夏の夜の夢 第3話
車内にはおぼつかない般若心経が響く
駐車場を出て十分ぐらいたった。未だに心霊現象や変わったことは起きていない
ただ、俺が持っている人型の紙が少しずつ黒くなり破りかけ始めた
「・・・もう限界か・・・」会長は運転しながら人型の紙を俺から受け取り口に寄せる「お疲れ様・・・ふぅ・・・」
会長が息をかける・・・人型の紙は一瞬にして元々の色に戻った
それと同時に俺は何ともいえない胸騒ぎを感じた。チョコも何かを感じたのだろう、X先輩がなだめる。チョコは行きは膝の上に置かれていたが会長が忠告があったからか足下に置かれた
しばらくなにも起きなかった
俺の胸騒ぎはただの杞憂だったのか
その時だ
「来るぞ」会長が静かに言う
般若心経が止まると同時にえっ、と声が出る
「般若心経を続けろ、A」会長が注意した
キーーーーーーン
耳鳴りがする。俺だけじゃない。どうやら全員が体験しているようだ・・・うっ、何だ、耳が痛い・・・みんなが口々にに言う。会長だけが平然としていた
俺は耳鳴りのせいか頭痛がする。痛さで体を屈めたとき見た「会長・・・人です、前!、前!」
今会長は片目だけで見ている、視野も狭まっているし遠近感がない。危険だ
だんだん近づく・・・サラリーマン風の男性だ
会長を見る・・・不気味に笑っている・・・童顔の女顔が笑っている・・・無邪気な子供の顔・・・一番信用している人間が・・・
「くくっ・・・」会長は笑う・・・左目からの涙が眼帯から漏れ出す・・・
まさか・・・車を出す前・・・B先輩が見た頭に取り付かれていたのか・・・涙は本当の会長が止められない自分に涙を流しているのでは・・・
怖さで自分の番ではないが般若心経を唱える
会長はスピードを上げる
「会長、人!」「スピード落として!」「会長!」般若心経を唱えているY先輩以外が叫ぶ
バンッ!!
男性を轢いた・・・宙に浮く男性・・・そして男性が窓に叩きつけられた・・・その時、轢いた男性の顔が見えた・・・真顔の顔・・・
「ひぃ」俺は腰を抜かす「・・・会長?」
「はははははは・・・」会長が不気味に笑う
車内はY先輩の読経だけが響く
窓には男性が未だに乗っている
「いやー霊にしては頭を使うな・・・入れぬなら出させる、か・・・残念だが今は全く見えないんだよ、残念だね・・・」会長は動じてなかった
俺は前を見る。会長が見るな、と忠告するが見てしまった。真顔だった男性の顔が凄い形相になる・・・が消えた。消えたと同時に
バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ
木の枝が車に当たる音が鳴り響く。森を走っているわけではない。今は街中を走っている。音が止まらない
バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ
みんな怖さで体を屈める。知らず知らず全員が般若心経を唱えている・・・いや一人以外は
「ちっ、B!!」会長はバックミラーで後ろを見る「B!!聞くな!!」
俺は身を屈めながら盗み見る。B先輩が弓のように体を反らし天井を見る目は剥き出し、舌を出しながら小刻みに震えている
「あの時に少なからず汚されたのか・・・」会長は唇を噛む「もう少し・・・もう少しなんだ・・・頼む・・・もう少し・・・」
会長はスピードを上げる。無情にも信号に捕まる。その度に会長はくそっ、とハンドルを叩く
俺達は般若心経を唱えるだけ。音は止まない
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ・・・・・・」B先輩は乾いた笑いをする
バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ
早く覚めてくれ、早く・・・頼むから・・・夢から覚めてくれ・・・
「そうだ!」B先輩の隣に座るY先輩が叫ぶ「もしかしたら・・・」
Y先輩は何かを行動する。会長もY、どうした、何をする?とバックミラーで確認する
「ひひひひひひ・・・うっ・・・がぁ・・・や・・・め・・・かはっ」突如B先輩は苦しみだし前の椅子にドスっと当たる「・・・・・・・・・」
B先輩は静かになった。Y先輩はB先輩が気を失ったことを言う。
「Y、何をした?」会長はハンドルを握りしめる「よくやった!!」
だが音は止まない
気が狂いそうだ
バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ・・・
「音が止まった・・・」A先輩が呟く。みんなが反応する
「もう大丈夫だ」
