EX どらごんたいじ 起

「うーっし……じゃあ、名前呼ぶから返事しろよー」


 エンシェントドラゴンが棲む山の麓。俺はエンシェントドラゴンと戦うために集めたパーティーメンバーを見回しながらそう呼びかける。



「一人目、友達増えたのにぼっち感がなくならない永遠のぼっち娘、ゆんゆん!」

「ダストさん、この戦い終わったら覚えててくださいね」


 満面の笑顔で青筋立ててるゆんゆん。器用なことしやがる。



「二人目、頭もおかしければネーミングセンスもおかしいまな板ウィザード、めぐみん!」

「今ここで私が頭がおかしい事を証明してもいいですか? 撃ってもいいですか?」


 満面の笑顔で爆裂魔法の詠唱を始めるめぐみん。おい、カズマ早く止めろ。



「三人目、自称女神という痛い人、運もなければ頭も足りないチンピラプリーストのアクアのねーちゃん」

「チンピラにチンピラ言われるとか心外なんですけど。というか私ちゃんと女神なんですけど。しかも本来の力取り戻して絶好調のすごい女神なんですけど。カズマさんカズマさん、あのチンピラをゴッドブローで吹き飛ばしてもいいかしら」


 満面の笑顔でシャドーボクシング始めるアクアのねーちゃん。おい、今のねーちゃんの力は洒落にならねぇからカズマ早く止めろ。



「四人目、ララティーナお嬢様」

「私をララティーナと呼ぶな! と言うかなんだ、ちょっと期待してたのにこの仕打は何だ!」


 だってお前名前で呼ぶ以外は褒めても貶しても喜ぶだけじゃん。



「五人目、魔王退治しても結局やるのはパーティーメンバーの尻拭い。持って生まれた幸運をドブに捨ててる鬼畜男、カズマ!」

「何で俺こんなところにまできてこいつらの尻拭いしないといけないんだよ…………」


 そりゃ、カズマ以外にこの三人扱える奴がいないからだろ。



「六人目、質の高いガラクタを買わせれば右に出るもののいないポンコツ店主、働けば働くほど赤字を生み出す穀潰し。残念リッチーのウィズさん!」

「…………この口上言わせてるの誰か分かりました。ダストさん、ごめんなさい」


 ウィズさんは癒やし。



「七人目、名前を覚えてもらえない噛ませ犬。…………何でお前ここにいんの? カツラギ!」

「僕の名前はミツルギだ! というか呼んだのは君だろう! アクア様が困っていると聞いたから来たというのに…………あと僕は噛ませ犬じゃない」


 そんなこと言ってカズマに勝ったこと一度もないくせに。まぁ魔剣の攻撃力は凄いから一撃くらいはいれてくれるのを期待しよう。



「八人目、…………金もなければ性格も悪い、女にモテないことにかけてば右に出るもののいない童貞。ドラゴンいなけりゃただのチンピラこと俺、ダスト」


 …………何で俺、自分で自分をこんな貶さなきゃいけねぇんだよ。



「九人目、強くて賢くかっこいいゆんゆんの忠実な使い魔にして友達。今は可愛らしい少女の姿から元の姿に戻れないドラゴン娘、ジハード!」

「……らいんさま、はずかしい」

「最近彼女が出来ると聞いてそれがいつかとそわそわしているチンピラよ、話が違うではないか」


 ジハードに酷いこと言うくらいなら俺は死を選ぶ。俺のドラゴン愛を舐めんな。



「十人目、強くてかっこいアクセルの街の人気者。全てを見通す大悪魔バニルの旦那」

「まぁ、十分に悪感情を味わえたからよしとするか。約束通りあの忌々しいエンシェントドラゴン退治に力を貸してやろう」


 …………もうこの口上だけで俺疲れたんだけど。あと退治とか無理だから。戦うだけだから。アクアのねーちゃんが攻撃寄りのタイプならなんとかなったかもしれねぇが。



「あとは俺の相棒のシルバードラゴン、ミネア。以上のメンバーでエンシェントドラゴンと戦う」


 テイラーたちはお留守番だ。流石にあんなのと戦うのにあいつらは連れていけない。



「そういや、魔剣の兄ちゃん。あの取り巻きの2人はどうしたんだよ」

「フィオとクレメアは置いてきた。ハッキリ言ってこの戦いにはついてこれそうもない」


 酷いこと言うなおい。たしかに事実だし、もし連れてきてもここで留守番させただろうけど。

 で、なんでカズマは嬉しそうにマツルギの肩叩いてんの? ミツラギもなんか嬉しそうだし。実はお前ら仲良しさんなの?


