第8話 四人目のディー

 俺達は乾と別れ、依頼書に記載されている山賊の根城らしき湖に向かう。

 灯台下暗しを狙ったのか、ラインハルト城からはさして遠くない、山のふもとにある湖近くに姿を潜ませているらしい。


「山賊退治をたった三人で大丈夫なのでしょうか。主は言っております、男の人呼んでと」


 神なら男の人の力に頼らずなんとかしろよ。


「山賊は複数でやってきてるが、商人にけが人、死人が出たケースは0、更にその山賊の方にけが人が多いのか足を引きずってる奴やら腕を吊っている奴らが多く見られ、戦闘能力は低いと見られるってさ」


 俺は依頼書を折りたたんでポケットにしまう。


「ですが相手は刃物を持っているんですよ」


 君の持ってる凶悪そうなものは刃物ではないのですかと、ソフィーのハルバートを見やる。


「この辺かな?」


 大分辺りが薄暗くなってきて、ランプをつけようかとバッグをあさったところオリオンが声を上げる。


「咲、なんかいた!」

「なんかってなによ?」

「わかんない多分ランプ! 逃げた!」


 言うが早いか、オリオンは全力ダッシュで薄闇の中オレンジ色に光るランプを追いかける。

 確かにランプは全力で後方に逃げている。


「オリオン、あんまり追い詰めるな! このままアジトまで案内してもらう!」

「オッケー、さすが咲頭回る」

「お前は回らなすぎだ」

「脳筋なめんなこんにゃろー」

「ま、まって下さい~、主は言っております、おんぶせよと」


 厚かましい主だな。俺達の遙か後ろの方にソフィーの姿が、許せソフィーでもこの辺りにでる魔物よりお前の方がよっぽど強いから。


「あいつなんでステータス高いのに、あんなに遅いんだ?」


 オリオンがマジでわからんと首を傾げる。


「力の使い方が多分下手なんだよ。後あのハルバートがクソ重い」

「置いてこいよ!」


 ソフィーを置き去りにして、ようやくたどりついた。

 ランプの動きは明らかに遅く、オリオンが全力を出せばすぐに追い付いてしまうほどだった。

 湖近くにある森に山小屋があり、ランプの光はその中に吸い込まれて行った。


「あそこだな」


 俺達は身を低くして木陰に隠れながら山小屋を見やる。

 山小屋にはオレンジ色の光が窓からもれており、人影が複数人映っている。


「思ってたよりでかいな……」


 五、六人程度かと思っていたが山小屋自体がでかい。


「咲、奥にも山小屋がある……全部で三つかな」

「マジか、大所帯じゃねーか。よく見つからずにすごせたな」

「多分毎日移動してるんじゃないか? 木材が新しいし、造りが粗い」

「なるほどな、てことは見つけられた俺達はラッキーと」


 でもあのでかい山小屋からワラワラと出て来られたら俺達だけでは一たまりもないぞ。

 アジトの報告だけしに帰るか? いや、あの追いかけてた奴がすぐに移動を指示するかもしれない。

 どうする……。


「咲、避けろ!」


 オリオンの叫びに反射的に飛びのいた。直後巨大な斧が俺のいた場所にあった古木をかち割る。


「あぶねぇ、避けなきゃ確実に死んでたぞ!」

「山賊のアジト見てただで帰れると思っているのか?」


 声のした方をみると、そこには髑髏マークのついたアイパッチと両肩に髑髏を象った鉄のアーマー、

 手の甲に鉄の髑髏がついたガントレット、両膝に鉄の髑髏がついたブーツに髑髏のペンダントと髑髏で固めた女が大斧を肩で担いで立っていたのだった。


「…………ち、痴女だーーーーーっ!」


 思わず大声を上げてしまった。やばい。

 しかし仕方ないだろう、胸のトップの部分に丸っこいシールみたいなのがついていて、そこにも髑髏がくっついている。それ以外はほとんど裸だったのだから。


「あれ、やっぱり思ってた反応とチガウ」


 女山賊はおかしいと首を傾げる、違うのはそっちの格好だろうと言いたい。


「この変態女め!」

「あなたには言われたくない!」


 山賊と指をさしあうオリオン。かたや水着に剣と盾、かたや大事な部分だけ髑髏で隠してる髑髏女。


「それであなた達は迷い込んだの? それとも依頼できたのか?」

「いや~、ついうっかり……」

「城からの依頼だ」


 俺がお茶を濁そうとした瞬間即答するオリオン。頼もしすぎて頭が痛い。


「城からって言ったらじゃあ死んでもらうってなるに決まってるだろう」

「えっ、そうなのか?」

「お前はほんとにバカだな」


 俺達のやりとりを律儀に待ってから髑髏女は予想通りのことを口にする。


「そうか、では死んでもらう」

「ほらな!」


 城からの依頼と聞いて山賊の目の色がかわった。

 生かしては帰さないと、ピリピリとした空気が広がる。


「咲逃げろ! こいつ強い!」


 一瞬で敵の強さを悟り俺を突き飛ばすオリオン、その瞬間ギンっと鈍い金属音が響き、山賊の大斧とオリオンの鉄の剣が交差する。


「なかなかのパワー、だが」