みんな体を起こす。俺がサイドミラーを見ると鳥居があった。距離的に鳥居を潜ったときに音がやんだようだ
目の前にまた鳥居が現れる
「会長・・・お祓いはお寺ですよね」
「ああそうだ」
鳥居には『不動明王寺』と書かれてあった
鳥居を潜り山に入る。しばらくすると朱色の寺が現れる・・・時計を見ると8時だった
「到着だ・・・」会長は車を停める
母屋から初老の男性が現れた。白髪に髭を蓄え甚平を着ている
「御前、お早う御座います」会長は車から出て頭を下げる「お祓いよろしく御願いします」
「おう、任しとけ」
男性は住職らしい。みんな車から出た。気を失っているB先輩をA先輩が担いでいる
「でけー」重そうにA先輩がいう「会長と並んでいるからかさらにでけーな」
確かに住職は大きく恰幅がいい。160センチの会長より顔一つ分以上高い
「坊、その目・・・失敗したな」住職は笑っている「珍しいなーお前が失敗か」
「ぎゃっ!!」会長がいきなり聞いたことがない悲鳴を上げる
住職がしゃがみ込んで会長のお尻を掴む
「失敗は珍しいが相変わらずいいケツだな。男にしとくのは勿体ないわ。今度かかあに秘訣を教えてやってくれ」住職はがははと笑いながら豪快に触る。会長はセクハラだと逃げる・・・見たことがない会長だ
俺は何だか目のやり場に困り目を背けた、が方向が悪かった。X先輩の下が目に入った
「悪かったわね・・・・・・何時もワイシャツで隠れて気付かなかったけど・・・確かにいい形・・・パンツに皺もない・・・負けた・・・」
X先輩の俺を見る目つきには殺意がこもっており冷や汗がでた
弁解するも信じてもらえず「男に負けて悪かったわね・・・」と睨まれる・・・一瞬Y先輩は会長よりずっと身長が高い、会長は女性に負けてるといいかかるが敵が増える予感がし素直に謝る
夢から覚めたんだよな?
***
「御前・・・いい加減にしてください」会長は息が切れ切れで話す「早くお祓いを」
X先輩は見たことがない会長をからかう。「会長、触らして。秘訣は何です」というと黙れー、と会長が唸る。みんな笑いが出る。さっきまでの恐怖が消えていた
住職はつまらんの、とぼやきながら気を失ったB先輩を見る
会長は昨日からの成り行きを簡単に説明する
「坊、お前が見る限りあそこは酷くなっとるんか」
「そうですね、数年前よりは悪さをしますね・・・B、住職が見ている男ですがそこまでなるとは予想以上です・・・このままでは死人が出てもおかしくありません」
「いや、実はあそこの近くの糞坊主から相談を受けててな・・・」
身内話でついていけない。ただ嫌な予感がしたので質問した
「あの、死人が出てないというのは本当ですか?」
住職は俺を見る。気が抜けた顔だ「そうじゃ、海に引きずられ落ちたり怪我は聞くが死んだは聞かん」
「えっ、会長、クラスメイトは亡くなったんじゃ・・・」
「私が何時死んだって言った。事故ったしか言ってない。自転車に乗っている最中に横から押されて転び手首を骨折だ。嘘はついていない」
俺は文句をいう。Y先輩もあの場にいたから何か言いたそうだ
「坊は何を失敗したんだ」会長は反ぱいを破られたと答える「そりゃ確かに何時死んでもおかしくないな・・・」
会長がA、耳を塞げと言い終わると同時にもの凄い音量の喝を住職が入れる
B先輩がびくんと動き「あれ・・・ここは」と呟く。しかしA先輩はあまりの音量に気を失いかける
同時にジャラジャラと石がB先輩の腕から落ちた
「なんじゃこりゃ・・・数珠玉か?」
「なるほど・・・あの時Bに念珠を填めたのか・・・」会長は感嘆する「Y、すまん・・・助かった・・・・・・また・・・もらう・・・」
「さて他は」住職はチョコを見る「なんじゃちっこいのう。うちの娘もこういうのが欲しいらしいが・・・意外にいいな、坊・・・だがサモエドとかハスキーとかも捨てがたいが・・・」
会長ははい、はい、と軽く相槌をしながら煙草を吸う
「嬢ちゃん・・・どこかで・・・」住職はY先輩見て言うが口元が笑っている。Yは礼儀正しく挨拶する「嬢ちゃん、坊の横に立て・・・・・・この差、正月に妹さんの入試合格祈願に坊と来た子じゃな」
Y先輩は笑いを堪えながら妹が希望校に入学出来ましたとお礼した。
「・・・御前・・・いい加減に・・・」会長は切れる寸前だろう
「坊はつまらんのう・・・この子等は恐怖を味わったんじゃ、まずは心を癒やさんとな」会長も同意見なのか黙る「まぁからかうのも終わったし、やるかのう」
住職が人を呼ぶ。本堂から作務衣を来た青年二人が出てくる。どうやら修行僧らしい。住職はお祓いの指示をする
「御前、そいつらにきつい説教御願いしますね」明るく会長はいうが顔は笑っていない。会長なりの俺達への復讐だ
