むかし むかし 空から天使様がおちました


折れて散った 真っ白な翼


探して 地球をめぐります



最初に会った 一人の女性


赤ん坊を抱くその胸に 愛 の翼がありました


「いいえいいえ。あれはいけない」



次に会った 一人の老父


しわだらけの手で 握りしめるその くわに 「命」 の翼がありました


「いいえいいえ。これもいけない」



三番目に会った 一人の老婆


切り株腰掛け吐く溜め息に 「疲れ」 の翼がありました


天使様はそれを取りました


「ああ。よかった」



四番目に会った 一人の青年


黒く染まった衣の中に 「慟哭」 の翼がありました


天使様はそれを取りました


「ああ。よかった、これでかえれる」




天に一番近い丘で 天使様は叫びます


しかし助けの糸もおろか 愛しき父の声も無い



「どうして?」



ようやく 父は 愛しき子に答えます



「疲れを失った老婆はもう二度と休憩し辺りの景色を愛でることはできない。


慟哭を、悲しみを失った青年はもう二度と試練を乗り越える日は来ない」



「お前は自身の傲慢に従ったのだ」



「それは愚かなことである」



天使様は 泣きました


黒く淀んだ 翼を震わせて


遠き空をめざしては 空気の門で閉ざされて


何度も 何度も 飛びました



今も まだ ほら 飛んでいます



「カエリタイヨ」と鳴きながら



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