 ……つうか、あの取り巻き2人そんな名前だったのか。どっちがフィオでどっちがクレメアなんだろう。





「それよりダスト。うちの問題児3人がやる気満々だからしょうがなくついてきたけど、流石に過剰戦力じゃないか?」


 いろいろと納得してないような感じのカズマ。……まぁ、エンシェントドラゴンをよく知らなきゃそう思うよなぁ。


「過剰戦力どころかわりとこれでギリギリというか…………エンシェントドラゴン相手にたった十人程度で挑むとか無謀にもほどがあるぜ」


 ジハードがまともに戦えない今、本来の力を取り戻したアクアのねーちゃんがいなければ勝負にもならない。本当はこのメンバーにアイリスやゼスタを加えて戦いたいレベルだ。


 …………誰だよゆんゆんを囮にしたらどうにかなるって馬鹿なこと言ったやつ。



「佐藤の言う通りだと思うけどね。エンシェントドラゴンなんて僕がいれば十分だよ。わざわざアクア様の手をわずらわせる事もない」


 なんか自信あり気でそんな事を言うミツラギ。そういえばこいつ前にエンシェントドラゴンを倒したって勘違いしてたんだっけ。多少ドラゴンのことを調べればエンシェントドラゴンを倒したとかありえないってきづくはずなんだけどな。

 この国は元々ドラゴン使いがほとんどいないのもあってドラゴンに関する情報が少ないし、カズマやミルツギみたいな変な名前でチート持ちと呼ばれる連中は常識に疎い所がある。仕方ないっちゃ仕方ないだろうが、今の認識のままエンシェントドラゴンと戦わせるわけにもいかねえよな。


「あー……この場でちゃんと分かってないのはお前ら2人だけみたいだから説明しとくか」


 特に魔剣の兄ちゃんはドラゴン舐めすぎててムカつくしな。




「いい機会だ。とりあえずドラゴンの強さの目安から講釈してやるぜ」


 いきなりエンシェントドラゴンの強さを言っても想像つかないだろうし。


「まず前提として、ドラゴンは下位種、中位種、上位種の3つのランクに分けられる。生まれてから100年未満なら下位種、100年以上なら中位種。中位種が更に長い年月をかけて完全に自我に芽生えて人化できるようになれば上位種。うちのドラゴンで言えばジハードは下位種、ミネアは中位種だ」


 ……まぁ、ジハードは下位種って言うにはいろいろ規格外すぎるんだが。


「下位種は人間で言うなら赤子から成人するまで……15歳くらいまでってとこか。知能はちょっと賢い動物並だが身体はどんどん大きくなるし、どんどん強くなる。と言っても、魔剣の兄ちゃんなら倒すだけなら余裕だろう……ムカつくけど。ロリっ子の爆裂魔法なら100年近く生きた個体でも一撃で倒せる。それくらいの強さだ」



「…………何で僕はムカつかれてるんだ」


 ドラゴン好きとしてはドラゴン舐めてる奴に余裕で勝たれたらムカつくんだよ。



「そんで次に中位種。人間で言うなら成人した後か。体の成長は止まりはしないが下位種の頃と比べれば緩やかになる。ただ、下位種の頃と比べて魔法への防御力や抵抗力が格段に上がっていくのがこの頃だ。知能も上がってブレス攻撃の威力も上がる。リッチーみたいに魔力の伴わない単なる物理攻撃が効きづらくなるのもこの頃だな。成り立ての中位ドラゴンが魔王軍の親衛隊や側近より少し強いくらいだ。忌々しいことだが魔剣の兄ちゃんなら苦戦はしても倒すことは可能だろうな。バニルの旦那ならドラゴンの素材とろうとか変なこと考えなきゃ余裕で倒せる。魔法使い系は相性が悪いからゆんゆんが勝てるかどうかは微妙、ウィズさんなら苦戦はしても勝てるだろうが。頭のおかしいロリっ子の爆裂魔法なら1発から2発あれば倒せる」



