くしゃみで変身?~美少女×王子様~

@yoshiki0413

第1話 出会い。♂♀の王子様

 太平洋戦争でアメリカと引き分けた日本は、その後、再び来るであろう世界大戦に備えて、我が国古来より存在する武道を、義務教育として、小中高で取り入れた。この物語は、そんな世界から数十年は経過した、現代のお話。あれほどまでに来ると騒がれていた、世界大戦はどこへやら、世間では芸能人の不倫騒動だの、およそ、世界の危機とは正反対の話題で盛り上がっていた。


「はあ・・・・」

 古くからこの町、つまり、久遠町に暮らす、アホ毛が特徴的な、ショートカットの美少女中学生、月島明日香は、錆びれた商店街をフラフラと彷徨いながら、溜息を吐いて、雲一つ無い、晴天の空を見上げていた。


 仲良くしていた親友の小百合が転校してしまい。元々、友人の少なかった明日香は、いよいよ明日から始まる、新二年生としての生活に、暗澹たる気持ちでいた。どうして、春休みなるものがあるのだろうと、哲学者のような考察を朝から繰り返しているが、それで、明日への不安が解消されるはずも無く、ただ、じっとしてもいられないので、外に出たのである。


「オラァ、どこに眼付けてんだぁ、この間抜けが」

「ひっ」

 自分が怒鳴られているわけでは無いのに、明日香は身を震わせて、近くの電信柱に身を潜めた。見ると、自分と同じ学校の制服を着た、小さな、彼女よりも少し背が高い程度の少年が、ガラの悪そうな不良と呼んでも差し支えないであろう、金髪にパンチパーマの男を筆頭にした、三人組に囲まれていた。


 少年は、八百屋の閉じ切ったシャッターを背に、三人の粗野な男達を見上げている。そして、不敵に唇を結んだまま、笑っていた。


「このガキ、何、笑ってやがる」

 リーダー格の、金髪パンチパーマが、少年の胸倉を掴んだ。可哀想に、少年の身体は地上を離れ、宙に浮いてしまっている。

「マジにぶん殴るぜ」

「ねえ・・・・」

 少年は宙に浮かされた状態で、初めて口を開いた。よく見ると、かなりの美少年である。艶のある黒髪は、飾りっ気なく短く切られており、瞳は大きく、睫毛も長かった。どこか不敵な、ともすれば、生意気ともとれる顔付きの、中性的なその少年は、素早く、腰に刺さっている木刀を引き抜くと、まるで居合のような速さで、金髪の右頬を横殴りにした。


「うげ」

 男は間抜けな声を出しながら、後ろに倒れると、他の二人の男に支えられて、即座に立ち上がった。

「こ、この野郎・・・・」

「先輩、あんたみたいな奴を黙らせるのって、最高に楽しいよね」

 少年はボーイソプラノの声で、物騒な言葉を吐くと、木刀を強く握り締めたまま、三人の男の顔を、一人一人、じっと見つめていた。

「く、くそ、舐めやがって。お前ら、行くぜ」

 不良達は三人で一気に、少年をリンチしようというのだろう。一斉に少年に向かって殴り掛かった。


「弱い奴ってさ、すぐ群れたがるよね。でも、0に何を掛けても、結局は0じゃない?」

 少年は小馬鹿にしたように言うと、三人組との間合いを一気に詰めて、木刀を振り上げ、さっきよりも遥かに上がった速度で、強烈な一撃を、それぞれの顔面に叩き付けた。


「うげ」

「ごふ」

「ふぎゃ」

 それぞれが個性的な断末魔を上げながら、アスファルトの上に大の字になって転がっていた。少年は木刀を腰に差すと、電信柱に身を潜めている、招かれざる見物客をチラッと見て、一言。

「ねえ、出て来たら。さっきから、趣味悪いよ?」

「あう、ごめんなさい」

 観念したように、明日香は彼の前に姿を現した。それが、明日香と、不思議な少年、結城双葉のファーストコンタクトだった。


「ね、ねえ、君って強いんだね」

「別に・・・・」

「あう」

 なし崩し的に、明日香は少年の道案内をする羽目になった。少年の向かう先は、立花丞(たちばなじょう)という、町内でも変わり者として知られている、中年男の家だった。かの男は、定職と言うものに無縁のようで、平日の午前中から町中をさまよい歩き、パチンコだの競馬だの、その手の人物にありがちな趣味を全て持っていた。しかし、不思議とハブリは悪くなく、食って行くには困らないだけの金はあるらしい。


「どうして、立花さんに?」

「別に、あんたには関係無いよ」

「もう・・・・」

 顔は可愛いのに、性格は冷たくて、所謂ドライと言うやつなのだろうか。明日香はそんなことを考えながら、立花家へと続く、長く急な坂を上って行った。

「もう、ここで良いよ。ありがとう」

 坂に足を踏み入れた矢先、少年は明日香にそう告げた。

「え?」

「ここから先は分かってるから。ああ、自己紹介が遅れたね。俺は結城双葉。まあ、今日からこの町でお世話になるから、一応ね」

「あ、そ、そうなんだ」

 

 明日香は言いながら、少年の姿を、爪先から頭の先まで見回した。やはり、可愛い、それでいて少しカッコ良いかも知れない。そんな少年と一緒の町で、しかも、制服から察するに、通う中学校も、自分と同じ久遠中学に違いない。そう考えると、彼女は顔から火花が出そうになる。今までの人生で、恋はしたことあるけれど、それのほとんどが、テレビで活躍する芸能人で、こんな身近な少年に、胸をときめかせたのは、生まれて初めてだった。


「こ、これから、よろしくね」

「ああ、うん、そう言えば、うう、やっぱり何でもない」

「え、どうしたの?」

「何でも無いよ。それより、は、早くどこかに行けって」

 少年は急に冷たくなると、そのまま坂を大急ぎで駆け上がって行った。明日香はその姿を不審に思いつつも、坂の下から眺めていた。

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