「あれ?会長はお祓いは」会長が本堂の裏手に向かうのでX先輩が聞く。会長は俺は特別だからと去っていく
「あっ・・・言い忘れた・・・君達・・・今回の件は人に話してはいけない・・・忘れなさい。一夜の幻・・・妖精が見せた夏の夜の夢だとね」
俺達はお祓いを受けた。住職は甚平から法衣に着替えおり威厳が倍増していた。お祓いは意外に短かったが説教が異様に長かった。おまけに法衣のおかげか説教時の怖さも倍増だった。説教を受けに来た感じだ。最後に会長から渡された御守りを御炊き上げして終わった。全員が気分が楽になったと口々にする
お祓いが終わると母屋に案内され朝食を食べることに。てっきり精進料理かと思ったが肉類が出た。俺以外も不思議に思ったのか修行僧の方にA先輩が聞く
「本当は駄目なんですが我々は隠れて生臭を食べる事があるんですよ。住職はこそこそ隠れて感謝しないで食うなら堂々としっかり感謝して食え・・・と。あまり言いふらさないでくださいね」
見かけ通り住職は型破りのようだ
住職の奥さんも顔出し「若気の至りで冒険しちゃだめよ」と笑顔で注意される
A、B、X先輩は先に箸を付けたが俺とY先輩は会長を待った。待っても来ない。奥さんが冷めないうちにと勧める
「すいません、会長・・・××さんはまだ来ないんですか?」俺は聞いた
一瞬奥さんや修行僧の方が止まる
「・・・主人が今お祓いしていると思うから時間がかかるわよ」
「××様は別室で食べる予定ですし・・・」
歯切れが悪い答え方だった
仕方がなく箸を付ける
食事が終わると修行僧のかたから「お祓いは無事に終わりましたが念の為」と全員に御札と電話番号が渡される。A先輩の車もすでにお祓い済みとも告げられる
一息つくとY先輩と俺以外の先輩は帰ることになった
時計が12時をさすがいっこうに会長が戻ってくる気配がない・・・変だと思ったがY先輩と世間話をして気を紛らわせた
「先輩は会長と付き合い長いんですか」
「えっ・・・私が入学してすぐだから二年くらい」「他の先輩から聞いたんですけどサークル結成が初めてじゃ・・・」
「あれは先輩が・・・初対面のふりをして」
「出会いは何なんです?」
「フリマで先輩が占いをやっていて・・・当時友達が心霊で困っていて依頼したのが始まり」
「今回のあれみたいな?でどうしたんです?」
「和解・・・先輩自身・・・害がない限り・・・除霊とかしないみたい」
心霊現象で和解・・・聞いたことがない
「それにしても物好きですよね、先輩・・・」
「えっ?」
「あんな変人・・・どこがいいのか・・・まぁ顔は良いか・・・性格は問題だけど」
Y先輩は黙る・・・地雷を踏んだか
「そうだ、先輩はどうして今回参加したんです・・・初めは参加しない感じがどうして」
「先輩に呼ばれたでしょ・・・その時・・・先輩に頭を下げられたんだ・・・先輩が行くまで君達を護ってくれって・・・必ず護るから信じてくれって・・・」
そう言えば帰りの道・・・Y先輩はなにが起きても般若心経を読み続けた・・・会長を信じてたからか・・・
「嬢ちゃん達、まだ居たのか?」
突然背後から住職が声をかける。甚平を着ている
「あの××さんは?」俺は聞く。君は知りたがりの・・・と住職が確認する。会長は一体どんな紹介をしたんだ
「坊なら無事だ」住職は笑って話す
「無事って・・・何かあったんですか!!」Y先輩が動揺する
「えっ・・・何もない何もない・・・今坊と酒呑んでいて肴を取りに来たんじゃ」
「あのーバイクを取りにいくと約束したんですが・・・」俺は嘘をつく
「へっ・・・・・・そうじゃそうじゃ、酒呑んだからバイクは業者に運んでもらおうとなって電話しに・・・」
「左目・・・」Y先輩は呟く
「じょ、嬢ちゃん・・・坊から聞いとんのか・・・」住職は目を見開く
「なにも聞いてませんし知りません・・・」
会長とは違い簡単に尻尾を出した。左目が原因は明白だ
「・・・嬢ちゃんには悪いがなにも言えない・・・坊の問題なんだ・・・坊の気持ちを察してくれ」
Y先輩は引き下がらずに住職に噛みつく。半分涙目だ
「・・・仕方がないのう・・・儂は女の涙は・・・苦手じゃ・・・合うだけじゃぞ・・・」
Y先輩は頷く
「そうじゃ、知りたがりの・・・君、坊のバイクはどこに停めてあるのじゃ」
俺は詳細に説明する・・・知りたがり知りたがりって・・・確かに知りたがりだけどさ
住職は業者に電話した・・・
・・・俺は住職が何か隠してると思いすべて嘘だと見破ったつもりだ・・・がもしかしたら会長は本当に住職と酒を呑んでいて肴を取りに行くついで電話する予定だったのでは・・・
一夜にして疑り深くなったな俺・・・
