EX ダストとゆんゆん エピローグ
「──てわけでよ。バニルの旦那は是が非でも俺らにくっついてもらいたかったみたいだぜ」
ちゅんちゅんと小鳥たちが鳴く早朝。俺はベッドの感触と気怠さに包まれながら、隣で俺と同じように横になってるゆんゆんと取り留めのない話をしていた。
「そう言われてみれば確かに、バニルさんって私達がくっつくように動いてた気がしますね」
何度も干渉してきたわけじゃないが、俺達が大きく近づく時にバニルの旦那の存在があったように思う。
「でも……今のダストさんの話のおかげで安心しました。あの時のバニルさんの占い、結構心配してましたから」
「? 占いっていつのことだよ?」
「最初の最初。私とダストさんが出会って、バニルさんとも出会ったあの時ですよ」
「ああ……旦那が相談屋始めた時か。確かバニルの旦那に『我輩ですら目を背けたくなる未来を持つ娘』って言われてたな」
……旦那が目を背けたくなるって相当だよなぁ。
「でも……そっか。俺達がくっつく未来が旦那には見えないってことは、俺達が一緒にいる限りは、旦那が見た『目を背けたくなる未来』はこねぇってことか」
「はい。……裏を返せばダストさんとくっつかなかった私には『目を背けたくなる未来』しかなかったってことですけど」
旦那は、ゆんゆんにそんな未来が来ないよう、俺達をくっつけようとしたってのは流石に考えすぎだろうか。
バニルの旦那は確かに生粋の悪魔だが…………同時にゆんゆんの友達なのだから。
「ま……俺とくっついたほうが更に酷い未来が来るかもしれねぇけどな」
未来が見えないのだから当然その可能性もある。……それだとゆんゆんの人生詰んでることになるが。
「大丈夫ですよ。今の私は今までで1番幸せです。……それに、ダストさんの悪い所なんて全部知ってて、その上で好きになっちゃいましたからね。今更ダストさんに不幸になんかさせられませんよ」
……言うじゃねぇか。なら少し試してやるか。
「おい、ゆんゆん。恋人同士になったんだからもう借金はチャラってことでいいよな?」
「あ、はい。もとからそのつもりですよ。どうせ返って来ないのは分かりきってますし。ただ、ダストさんの財布とかクエストの報酬とかは私が管理しますからね。何か欲しいものとかあったら私に言ってください。必要だったら買ってあげますから」
「……………………冗談だよな?」
「今すぐ借金が返せるなら冗談にしてあげてもいいですよ?」
………………まじかー。
「ま、まぁ金のことは置いといてだ…………ゆんゆん、今度俺のナンパに付き合えよ」
「いいですよ。とりあえずナンパ失敗して手酷く振られたダストさんを慰める役でいいですか?」
「………………何で振られる前提なんだよ」
「え? 男の趣味が悪い紅魔の里ならともかくアクセルの街でダストさんのナンパに引っかかる人なんて私含めてもいませんよ」
何で俺恋人に可哀想なものを見る目されてんだよ。
「というか、わざわざナンパする必要あるんですか? 前までは童貞捨てたくて必死だったのは分かりますけど」
「そりゃ……あれだろ。同じ相手ばっかりだと飽きるかもしれないじゃん」
「飽きさせませんよ」
「そうは言ってもだな……」
「絶対に飽きさせませんから。安心してください」
「お、おう……」
その自信はどこから来るんだよと思ったが、実際ゆんゆんの身体は麻薬みたいなもんで、飽きる気がしないのも確かだ。その上やる気まであるんなら飽きるほうが難しいかもしれない。
「どうです? ダストさん。私を不幸に出来そうですか?」
「…………無理な気がしてきた。というかお前俺のこと好きだ好きだ言ってる割には、俺のことを立てようとしないのな」
俺への好意が前面に出てるだけで、基本的には俺に対する扱いが前と変わってない気がする。
「だってダストさんは私の彼氏ですけど、同時に悪友ですからね。悪友に遠慮なんてしませんよ。だからダストさんに貢いだり、酷いことされても好きだからって泣き寝入りすることはないです」
言いたいことを言い合える関係なら確かに大丈夫か。
「それに今のダストさんって女性関係とお金関係を除けば前より大分まともになってますし、その2つをしっかりと管理して、ドラゴンと触れ合わせとけばわりといい人になると思うんですよ」
「好き放題言うのもいい加減にしろよぼっち娘。少しは遠慮しやがれ」
「嫌です。だって、私、ダストさんとこうして言い合ってる時間が大好きですから」
「………………」
こいつ本当はっきりと物言うようになったな……。これが俺に対してだけか全体的に成長したのかはまだ判断しかねるが。
「でも、まさかダストさんとこんな関係になるって…………出会った時は思ってもいなかったなぁ」
「そりゃ俺の台詞だっての。お前俺のこと友達すら拒否しやがるし…………体の発育が良いだけのクソガキだったしな」
それでも命の恩人だからと、寂しそうにしてるこいつをほっとくにほっとけなくて……ジハードが生まれた頃くらいから目を離せなくなった。
……それがいつ甘ったるいものになったかはやっぱり全然分からねぇが。
「それが今は恋人で悪友だなんて……あの頃の私に言っても絶対信じませんね」
「……今の俺が信じらんねぇからな」
なんでこんなにいい女が俺みたいなチンピラに惚れちまったんだか。本当に紅魔族の女は男の趣味が悪いとしか思えない。
「そのうち信じられますよ。私がどれだけダストさんが好きなのか……ずっと一緒にいれば嫌でも分かりますから」
「……もしかしてそれってプロポーズか?」
ずっと一緒にって……。
「違いますよ。気持ち的には間違ってないですけど。そ、その……プロポーズは相手からしてもらいたいなぁ……って」
「はっ……乙女みたいなこと言いやがって」
あんだけ積極的だったくせに。
「鼻で笑わなくてもいいじゃないですか! 私だってロマンチックなプロポーズ受けてみたいんですよ! 告白は私からだったんですし、プロポーズはそっちからしてもらっていいと思うんですけど!」
プロポーズねぇ……。まぁ、ずっと一緒にいるってんならいつかはしないといけないんだろうが……。
「プロポーズはともかく、お前、俺と結婚したら『ゆんゆん=シェイカー』になるんだがいいのか?」
「………………え?」
「結婚したらお前の名前は『ゆんゆん=シェイカー』な。…………なぁ、ちょっと爆笑していいか?」
ゆんゆん=シェイカー呼ばれてるこいつを想像すると…………うん、やばい。多分笑いだしたら止まらないわ。
「……ダストさん、短い付き合いでしたが別れましょう。大丈夫です今ならまだ悪友に戻れます」
「ばーか。後で嫌だって言っても離さねぇって言っただろうが。諦めろゆんゆん=シェイカー……ぷっ…うははははっ」
「笑わないで! うぅ……笑わないでくださいよ! ダストさんのバカ! バカバカ!」
こらえ切れなくなって笑いが止まらなくなる俺の胸を、ゆんゆんは涙目になりながらポカポカと叩いてくる。
「やめろ痛いだろゆんゆん=シェイカー……くくくっ……ダメだ…ぷっ…腹痛い」
「笑わないでって!……うぅ、なんで私こんな性格悪いチンピラ好きになっちゃったんだろう」
笑いながらも俺は思う。きっと俺たちはずっとこうして過ごしていくんだろう。
呆れられて、泣かして、喧嘩して、尻に敷かれて。
恋人になった実感はない俺だが、それだけは信じられた。
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