「…………何で僕は忌々しいとまで言われないといけないんだ」

「まぁ、そう怒るなよキョウヤ。ダストはドラゴンが好きみたいだし」

「僕の名前はミツルギだ!…………あれ? 佐藤、今僕のことをなんて呼んで……」

「そうか、名前間違って悪かったよカツラギ」


 お前らやっぱ仲いいだろ。



「話すすめるぞー。それで上位種の話だが、上位種になればドラゴンという種族として完成したって言っていい。魔法は苦手な属性以外は無効になるしそもそもの魔法防御力が桁違いに高いから魔法を使って戦うものにとっちゃ天敵だ。鱗の硬さも世界最硬クラスで魔力のこもってない攻撃で傷つけることはかなわない。魔力のこもったその爪牙はどんな存在相手でも引き裂く事が可能だし、ただのブレス攻撃が上級魔法並の威力。上位種になったばかりでもそれくらいの強さを誇る、それが上位ドラゴンだ。強さは上位種になったばかりでも魔王軍幹部クラス。今の魔剣の兄ちゃんじゃまず勝てない。……その魔剣を使いこなせりゃ話は別だがな。ウィズさんでも勝とうと思えば相打ち覚悟。なり立ての上位ドラゴンでもタイマンで確実に勝てるってなると冬将軍とかの大精霊かバニルの旦那クラスの大悪魔くらいだな」


 ちなみに今のアクアのねーちゃんなら負けることはまずないが、有効な攻撃手段もないから勝てもしない。


「冬将軍ってそんなに強かったのかよ…………」


 なにかを思い出してるのか青くなってるカズマ。


「そりゃ冬将軍は大精霊の中でも別格だしなぁ。雪精いじめなけりゃ出てくることもないし、間違って倒してもきちんと謝れば許してくれる。ほんと慈悲深い存在だからそんなに怖がる必要ないが」


 四大賞金首の一角だった炎龍と同格でありながら、2億エリスという賞金額で収まっているのはそういうことだ。大精霊という枠組みの中でも炎龍や冬将軍は1つ頭抜けている。

 ちなみに大悪魔の中でも爵位や本体で来ているかどうかでこの世界での強さは違う。爵位で言えば文句無しでバニルの旦那が1番だが本体で来ているわけじゃないため、この世界においては旦那より強い悪魔がいたりする。



「そんじゃ最後にエンシェントドラゴンだ。さっきドラゴンは上位種になれば種族として完成するって言ったが、別に上位種になったらそれ以上成長しなくなるわけじゃない。年を経るごとに身体も魔力もどんどん大きくなる。その成長に限界はない。そんなドラゴンが途方も無い時を過ごし、人知を超えた存在になったのを『エンシェントドラゴン』って称するんだよ。その格は今のアクアのねーちゃんや地獄にいるバニルの旦那と同格と言っていい」


「ちょっとまて、今なんて言った? そんな凄そうな奴とアクアが同格……?」


 カズマはもう少しアクアのねーちゃんの凄さを分かってもいいと思うぞ。……まぁ、アクアのねーちゃん自身がそれを分からせたくないってのもあるかもしれねぇが。





「さーてと……カズマとマツルギがエンシェントドラゴンの強さを少しでも分かったみたいだしそろそろ行くか」


 一緒に戦う仲間たちを見回して俺はそう言う。


「ダストさん、行くのはいいんですが、ミネアさんの強化はしていかないでいいんですか? ハーちゃんも回復魔法とドレインタッチくらいはできますしアクアさんから魔力をもらっていったほうがいいんじゃ……」