・・・会長・・・もう少し後輩に優しくしてください・・・
そして、ちゃんと紹介してください
お尻言いふらしますよ・・・・・・いや呪われるか・・・
小さいくせに態度はでかいだよな・・・
一瞬だが寒気が走る
触らぬ神に祟りなしか
***
住職は本堂の裏手の小屋を案内した・・・手に酒とスルメを持って
小屋は不思議な造りだった。壁が二重になっている。普通の小屋が竹細工・・・竹で綺麗に編まれた壁で囲まれているようだ。扉も二重にある
「坊・・・入るぞ」
小屋には裸電球が一つだけで薄暗い・・・広さは十畳くらいで七月なのにひんやりして寒い・・・中央には火鉢がある・・・清らかな雰囲気が漂っている
「お茶入れとるんか?」住職は中にいた着物を着た人物に話しかける
髪が背中まであり・・・癖がある・・・細い指で急須を準備していて・・・小柄で・・・煙管を吸って・・・左目が包帯で隠さ・・・!!
が女性の声がした・・・ウィスパーな独特な綺麗な声
「電話や酒を持ってくるには遅うございました・・・お客様には物好きがおられるようなのでこちらに御案内かと」
住職はそうかそうか、と笑い俺達を火鉢の周りに座らす。着物の女性が粗茶で申し訳ありませんが、と礼儀正しくお茶を出す
部屋を見渡すと古い本屋や仏具が置かれており、部屋の隅には水が流れ瓶に貯まっている・・・会長は見当たらない・・・トイレか?
「住職・・・会長・・・××さんは?」俺の隣が女性が座っている。清楚な女性だ・・・もしかしたら住職の娘?・・・ありがちな許婚だったり。Y先輩は女性を睨んでいる・・・これが世に言う修羅場か・・・
「スルメを焼くか・・・」住職は俺を無視し火鉢に網を置く
「・・・先輩・・・ですよね・・・」Yは左手と左耳をみる「黒子が同じ場所に・・・」
「えっ!!」驚き飛び跳ねる
住職と女性・・・いや会長の笑いが響く
「くくっ、バレたか。もう少し騙せると思ったが」会長が上目遣いで俺を見て女声で「わっちを女と思ったか」
何故花魁言葉・・・何故女ものの着物を・・・
住職も大声で坊、タイに行けとかトルコに行けと会長を叩きながら言うが会長は煙管を吸いながら軽くあしらう
「どうせ君達は残っていると思ってね・・・知りたがりもいるし・・・暇だし・・・からかうかと・・・御前もすぐに解ったみたいだしな」
だから知りたがりは止めてくれ・・・いや、やめてください
そして会長は住職から酒をもらい・・・説明しだした。住職がするのか、と聞いたがこの子達は大丈夫だし、話さないと住み着きますよ、と笑った
この小屋は呪力で護られており出ることや入ることが出来ないらしい・・・霊的にだ。竹細工の壁に秘密があるとのことだが言わない
そして自分は術を破られ汚れているのでここで穢れ落としをしている最中だと・・・免疫力が弱まりウイルスに感染しないために無菌室入るようなもの・・・と例えた・・・つまり今憑かれると大変らしい・・・服から煙草まで会長の持ち物すべて今修行僧の方が御祓いしているらしい。煙管もこの部屋にあったものらしいが私物にも感じる
「会長・・・なんで女装なんですか・・・」俺はまさか女装癖がと考えるが会長は心を読んだのか煙管で頭を叩いた
「目くらましだ・・・」会長は正座を崩す・・・男と解っているが花がある「よくあるだろ、男に女の名前を付け健康に育つように悪霊を欺く・・・ブルース・リーも・・・そんな映画があった。詳しくは知らないが」
住職が偶にこんな格好させて祓う時もあるぞ、と笑って付け加える
「・・・先輩・・・左目、大丈夫ですか・・・」Y先輩が心配して聞く
「失明したわけではない・・・大丈夫」
「教えて下さいませんか?」
会長は煙管を吸う・・・詳しくは話せない・・・ただ借りがあるから出来るだけ話す、と溜め息をつく
会長は左目しかあの世の者を見れない・・・気配は判るらしいが。その一方でこの世の者は歪んで見える・・・極度の乱視らしい・・・現在は眼鏡を外しているので俺達の顔はわからないみたいだ。術の失敗も左目に返ってくる・・・会長は人を呪わば穴二つが左目だっただけ・・・と煙を吐く
「坊は普通の家に生まれた・・・」と住職が話そうとした瞬間・・・会長は睨み止める
何か事情があるみたいだ。深夜に見た真剣な眼差しより真剣な眼差しだが悲しさも感じ取れた
「酒の席が冷めた・・・」会長は立ち上がり首を傾け再び女声で艶っぽく「君達呑める口?」
俺は未成年です、と話すが会長は睨む・・・何時もより怖い「あっちの酒が呑めんのか」
住職も「坊の酒じゃないが不動明王様もOKをだしたぞ」
Y先輩はまだ未成年ですが戴きますと言う
誰かまともな仏を呼んでください!!
