星のカルテと自由な翼

 思えば、星占いに関する本を初めて手に取ったのは、二十歳を迎えるか迎えないかという短大時代。たしかマドモアゼル・愛氏著の「牡牛座の愛」という角川文庫だったと思います(ここに来て愛先生とKADOKAWAがバッティング!?笑)。12冊分、揃いで刊行された12星座・文庫シリーズの中の一冊でした。


 念のため補足しておきますが、マドモアゼル・愛氏は日本で初めてパソコンによるコンピューター星占いを一般に世に広められた西洋占星術の大家。ニッポン放送の長寿ラジオ番組「テレフォン人生相談」にも御出演され、一般的な認識として星占いの業界せかいで、この方の名前がまず出ないことはありません。因みに昔々何かのTELサービスで初めて耳にした粛々とした愛先生の語りは、まさに牧師さんそのものでした(笑)。


 勿論、星占い自体については、子供時代に読んでいた漫画雑誌の片隅の占いコーナーだとかで、それまで全く目に触れなかったわけではなく、それでも本格的に初めてそういった本を単独で手にしたのはこの頃で、ちょうどモラトリアム時代の卒業という時期でもあり、よほど自分自身について悩んでいたんだな、ということを思い出します。


 そもそも私自身が星占い(占星術)に興味を持ったのは、やはり「自分のこと」を客観的に知りたかったからであり、西洋占星術というのは、そういった一個の人間を多角的かつ俯瞰的におおまかな視点で捉える、といったことでは非常に優秀なツールであると思います。そのことを知ってからは、俄然、占星術について興味が出てきて、今でもその時代を切り開くオールマイティな、その生きている占星術の魅力に興味が尽きません。


 その本では「牡牛座はこういう性格の傾向があり(内向的だが慎重で誠実)こういった愛情(本来は消極的なのに好きになったら一直線)を異性に対していだく……」といった感じの、それぞれの恋愛段階での行動図式などについて書かれており、ああ確かにそうかも?と自分自身でも納得する部分がかなりあったものです。たしかもう一冊、愛先生の同シリーズで基本的な本人についての(牡牛座)星占い解説本なども持っていたはず。


 普通こういった占い本や雑誌などの星占いコーナーで「私は○○座」と言って扱われているのは太陽星座で、つまりホロスコープ内で生まれた瞬間に太陽が入っていた星座なのですが、占星術で扱う10惑星(太陽や月は惑星ではないですが便宜上)の中でも、最も輝きや熱量が強く生命力に満ちあふれ、本人の性格のおおまかな傾向は勿論、その人の人生の方向性を強く決定づけるものであることから、そういった意味で分かりやすく、社会生活の中での個人としてオフィシャルに占う場合は、まず第一に太陽星座が扱われます。


 が、そもそも人というのは元来、寄木細工のように複雑怪奇なものであり、太陽の星座の他にもっとパーソナルな側面を見ていく月の星座もあって、勿論、出生の瞬間にホロスコープの天球上に散らばっていた太陽系の星々が、どの星座やどのハウスに入っていたか、あるいは星同士がどんな角度を取っているかなど、さらに詳細に、その個々人ならではのオリジナルな持って生まれた資質や今後向かうべき道筋などを探っていくのですが。


 自分自身の牡牛座について書かれたその本を、実際の自分に照らし合わせて深く考えていくうちに「もっと占星術について知りたい」と思い至ったのは自分の性格から考えても極々自然なことだったでしょう。どういったタイミングだったか、さらに数年後の20代後半に差し掛かった頃、百貨店の書店にて初めて本格的な西洋占星術の入門書(石川源光著の「実習―ホロスコープの作り方と読み方」「応用―ホロスコープの実際と応用」の二冊)を手に取り……。


 入門書といっても、はやり初心者には少し難しかった?かもしれませんが、大体の占星術やホロスコープの仕組みなどはこれで理解することができ、少々難解だった部分や特に興味を持った箇所などは、さらに後年、別の著書や占い専門誌などで次第に理解を深めていき……こうして私は占いオタクの自分というものを極めていったのでありました(笑)。


 そしてその当時、学研から出ていた「正統西洋占星術大全」というオールマイティ大型本にて、さらに楽しみながら復習。その過程で、先のマドモアゼル・愛氏や鏡リュウジ氏などの存在とも出会い(特に愛先生の人生相談は、某天然石通販ラピスクラブ小冊子でも個人的にお馴染みでした、笑)そしてさらにミレニアム年を経たゼロ年代以降ではインターネットを始めたことから、もっと複雑な解釈や理解を求めWebを徘徊……(そこでまだ御自身のHPを開いて間もない、今やドル箱の人気占い作家となった、黎明期の石井ゆかり氏とも出遭い実際にメールにて自分自身を占って貰ったことなども)


