃないとアタイの気が済まないわ!」

「ヒューッ、花ちゃんがやるっていうなら俺も」


 ヒロヤが無駄にテンションを上げていると、ふと気配がして振り返る。

 すると、制服姿の女の子が公園の入り口からゆっくりと向かってくる。


「なんだなんだ姉ちゃん、俺たち今大事な話し合い中で悪魔的なサムシングなわけ? わかる? わかりる?」


 ヒロヤとデビル花ちゃんはその少女に近づいていく。


「アタイ今むしゃくしゃしてんのよ」

「オーオー今の花ちゃんはこえぇぞ! キレたナイフのような女だからな!」

「アタイこの女の土下座が見たいわ! あんたガンつけたでしょ、土下座しなさいよ!」

「そうだ、土下座しろ土下座!」

「なんとか言いなさいよ、このアマ! ビビってんの!」

「ヘイヘイピッチャービビってる!!」


 デビル花ちゃんが少女をどんっと突き飛ばすが、少女の体は石のように固く身じろぎ一つしない。


「な、なんだぁ?」


 少女が顔を上げると、その顔が歪み、気味の悪い角の生えた髑髏へと変貌する。


「ひ、ひゃぁっ、なん、なんなんだ!?」

「お、驚かせようたって無駄よ、アタイはお化け屋敷で驚いたことが一度もないのが自慢なのよ!」

「そ、そうだ、花ちゃんは人より図太いって有め……」


 髑髏顔の少女が手を振るうと、突如ヒロヤの顔に血しぶきがかかる。

 最初それが何かわからず、驚いて腰をぬかす。


「な、なんだよこれ……」

「あぁ、あぁ、うわあああああああっ!!」


 他のヤンキー少年たちは悲鳴を上げながら逃げ出す。


「あっ、ちょ、どうしたっていう……」


 ヒロヤは目の前を見て絶句する。

 そこには首のない花ちゃんが血しぶきを上げながら前のめりに倒れたのだ。


「はぁっ……はわわあああわああああああ! うあああああああああっ!!」


 慌てて立ち上がり、つんのめりながらもヒロヤは逃げ出した。

 しかし、見えない何かに足を掴まれ転倒してしまう。


「ああああああっ!! 助け、助けて!!」



 崩れた花ちゃんの死体の前で、悪魔は自身の体を引きずっていた。


「苦しい……痛い……喉が、渇く……助けて、天地君」


 悪魔の目には虚ろな光が宿り、ゆっくりと体を引きずって歩く。

 彼女の付き従うよう、同じように目に危険な光を灯した少年、少女達がゆっくりと歩く。



 ☆





「サーキーーーーーー!!!…………サーキーーーーーー!!!」


 ボロい城の上で、剣士風の少女が大声で何かを叫んでいる。


「見てて不憫になってくるな」

「王がいなくなって既に二か月が経つ、不安になるものも多い」

「どこほっつき歩いてるカ、これだけこっちを放置するなんて許せないネ」


 ディーやフレイア、レイランたちは占星術、呪術、魔術問わず様々な術者に王の探索を頼んだが、どれも結果は振るわず未だ王の消息を掴むことが出来ていなかった。

 その中でオリオンだけが毎日城の屋根に上り、王の名を叫び続けているのだった。


「近隣に隠すのは限界、いやもうバレているだろう。バート商会も知らぬ存ぜぬを通しているが、聖十字騎士団の密偵は恐らく近くまで来ているはずだ」

「王は怪我したということになってますが、一度も領地の前に現れないのは不自然でしょう」


 燕尾服のセバスもモノクルを拭きながら、眉を寄せる。


影武者ダミーでもつくりたいところだが、王と体格が似ている男はいないしな」


 一番歳の近いマキシマムを代役にする案が出たが、彼は筋骨隆々すぎてさすがに別人だとバレる。


「聖十字騎士団もペナルティがとければすぐに襲ってくるかと思いましたが、やってくる気配はありませんな」

「向こうは向こうでトラブルが起きているようだな」


 その時馬に乗った、アギとリリィが城へと戻ってくる。


「長旅ご苦労だった」

「聖十字騎士団超遠かったにゃ」

「遠い」

「奴らに何か動きはあったか?」

「表面上は何もない」

「でも、教会側と騎士団側で喧嘩してるっぽいにゃ」

「原因は?」

「にゃんか、教会が騎士団と一致団結する為に騎士団側のお姫様、アンネローゼ?とか言ったかにゃ。それと結婚するとかどうとか。騎士団はカンカンにゃ」

「それは怒るだろうな。聖十字騎士団は全員ヴァルキリーとして産まれながらにして神のモノとして生きている。それに彼女達の起源は妖精シルフと神獣ベヒーモスの間に産まれた非常に神聖の高い種族だ。教会側が何を提示してきたかはわからんが人と交わるなんてことは絶対にしないだろう」

「教会と騎士団って昔から仲悪かったですけど、なぜか騎士団って教会に頭が上がらないんですよね。多分騎士団が本気になれば教会なんて簡単に倒せるはずですのに」


 ソフィーは昔行った教会の総本山の事を思い浮かべていた。


「弱みでも握られてるネ」

「確かに人間の技術力目当てに手を組むことはあるかもしれないが、それでも結婚は行きすぎだ」

「騎士団でこんな話がでてたにゃ。背に腹はかえられにゃいって」

「何か理由があるわけか……」


 ディーはしばらく考え込んで思考を止める。


「現段階ではまだ情報が少なすぎて判断は下せない。敵は聖十字騎士団だけではないからな。リリィやアマゾネス隊には交代で聖十字騎士団を見張ってもらう。レイラン、黒龍隊は赤月帝国へ、マキシマムとエーリカたちは南のドロテア軍へと向かってもらう。セバスたちは王の消息を引き続き追ってくれ」

「「了解」」


「サーーーキーーーーーー!!」


 オリオンの叫びが悲しく城内に木霊する。

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