 山賊はふっと力を抜きオリオンが態勢を崩した瞬間みぞおちに膝蹴りをいれる。


「がはっ!」


 そして長い脚で思いっきり蹴り飛ばされ、オリオンは木にぶつかり尻をついた。

 生き物のようにうねった木が葉を舞わせる。


「大丈夫か!」


 マジか、こいつ頭弱い分戦闘能力だけは高いんだぞ。


「ふむ、どこかの王のようだな。そっちの戦士はまぁRクラスと言ったところか」


 山賊は落ち着きながら顎に手をあて考える。その仕草がどうにもひっかかる。

 俺の想像する野蛮な山賊とはかけ離れるほどに品があったからだ。


「残念だが君たちには私は倒せない。このことを他言せずに逃げるのなら見逃そう」

「急な心境の変化だな」

「なに、王と戦士というのには少しだけ縁があってね」

「そういうあんたはバラン王の戦士か?」

「答える義務はない」


 チッと舌打ちをする、ガードがかてぇ。山賊ってのはやたら己語りが好きでべらべらしゃべってくるもんだと思ったんだが。それにこの女バカみたいな格好してるが、全く隙が無い。

 大斧を持って攻撃主体に見えるくせに、圧倒的に守りが硬い。

 俺は周りを見渡すと、近くの山小屋から視線を感じる。恐らく手下の山賊全員がこの戦いを見ているに違いない。

 ならなんで出てこないんだ、さっさと出てきた方が簡単に決着するだろう。

 俺が不審に思っていると山賊が口を開く。


「これでも私はこの山賊の頭でね、皆私の戦いが見たいのさ」


 なるほど……。いや、なんか言い訳くせーな。この女違和感だらけなのに、ガード固いわ隙ないわでやり辛い。


「Rの護衛一人では無理だ、わかっただろう」


 諭すように言う山賊だが、それに反感を覚えるのがコイツである。


「人をレアリティで呼ぶなぁっ!」


 一瞬で飛び上がり、山賊に斬りかかる。だが、大斧で軽く弾かれてしまう。


「今だソフィーやれ!」


 俺は後ろに向かって大声を上げる。


「一人じゃなかったのか!?」


 山賊は後ろを振り返るが、誰もいない。


「こんの騙したな」


 イラッとした顔でこっちを見る山賊、イラッとしてるのになんか上品なやつだな。


「嘘はついてないよ」


 突然暗闇の中からハルバードが伸び、山賊の腹を狙う。山賊はそれを間一髪で避け、間合いをとった。

 暗闇のなかからでてきたビキニを着て、シスター帽を被った少女は半べそだった。


「うー、主は言っております、寂しかったと」


 そりゃすまんことをしたと思いながら、オリオンとソフィーは並び立つ。


「この方が山賊なのでしょうか?」

「そうだ」

「主は言っております、痴女だと」

「だからあなた達に言われたくない!」


 どっちもどっちである。


「形勢逆転だな」


 二対一となり、俺は偉そうにふんぞり返る。


「ちなみにソフィーのレアリティはEXだ。お前に勝ち目はない諦めろ」


 俺は完全なブラフをたたく。EXだが戦闘経験があるとは言っていない。


「!」


 ブラフがきいたのか山賊の顔色がかわる。


「やられる前におとなしく捕まってくれ、ソフィーさんがお怒りになる前に」

「おらおらソフィーさんなめんなよド低レアリティが!」

「えっ? えっ?」


 オリオンの悪乗りにソフィー困惑、その悪乗りに若干自虐がまじってて悲しくなった。


「…………」


 山賊は瞳を閉じ、斧をその場に捨てる。


「武装解除とは良い心がけだ」


 うむうむと俺は山賊に近づいていく。

 だが、山小屋の扉が開き、頭に兎みたいなリボンをつけた少女が一人飛び出してくる。


「ディー様! これを」


 少女が放り投げたのは、美しい装飾が施された剣で柄の部分に水鳥の羽の意匠が象られている、白く輝く美しい剣だった。

 山賊が剣を受け取ると複雑な表情で少女の方を見る。


「ディー様! 戦って下さい!」


 少女が叫ぶと、三つの山小屋からわらわらと少女達が飛び出してきた。


「お前達……」

「な、なんだぁ!?」


 とうとう八つ裂きかと思われたが、現れた少女達はただ俺達を取り囲んでいるだけだった。

 いやよく見ればどの子も腕や足、顔に包帯をまいており無傷な子は一人もいなかった。

 そういやこの山賊も眼帯をつけているが怪我をしているのだろうか。


「これは……」

「それにディーって……」

「なにがどうなってんのよ咲ぃ!」


 俺が聞きたい。


「彼女達の強い要望だ。これを見たからには絶対に死んでもらう」


 山賊はすっと剣を鞘から少しだけ抜く、その刀身は光輝いており何かしらのスキルに関係あるものだった。


「こいつもまさかEXか!?」

「死にゆく君たちに自己紹介しよう、私の名はディー・リンド・カペラ。元バラン王のチャリオットで隊長を務めていたものだ」


「「「はぁっ!!?」」」


 俺達三人はいろんな意味で叫んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る