第102話 探し人

 翌日


 朝登校中茂木と真凛と出会い、一緒に学校へと向かう。


「朝はやっぱさみいな」

「ああ、そうだな。そういや一条どうなったんだ?」

「今日学校来るんだって。多分そこで川島と刑部が謝ると思う」

「とりあえずいじめの件は解決になったんかな?」

「多分な」

「山田の件はよくわかんねぇな」

「傷害事件やしね。多分警察が解決してくれるんちゃう?」

「だといいけど」


 三人で話しながら昇降口に入ると、何やら複数の生徒が教室に入らずざわめいている。


「なんだ? 授業変更でもあったか?」

「嫌な予感がする」


 俺は全力で走り、生徒達をかきわけて以前一条への中傷のビラがまかれていた掲示板を見やる。


「なっ……これって」

「こんなもん嘘だ! 合成だ!」


 俺は怒声を上げて掲示板に貼られた新たなビラを引き裂いていく。

 そのビラには、刑部がラブホに一条を押し込んでいる写真が掲載されていたのだ。


「ふざけんなよ!  もっさん、真凛頼む、多分他にも貼られてる、全部剥がしてくれ!」

「お、おう」

「わかった!」


 三人で手分けしてビラを剥がしに行く。

 だが、ちょうど俺が玄関のビラを剥がそうとした時だった。


「な、なにこれ……」


 揚羽と一緒に登校してきた一条が青ざめた顔でビラを見つめている。

 一条は踵を返し、昇降口から走り去る。


「あっ、黒乃!」

「すまん揚羽追ってやってくれ!」

「ダーリンこれどうなってんの!?」

「俺にもわかんねぇ、朝来たら貼られてた!」

「解決したんじゃなかったの!?」

「それもわかんねぇ!」


 俺は目に見えるビラを全て剥がし終わると、走って職員室に向かう。

 すると丁度職員室から出てくる刑部に遭遇した。


「テメー、性懲りもなく! 何回人を傷つければ気が済むんだ!」


 俺が甘かった。こいつはあんなんじゃ反省しなかったんだ。だからまた一条のことを。


「お、俺じゃない!」


 思いっきり勢いに任せてぶん殴りかけた拳が止まる。


「このビラは俺じゃない! こんなもの貼ったら相手が誰だろうと俺は破滅する」


 確かに、ここに写っているのは一条だが、これが別に川島だろうが誰だろうが、刑部の破滅はまのがれない。これまで逃げのびてきた刑部が、こんなところで自爆するのは確かに考えられない。


「テメー一条を揺すったり、取引を持ち込んだのか!?」


 刑部の胸ぐらを掴み、壁に叩きつけると、そのまま体を力任せに持ち上げる。


「してない! 単純にあの子は俺の好みじゃないんだ!」

「なんだと俺のエンジェルを!」

「お前は何に怒ってるんだよ」


 追いついてきた茂木が間に割って入る。


「本当だ、俺はあの子を揺すったり、誘ったりしたことは一度もない。あのビラは間違いなく合成だ」

「本当だろうな!」

「本当だ、こんなところで嘘をついてなんになる」

「くっ……」

「このことで校長に呼び出されているんだ……」


 刑部は憔悴しきった顔で、校長室へと向かって行った。


「てことは川島か……」


 川島が今更一条を落とす理由はなんだ。

 クラスメイトに川島がどこいったか聞いたが、みんなさっきまでいたけど急にいなくなったと話す。


「逃げたのか?」


 最悪だ。よりによって、一条が復帰した瞬間にこれとか。

 その後真凛、茂木の三人で川島を捜索したが結局見つけることができなかった。

 昼休みの半ばくらいになって、ようやく揚羽が教室へと戻って来た。


「はぁ…………」

「お疲れ」


 揚羽はがっくりと肩を落としながら、俺の席の半分を分どる。

 そしてそのままうなだれかかってきた。


「一条どうだった?」

「もう最悪、グズグズに泣いて過呼吸まで発症しちゃってた」

「可哀想に……」

「もう多分外出られないよあれ。そっちは?」

「刑部は自分が貼ったんじゃないって言ってたのと、一条をラブホに連れ込んだことはないって。川島は朝はいたらしいがその後行方不明」

「なにがどうなってんの?」

「わかんねぇ、俺たちに追い詰められて川島が暴走したのか、それとも全く第三者がやったのか」

「てかさ、ミサミサのこと追ってるけど、ダーリンたちなんか知ってるのこのこと?」

「いい加減お前にも話しとかないとダメだろうな」


 できることなら揚羽には知られないまま全てを終わらせてやりたかったが、振り出しに戻った可能性がある今では話しておく方がいいだろう。

 俺は以前ラブホ前にいたことも踏まえ、実は前々から一条がいじめにあっていたことと、その犯人が川島、山田の二人の可能性が高いことを教える。


「なにそれ、なんで揚羽に言わないの」

「お前が知ったら大騒ぎすると思ったからじゃないのか」

「するよするに決まってるじゃん」

「一条みたいに大人しい子はそっとしておいてほしいんじゃないのか? いや、これも俺たちの推測だから、もしかしたら何かしら言えない理由があるのかもしれないが」

「揚羽もそっとしておいて大丈夫になるならそっとしとくけど、ならないなら大騒ぎしてでもやめさせるよ。てか黒乃いじめる理由はなんなの?」

「俺たちの見解ではお前のグループに入れなかった山田の逆恨みが濃厚だったんだが、山田が入院している状況でこんなことをする意味が分からんから、動機もよくわかんなくなってきた。この件に川島が関係なかったら完全に0リセットだ」

