第4話
家の中は、玄関先を遥かに凌ぐ量のゴミの山で埋め尽くされていた。それらが元々何であったのか、どうしてこうなったのかなど、解ろうとも思わないくらいに、そこはもう、その意味をなさない物たちによって埋め尽くされていた。
私は手始めに、目の前にあったビデオテープを掴む。今の時代にVHSだ。それも、テープが飛び出して伸びきってしまっている。伸びたテープはくしゃくしゃに折れ曲がっていて、とても使えた代物ではない。これはもう、ただのゴミだ。
「やめて! やめてってば!」
私がビデオテープをゴミ袋に入れようとしたところで、母が叫んだ。私はそんな母が鬱陶しく思え、母を睨みつけ、「ねぇ、使えもしないもの、取っておいてどうなるの? これはもう、ただのゴミだよ」そう冷たく言い放ち、持っていたビデオテープをゴミ袋へと投げ込んだ。
「酷い! それはね、大切なものなの! あなたを映したビデオなのよ!」
大切なものならば、大切なものらしく扱っていれば、私も捨てたりはしない。でも、無造作にゴミが積み上がっている中にある、使えもしないビデオテープなんて、それはただのゴミでしかないじゃない。
「大切だって言うならさぁ、大切らしくしておきなよ! こんなにしておいて! ゴミにしたのはお母さんでしょ!」
母は言い返すことはせず、ただ、泣き出した。私は母の嗚咽を聞きながら、ただ闇雲に目に見えるゴミをゴミ袋へと詰め続けた。
ゴミの中には様々なものがあった。例えば私が子供の頃に色画用紙で作った工作たち。それぞれお城や動物やケーキなど、下手なりに形になっていたはずだったんだけど、ゴミの山に埋もれたせいで、それらは潰れてひしゃげてしまっていて、ただの紙くずへと成り下がっていた。
それからカセットテープに、壊れたおもちゃ、私が子供の頃着ていた服、大量の薄汚れたさらしの布は、布おむつだろうか。それらは幼かったあの日の私の、思い出の残骸なのだ。
ゴミの山の中から当たり付のアイスの棒を拾い上げたところで、母はぽつりと言った。
「それねぇ、あなたがすごくうれしそうで、あんまりにも可愛かったもんだから、交換はせずに取っておくことにしたのよ。あなたには、新しく買ったやつをあげてさぁ」
母のその言葉に、私はほんの少し、胸が苦しくなった。しかし、アイスの棒はゴミの山に埋もれていたせいなのか、なんだか得体の知れない虫が無数にくっついていたから、私はそれもゴミ袋の中へと放った。
外はもうすっかり暗くなっていた。汗をかいた体に、夜の冷気が刺さるようだった。解ってはいたことだけど、ゴミを捨てるだけで数日かかるだろう。私は実家を後にすると、一番近いビジネスホテルへと向かった。
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