 思うに、いつでも占いについて深く知りたいと思ったり「私はどんな人間なのか?」「どんなことができるのか?」と自分自身について客観的に理解したいと思うとき、その一つの道しるべとして、星占い、占星術の世界にその手がかり足がかりを求めていたと思います。その意味で人というものを解読するには、占星術ほど参考になり使えるツールは、まさにありません。


 実際、星占いのホロスコープが描き出す自分自身の性質や資質(あるいはウィークポイントなども)などはよく当たっていると思うし、それそのものは、自分自身がどうしたいか、あるいはどうありたいか?といったことによっても文字通り、千差万別の可能性の道が存在し、それを自分自身で信じていくことで開けていくものなのだと思います。でも、自分について素直に心を開けなかったり、どうしても先が見えないと思うような場合は、占星術やホロスコープが与える可能性の糧は道を閉ざす……。


 私自身も自分のホロスコープを見る時に、いつでも少し大げさなほど自分自身を褒め倒し「自分にはこんなにできることがある!」というキラキラした思いで眺めるようにしています(笑)。まさにワクワク、ウキウキ……まずそんな自分自身を楽しむような思いで一歩を踏み出せば、どんな困難なことでも切り拓けるような気が。その上で反省点もしっかり分析します。失敗や苦手なことは誰にでもあるもの。でも、それから学ぶことは多い、ということも星占いは教えてくれます。


 冒頭の序文でも触れた通り、私自身のホロスコープでは天頂の10室に土星があり、それが1室のアセンダントや月とスクエアという厳しい角度を取っています。前章にて散々綴った通り(笑)それでか何でか、私は社会生活全般での対人関係における自分自身というものに気後れ以上のものすごいプレッシャーがあり、何事もまともに押し進めることができず、文字通り心身ともにそういった辛苦に苛まれてきました。


 が、それは裏を返せば、それだけの厳しさを自分自身に課してしまっているということで、もしかしたらそれは同じ出生日の菊池桃子さんの場合、芸能活動全般における、ただならぬ緊張感だったのでは。つまりそれだけ真面目さや責任感も非常に強く、それは他人の信頼を得るに足りる人徳ともなり得るのではないかと。10室でカルミネート(天頂の10室に最も近い星のこと)する土星は、先生とか政治家にも縁があり、それだけの縁の下の力持ち的、人の上に立つような資質も持ち合わせている。


 私自身が長年にわたり患っている社会不安障害は、おそらくこうなると一生ついて回る代物なのでしょうが、むしろそれを逆手に取ってできることもある。そのために、まず自分自身を許すこと。無意識的に自分を苛め抜いていたこれまでから、自分を励まし支えあげる、そんなこれからへと――。


 占星術の世界には、明確な吉凶という概念はなく、スクエアなどハードなアスペクトを多く持っているからその人は不幸であるとか、その逆にソフトアスペクトばかりだから吉ということではなく、それぞれどちらにもよし悪しがある。むしろ一見困難なことばかりのように見えても、それを乗り越えることでその人は強くなり成功する事例も多く、逆に持って生まれた幸運のために怠惰になり自分自身を見失ってしまう人もいる。


 特に今という時代は、昔々の伝統的占星術のような、確実さや真面目さをよしとし、見てくれの凶意ばかりを怖れていた時代とは異なり、もっと自由な生き方が可能となった時代。そういったこともありウィークポイントを逆手に取ったり、よくないように思えた状況でも自分自身を鼓舞することで現状を切り開き、文字通り逆境をバネにして高く飛躍していくことも決して不可能ではありません。


 私自身こうしたことを、自身のホロスコープなどを読み解いたりしていくことから始まって、まさに様々に占星術から学んでいったのかも――それは人生の機微や一つの精神哲学ともなり得るもので、占星術やホロスコープというのは、人や物事について様々なことを深く考えさせ理解させてくれるだけでなく、その過程で希望をも与えてくれる、いわば「星のカルテ」そのものなのでは。


 そして何より心躍るのは、星や星座やハウスが幾重にも軌跡を描き、まさしく読み解く人の数だけ世界が広がっていくインスピレーションとイマジネーションの宝庫であるということ。その意味でも、まるでモザイク模様のように細密かつ重層的な、過去から未来にわたって展開していく星の旋律を捉え、その世界に遊ぶことは豊かな創作表現にもつながる自由そのものの世界。


 私が星占い、および占星術で得たものは、そんな世界全体へと広く羽ばたいていける、まさに自由な翼そのものでした。それは、まだまだ翼を広げる前の助走段階であるのかも。が、そのための地固めを長く続けていくことで、翼は次第にあたたまる。


 それは自分自身を知り、世界というものの真実を知ること……。

その星のカルテが、私に教えてくれたものは、たぶん数え切れないでしょう。

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