「でも前回の一条黒乃は人殺しのビラをまいたのは川島さんよね?」

「それは確かにそうなんだがな。ただ刑部の件がバレて逆恨みするなら俺が標的になるはずなんだよ。なんでまた一条を狙ってくるのかがわからん」


 揚羽はイライラしたのか、俺の横腹をボスボスと殴ってくる。

 別に痛くはないのでそのままにしておくことにした。


「はぁ……黒乃立ち直れるかな……」

「あいつお前以外に友達は?」

「揚羽が囲ってたからな~、いないかも。黒川辺りならいけるかもだけど」

「黒川か……結城は?」

「あの子はダメ、思考が揚羽やミサミサに近いから」

「そっか、黒川にもフォロー頼んどくか……」

「ああ、こんなときゲーセン王子がいたらな」

「ゲーセン王子?」

「そっ、この前駅前の五星館でゲームしてたらいんだけど、その時にあったんだって。とんでもなくイケメンで超強いらしいの。あの子から男の話なんて聞いたことなかったのに、その時だけは饒舌でさ」

「ゲーセンのイケメン王子か……特徴あるし、手掛かり有るな……」

「えっ、もしかして探す気?」

「いや、それが一条の為になるなら。それにそんなにイケメンなら常連客が覚えててもおかしくない」


 そういうと揚羽は俺の足を踏んだ。


「痛いんだけど」

「その痛さが揚羽の愛」

「見境なく嫉妬すんなよ」

「チューすんぞ」

「話に脈絡なさすぎない?」

「揚羽の為になるならって言ってよ」

「言わないっての」

「お前らナチュラルにバカップルゾーン展開するのやめてくんない。百目鬼さんの眼鏡がもうもたないよ」


 見ると真凛は眼鏡にヒビを入れながら手首を震わせていた。


「な、なんか急に二人とも距離が縮んだような気がするわぁ」

「揚羽とダーリンにもう距離なんてないよねぇ?」


 後ろからがっちり背中をハグされる。


「お前でかいんだからおっぱいグリグリすんのやめろ」

「気づいてたんだ」

「これみよがしにやってたら気づくわ」

「大丈夫? おっぱい揉む?」

「揉むけどさ」


 一瞬阿修羅覇王の真凛が見えた。


「揉まないけどさ」

「揚羽一回学校でするの憧れてたんだよね」

「何をする気だ。それ以上真凛を挑発するのやめてくれ」


 ゴゴゴゴと人が発する擬音じゃない音を響かせながら真凛が近づいてくる。


「おっぱい負けないもんおっぱい負けないもん……」


 二人でどんと乳合わせする。

 迫力あるな。是非ともその間に俺を入れてほしい。


 学校が終わり、俺は五星館で聞き込みを行っていた。

 目撃情報はチラホラ聞けたものの、そのイケメンというのはつい最近一回来ただけで他に目撃情報はなし。彼がプレイしていたのはメタルビースト2の筐体で、ランカークラスの乱入者を一人で倒したらしい。

 使用していた機体はレイジタイガータイプシャドウミラー奇しくも俺と同じ持ち機体である。


「これだけじゃなぁ……そもそも一度来てから、来店していないというのが」


 たまたま出先で立ち寄っただけで、地元は全く別だったら二度と会うことが出来ない。

 ただ手がかりがないわけでもない。ランカークラスを倒した上にシャドウミラーということは前作のメタルビーストを相当やり込んでいるということ。

 あの機体はかなり特殊な条件じゃないとプレイアブル機にすることはできないはずだ。

 シャドウミラーをプレイアブル機にした俺だからこそ言える。そのイケメン美少年は相当変態なやり込み具合だったのだろう。

 俺はスマホでメタルビーストの上位ランカーを検索していく。


「上位にレイジタイガーいねぇぞ……ゴールドヴァイパー、ファイヤーエレファント、ブラストコング、ロイヤルフォックス、ランドバイソン、マッハプテラス……ここから海外勢を省くと……」


 無情にも条件に合うランカープレイヤーは一人もいなかった。


「嘘だろ、もしかしてレイジタイガー持ちキャラじゃないのか?」


 俺がう~んと唸っていると、先ほど情報をくれたヘッドホンをつけた兄ちゃんが通りかかる。


「あっ、さっき言い忘れてたんだけど、君の探してるイケメンもしかしたら外国人かもしんないよ?」

「えっ、本当ですか?」

「うん、多分。俺の彼女が目の色青かったって言ってたし」


 マージかー、海外の方だと、もうどうしようもねぇぞ。


「わかりました、ありがとうございます」


 ヘッドフォンの兄ちゃんは頑張ってねーとそのまま消えていく。


「海外勢……、いや確かに変態的な強さって海外の方多いけどさ……」


 もう一度今度は海外勢をいれて検索してみるとレイジタイガーシャドーミラーが何件かひっかかる。

 だがのっているプレイヤーの年齢や性別を考えると当たりはゼロだった。


「ゲーセン王子か」


 好きな人を慰めるために、イケメンの手を借りることになるとは、なんとも複雑な気分だ。

 俺は近くのゲームセンターを全て回ってみて目撃情報を集めてみたが、どうやら五星館に一回来ただけで、他の場所には顔をだしていないようだ。


「手掛かりなしか」


 これだけ探して見つからないということはやはり地元は別で、たまたま用事でここに来ていた時に立ち寄った可能性が高くなってきた。

 もう一度五星館に戻り、俺はメタルビーストをプレイする。


「対戦してるときにひょっこり現れてくんないかな」


 そう淡い期待を抱いて何度かプレイしてみたが、当然そのような奇跡は起こらず、ただ単純にゲームを遊んだだけになってしまった。


「ダメか、諦めて帰ろう」

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