ネクロマンサーさんは大変なのですっ!

一条さん

ヘッドギアと初ダイブ

 

 買い物帰りのバスの中、膝の上に置かれた大きな紙袋を見つめていた私は満面の笑みを浮かべていた。


 紙袋の中身はヘッドギアと呼ばれる物。今日本で人気になっている「Diabel(ディアベル)Online(オンライン)と言われるMMORPGゲームをやる為に必要な物らしい。


 このヘッドギアを頭につけてゲームをプレイすると、まるで実際に自分がゲームの中の世界に入ってしまったかのような感覚で遊べるようになるとか。ゲームなどに疎い私にとってはちょっと信じられないような話だった。


 家に帰った私は、紙袋からヘッドギアが入った箱を取り出すと、がさごそと箱を開けた。


「わぁ……これがヘッドギア……」


 バイクなどを乗るときにかぶるヘルメットみたいな形とサイズ。重さは思ってたより重くはない。このヘッドギアを買うのにどれだけ節約生活とアルバイトを頑張った事か……。


 一ヶ月一万円生活のような節約を実践し、メイド喫茶で「いらっしゃいませご主人様」と言い続け、頑張ってもくもくとお金を貯めた。

 そしてようやく、そこそこいい値段のするヘッドギアを購入できた。


 やっぱり現実みたいな仮想世界で遊べるって言われているからには、画質とかいい方がいいに決まってるしね。


 これで準備OKかな。

 ヘッドギアから出ている配線を机の上に置かれているノートパソコンへ繋ぐと、画面に『認識完了(コンタクトOK)』の文字が浮かびあがる。


 それを確認した私は、座っていた椅子の背もたれを少し後ろに倒すと、ヘッドギアの電源をオンにし頭に装着した。


「ふぅ……緊張するなぁ。ちゃんと私にもオンラインゲームできるかな……」


 普通のRPGゲームなどは小さい頃少しやった事はあったけど、MMORPGみたいな大規模多人数参加型ゲームは全くやったことがないので不安な気待ちがすごい込み上げてきていた。


 一度深く深呼吸をした後、パソコンにインストールして置いたDiabelOnlineを起動し、ログインIDとパスワードを入力していく。


 よし、準備完了っと。

 後ろに少したおした椅子の背もたれに体を埋め、ゆっくりと目を閉じーーDive Start! と叫ぶとーー


『ログインID、パスワード認識完了。これよりDiabelOnlineと接続を開始致します。…………接続完了』


 そんな音声が聞こえた直後、私の意識はプツンと途切れた。


 ーーーー


 意識が戻りゆっくりと瞬きしながら閉じていた目を開く。


 最初に私の世界に飛び込んできた物は、広い部屋のような場所。大きさ的には二十畳はありそうな部屋だった。


 部屋の真ん中には白いカウンターのような物があり、そこに綺麗な金髪の背の高いお姉さんが一人立っていた。


 ーーあの人は誰だろう?


 そう思いながら、ゆっくりとカウンターにいるお姉さんの元へとことこと歩いてゆく。


「ようこそDiabelOnlineへお越しくださいました! わたしはキャラクター作成アシスタントAIのベルと申します!」


 カウンターの前にきた私に、そう言いながらぺこりとお辞儀をする綺麗なお姉さん。あまりの丁寧な挨拶とお辞儀にびっくりし、私もぺこぺこお辞儀をしてしまう。


 それにしてもよく作られたAI(人工知能)さんだなぁ……。

 AIだと言われなかったら、普通に人間のお姉さんに見えるくらいリアルに作られている。


 にこっと微笑むお姉さんにドキドキしながらも、説明を続けて聞いた。


「まず、キャラクターの名前を決めて頂きます。名前は何になされますか?」


 げっ! 名前? そういえばゲームを早くやってみたい気持ちでいっぱいで、全く考えてなかったー!! ……これはマズイ。名前どうしよう。


「えーっと、ミズキでお願いします!!」


 とっさに口に出てきたキャラクター名は、リアルの私の名前だった。

 ミズキとか絶対他に使ってる人いそうだけど……。


「ミズキですね。かしこまりました。少々お待ちください」


 お姉さんの水色の瞳が薄っすらと光り始め、しばしの沈黙が訪れる。


「申し訳ございません。ミズキと言うキャラクターネームは既にどなたかがご使用なられており、現在お使いする事ができません」


 ……ははは。デスヨネー。

 DiabelOnlineが始まってから半年は経過している。ミズキなんて名前絶対に使われていそうな気がしていたよ……。


 AIのお姉さんの顔を見ながら苦笑いしていると、再度名前をどうするのかを問いかけられる。


「キャラクター名は何になされますか?」


 名前……どうしよ……。


 にっこりと笑うAIのお姉さんを前にしばらく名前が決まらず、キャラクター作成の段階でつまずいている私であった。

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