何時の間にか住職の奥さんが料理を運んできた・・・そして酒も沢山・・・
酒宴が始まった・・・初めに可笑しくなったのは住職と会長・・・住職が「両手に華じゃ!!片方は偽物だが!!がはは」と言えば「御前、それは言わない約束」と女声で話す会長
次にY先輩が可笑しくなった。日頃の会長に鬱憤が溜まっていたのだろうか会長に絡むが・・・口調が怖い・・・赤ちゃん言葉だ・・・ほっぺちゅねちゅねしてあげまちゅね、たら会長にかわいいでちゅねと頭を撫でる・・・会長は地声でご免なさいの連続
楽しい酒の席だった・・・がそれは突然終わった
酔ったY先輩が私も吸ってみたいと会長と揉み合いになる「酒はいいがこれは駄目だ!!煙草は駄目だ!!」「吸ってみたい、煙管貸してぇ」の押し問答、住職は「いやー坊も明るくなったな」と明後日の感想。仕舞いには会長は「誰だYに呑ませたのは」・・・あんただ
がふいにY先輩が手を離し俺の方に飛んできて・・・気付くと毛布を掛けられていた。目の前にはY先輩の顔がありびっくりしたが酒臭くてたまらない
煙草の匂いがする・・・会長は起きているのだろう・・・起きようとした瞬間Y先輩が俺を止め黙るように合図した
「坊・・・来年は出るんだろ・・・寂しくなるな」
「帰ってきますよ・・・父もいますし」
「あっちにいっても占いやる気か・・・」
「この忌々しい血で救えるならやりますよ」
「・・・無茶はするなよ・・・無茶すれば目がつぶ」
「御前・・・何時聞かれるかわかりません」
「・・・すまん・・・向こうの知り合いを紹介してやるからな」
再び目が覚めると朝だった
俺とY先輩は朝食を頂き車で家まで送ってもらった。会長はもう一夜止まる、明日は大学に行くからと手を振って別れた
家の前まで送ってもらった・・・自分の知りたがりが嫌に感じた
そういえば変わった歩き方をしていたな・・・足を引きずるような歩き方・・・たしかこんな風に
ザッザッ
それなんか言ってたな
「・・・てんぽう・・・てんない・・・」
「聞くんじゃなかった・・・」
次の日
サークル小屋にいく前に事件メンバーが集まった
俺は○○の真相を話す・・・会長の事は話さない。住職に聞いたと説明を補足した。その上でみんなが話し合う。他のサークルメンバーになんと説明するかだ。下手な説明では他の奴が行くとも限らない
だがいい案がない
みんなサークル小屋に向かう
扉を開けると会長が座っていた
「おぅA、どうだった」
来た・・・早速だ
「君達」会長が振り向く。左目には眼帯をしている。手には一冊の本・・・シェークスピア作『夏の夜の夢』「大学から苦情だ。○○前の防波堤、補強工事をしていたのに無理に行こうとしたそうだな。すぐに戻ったからお咎め無しだが二度とするなよ」
周りからなんだよ、行けなかったのか、と声を上げる
会長はくわせ者だ
会長は煙草を吸ってくると立ち上がる
俺と会長がすれ違う
その時だ
会長が眼帯をずらす
まだ充血している目が見えた
「憑いてるぞ」
終
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます