受け継がれた魔王

勇者第一号

返り咲くとか何か決意表明みたいにしたが、実際はだらけきってる俺である。

今だって、玉座という名のパイプ椅子に座ってゲームをしてる、完全にダメな人だ。

ソフトは、敵対する犯罪組織を、全てを失った男が潰して回る、自由度の高いゲームだ。

俺にそれをやらせたら、チート無しで武装したギャングを壊滅させられる、無傷でな。



「なぁ、少しは魔王としての自覚持とうぜ?」



うるさい。

お前だって執事としての自覚ねぇだろうに。


俺の名前はベルーガ=カオス=デス、親しい友人からは、鯨類くんなどと呼ばれている。

歳は18、まだまだ若い。

それにしても、名前がベルーガだからって鯨類くんはどうかと思う。


執事の名前はヌラ=ベッチャ。

種族は俺と同じ魔人、しかしその血の9割は人間だそうだ。


歳は23歳、現在フリー極め中。

最近、女に飢えているように見える。



「……やるべき仕事ってなんだよ」



「……知らねぇよそんなこと」



親父は、魔王としての仕事についてはしっかりと教えてくれていない。

……などと言うのが正しいのか、教える前に死んだのか、どちらかは分からない。


いい加減ゲームに飽きて電源を切った時、奴は現れた。

ドカンと音がしたかと思うと、扉が破壊されているのが目に映る。

そして、「私は雑魚です」と主張する雰囲気をバリバリと出している男が侵入してきた。

不法侵入と器物破損は許さない、万死に値する大罪だ。



「ヤベェ!!ハーピィめっちゃ怖ぇ!」



ハーピィから逃げて来るとは、雰囲気だけでなく実力も雑魚のようだ。

ハーピィは決して強くない、鳥人間とでも言うべき魔物だ。

少々素早いが所詮は鳥人間、モンスターの全体から見ればかなり弱い部類に入る。

頭の中身が人間であればいくらか強かったかも知れないが、残念なことに頭の中身は鳥同然だ。



「お前、誰だ」



「アァ?テメェから名乗れやクズ。俺はバルカンマンってんだ」



「なんだそのクソ詰まらねぇネタに走ったような名前は。お前の親は何考えてんだ」



ハーピィから逃げて来たくせに偉そうな喋り方をする野郎だ。

顔面の皮をベリベリっと引き剥がしてやろうかと思った。


まあ、誰か分からんのにいきなり殺すわけにもいかない。

身分は明かすか。



「俺は魔王ベルーガ、親父が……先代が死んだので、後を継いだ」



みるみる内に顔色が真っ青になり、そして失禁した。

汚い、掃除するのは俺じゃねぇけど。



「そ、そ、そ、そんなぁ!魔王は城ごと吹っ飛んだはずだ!」



「今言っただろ?俺はそのぶっ飛んだ魔王の息子だ」



ガタガタと震えながら、それでも剣を抜く。

その辺で買えるような安物で、恐怖に震えて失禁しながら、それでも挑もうと言うらしい。



「ま、ま、ま、魔王め!お、お、お、俺が殺してやる!」



「せめてもう少し落ち着いて話せ」



俺は丸腰、服装も安物のシャツとズボンだ。

見るからに雑魚とは言え、相手は剣を持って革製の鎧を着た男だ。



「……これで勝てても、卑怯者だぞ?」



「う、う、うるさい!!か、か、勝てればいいんだよォッ!」



だがこの程度の相手なら、全裸で相手をしていてもハンデが足りない。

あまりにも、余裕がありすぎる。



「ウワァァァァァ!!」



考え無しに、盲目的に突っ込んでくる。

武器の構え方も違和感だらけだ。

どこからどう見てどう考えても、完全な素人だ。



「身の程を知れ。そらよ」



振り下ろされる剣は少し横にズレるだけで簡単に避けられる。

そしてカウンターとして、俺は拳を突き出した。

拳は顔面中央にヒット、僅かな狂いも無く完全な中央にヒットした。



「ヴァオッ!」



奇声を上げ、その体は宙に浮く。

大体5mくらいは吹き飛んだと思うが、まさかそれだけで即死するとは思わなかった。

顔面が陥没するほどの力では無かったから、倒れた時の打ち所が悪かったのかも知れない。



「まぁ、その、なんだ?勇者だったら金で甦られるけど、お前はそうなのかどうなのかわからんしな。甦るにしろ、来世に期待するにしろ、2度と俺の前に出てくるんじゃねぇぞ?」



「死体に話しかけてもしょうがねぇだろ」



このまま放置しておくわけにはいかない。

死体を城の中で放置するだなんて、問題が多すぎる行動だ。

バルカンマンと名乗ったその男を、俺は周辺の森の適当な場所に放り捨ててきた。

着ていた鎧も、武器も、俺が使うには値しないので、近々売り飛ばすことにした。

魔王がこんなの装備って、なんか威厳のカケラも無い。

そもそも装備しないで、私服で好きに殴っていた方がよっぽど強い。



「おーい、ヌラ!!」



「なんだよ?」



「さっきの奴が漏らした小便、拭いとけ」



「ハァ!?」



「嫌ならクビだ」



「チッ……分かったよ」



仕事をずっとサボってるようなものなんだ、これくらいの事はやってもらわないと。



「臭いもちゃんと取るんだぞー!手ェ抜きやがったら飯が抜かれるぞ!」



「んな殺生なこと言うもんじゃねぇよ!」



「そんじゃあまぁ、頑張れや」



「聞けよ。……へいへい、りょーかいりょーかい」



少し腹が減ったのでカップ麺でも作ることにしよう。

一応、ヌラの分も作っておいてやろう。

普段の仕事はかなりサボってはいるが、やるときはやるはずだからな、その対価のカップ麺だ。

給料をまともな金額で払えないが、その代わりに飯はちゃんと用意することにしている。

魔王のやることじゃ無いとは思うが、別にやってら死刑なんてこと無いだろう。

こう言う家事スキル、磨いておくのは大事だ。



「おーい、俺のは焼きそばにしてくれー!」



「食っちまった」



「ストライキします」



「ぶっ殺します」



「ごめんなさい」



……まぁ、今後の仕事の内容がよかったら、買いだめしておいてやるとしよう。

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