「まぁ、ゆんゆんの提案はもっともと言っちゃもっともだが……」



「ねぇ、カズマ。なんで私皆から魔力タンクみたいな扱いされてるのかしら。ゆんゆんにすらそう思われてるって結構ショックなんですけど」

「安心しろよ。お前はただの魔力タンクなんかじゃない」

「カズマ……!」

「お前は立派な魔力タンク兼回復役兼宴会芸要員だよ」

「だれかこのヒキニート無一文にして捨ててきて」



「……アクアのねーちゃんもああ言ってることだし、こんだけ戦力集めたんだ。そこまですることないだろ」


 カズマとアクアのねーちゃんの漫才を横目にしながら、俺はゆんゆんにそう言って断り、


「そう…………ですか?」

「ほら、さっさと行くぞ。お前の親友が待ちきれなそうにしてる」


 その背中を押してロリっ子の所に押しやって話を終わらせた。






「……わりぃな、ミネア。不甲斐ない相棒で」


 パーティーの最後尾を歩きながら俺は小さな声で隣を歩く相棒に謝る。


「今の俺じゃ、お前を最強の存在だって証明できねぇ」


 前回、エンシェントドラゴンと戦うために限界まで二匹の竜を強化した影響か、それともレベルドレインを繰り返した影響か。今の俺はドラゴンの魔力を制御する力が極端に不安定だった。ドラゴン自身がもともと操れる程の強化でなければおそらく暴走させてしまう。

 ミネアはかろうじて上位種ギリギリの力までなら操れるだろうが俺は中位ドラゴン程度の力しか借りれない。エンシェントドラゴンと戦うのにこれじゃ心許なすぎる。


「……それでも、ジハードをあの姿のままにしとくわけには行かねぇからな」


 時間が経てば俺の力も元に戻るだろう。だが、その間ジハードをそのままになんてしておけない。ジハードが望んで人の姿を取っているとしても、選択肢がある上で選んだそれと、選択肢がない上で選んだそれじゃ意味が全然違うのだから。


「汝がまともに戦えぬ穴を埋めるために我輩まで出てきたのだ。そう不安になる必要はなかろう」


 少し前を歩いていたバニルの旦那が歩く速度を緩めて俺に並ぶ。


「まぁ、バニルの旦那がいてくれるのは心強いし…………カズマも来てくれたしな。あいつがいるなら大丈夫だと俺も思うぜ」

「汝はやけにあのヘタレ鬼畜冒険者を評価しているな。何か理由でもあるのか」

「俺がカズマを評価すんのはそうだな…………あいつは自分の身の丈ってのを知ってるんだよ」


 カズマは自分が強くないことをよく知ってる。


「知ってる上であいつは自分のできることを最大限やってきた。魔王軍幹部や最悪の大物賞金首を倒す立役者になり、ついには魔王まで倒しちまった。あいつの事を運がいいだけだのパーティーメンバーに恵まれてるだけだの言う奴がいるが、俺はそうは思わねぇ。そんなこと言う奴は運がいいだけの最弱職になって魔王を倒してみろってんだ。あの個性の塊の三人に信頼されてまとめてみろってんだ」


 俺にはそんなこと絶対できねぇ。……だから俺はあいつにだけは勝てる気がしねぇんだ。



「ところでバニルの旦那。最終確認なんだが、ジハードをドラゴンの姿に戻すはエンシェントドラゴンに竜化のスキルを教えてもらうしかないんだな?」

「うむ。ドラゴンハーフの竜化と純血の竜の竜化は違うゆえ、ドラゴンハーフに教えてもらっても一時的な竜化にしかならぬ。人化はバフとは原理が違うゆえ駄女神にも解除はできぬ」


 結局下位種を人化させるの自体イレギュラーなのだからもとに戻すのもイレギュラーに頼るしかないってことらしい。


「ま……しょうがねぇよな。それじゃドラゴン退治ならぬドラゴン対峙と行くとするか」


 そうして俺らはどらごんたいじに向かうのだった。

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