最終話 この素晴らしいぼっち娘に友達を!

「よぉ、旦那。景気はいいか?」


 ギルドの片隅で。いつものように相談屋を開くバニルの旦那に俺はそう声をかける。


「見れば分かるだろう。閑古鳥である。魔王が倒されて一週間、どこもかしこもお祭り騒ぎで相談屋は見向きもされぬ」

「それもそうか。ギルドの酒場とか道具屋とかすげえ景気良さそうなんだけどな」


 俺の見立通り、カズマ達はきっちり魔王を倒して帰ってきた。その報告にこの街はもちろん国中が沸いてるわけだが、その波は相談屋には来ていないらしい。


「てか、旦那はいつまで相談屋やるんだ? 確か店の家賃払うのに困って相談屋始めたんだろ?」


 ウィズさんの作った赤字を埋めるために始めた相談屋らしいが、ついこの間カズマが莫大なお金を店に落としていったらしい。そのお金に比べれば相談屋で入る収入なんて微々たるものだし、旦那ならそのお金を転がして更に稼ぎそうなもんだが。

 …………まさか、またウィズさんに使い込まれたとかそんなオチじゃねえよな?


「心配せずとも小僧から回収したお金ならちゃんと我輩が管理しておる。…………もはや貧乏神と化して来ているポンコツ店主に紙一重で使い込まれるところであったが」


 ……相変わらず苦労してんなー、旦那。流石にウィズさんを貧乏神扱いは酷いけど。せめて貧乏リッチーくらいにしとけばいいのに。


「じゃあ、なんでまだ旦那は相談屋やってるんだ?」

「ふむ……確かに収入目的では相談屋をやる意味は薄い。が始まれば貧乏魔導具店はもちろん相談屋の収入などとは比べ物にならないくらいのお金が毎日のように入ってくるだろうからな」


 ……ねえ。もしかして旦那がたまに言ってたがついにこの街に出来るんだろうか。だとしたら少しだけ惜しいな。


「それでも、我輩は相談屋を続けるであろうな。何故ならこの店は我輩にとって大切なこの町の住人たちとの触れ合いの場なのだから」

「あー……なるほど。お金目的じゃなくて悪感情目的なのな。考えてみれば相談屋やってれば愚痴っぽい話はたくさん聞けるだろうし。旦那なら解決したと思った所でぬか喜びさせることも簡単だろうしな」


 そりゃ、お金関係なく旦那がやめるわけねえな。悪感情抜きにしても情報収集的な意味で相談屋続ける利点は大きいだろうし。


「…………汝は本当に人間なのか? 普通そこまで悪魔の考えを理解する人間などおらぬのだが」

「そんなに褒めるなよ旦那。敬愛する旦那のことだ、分かって当然だろ?」


 悪魔の考え方自体はロリサキュバスに聞いたりしてるからわりと理解しやすいのもあるんだろうが。


「確かに悪魔としては褒めたつもりだが、それを褒め言葉として受け取る汝はやはり人間として終わっておるな」

「かもな」


 この街に来た頃と比べりゃ自分でも腐りきってるのは分かる。でも、まぁそれでもいい。今の俺は『ライン=シェイカー』じゃなくてただの『ダスト』なんだから。ラインだったらこうして旦那と楽しく話せなかっただろうし、むしろラインのままじゃなくてよかったぜ。


「『戻る』つもりはないのか? 例のガーターウェイトレスには汝のことで散々愚痴られたのだが」

「どっちの意味での『戻る』なのかは分かんねえけど、どっちの意味でも『戻る』気はねえな。隠す気ももうねえけど」


 俺がライン=シェイカーであることは街中に知れ渡ってるし、ミネアと一緒にいる以上、別の町に行こうが俺がラインだとはすぐバレるだろう。だからもう隠すことはしない。けれど、今更ラインとして生きれるとも思えない。

 だから、俺がラインに戻ることもないし、この国から出ていくことはあってもあの国に戻ることはない。



 俺はきっとこのまま堕ちた英雄として一生を終える。




「……ま、俺はそろそろ行くぜ、旦那。次に会えるのはとりあえず一週間後くらいかね?」

「そうか…………今日は汝たちの出発であったな」


 カズマたちが魔王を倒して一週間。今日は俺のパーティーがこの街を出て冒険に出る日だ。

 金がすっからかんになったがリーンにテレポートは覚えさしたし、ちょくちょく帰ってくるつもりではあるが。それでも毎日のように会っていたこれまでとは違ってしまうだろう。

 だから今、俺はこうして旦那に別れの挨拶をしている。…………ま、話してる内容は全然関係のないものだったけど。俺と旦那の話なんだからこんなもんだろう。


「そうだ、旦那。ちょいと俺の未来を占ってくれねえか?」

「別に構わぬが……代金はちゃんとあるのだろうな?」

「それはないから今回は『借り』ってことで」

「…………まぁ、よいか。そう遠くない内に汝には『借り』を返してもらうつもりであるしな」


 ため息を付きながらも旦那はそう言って俺の未来を占ってくれる。…………けど、『借り』を返すつもりはあるが、一体全体どんな方法で返すことになるのかね。考えてみれば結構な借りを旦那に作ってる気がするが。


「ふむ……これまで汝にはいくつかの選択肢があった。今とは違う選択をした汝は違いはあれど幸せな一生を終えたことだろう」


 選択肢ねえ…………そんなんあったっけか。まあ、人生選択の連続だしそういう意味じゃ当然あったんだろうが。


「…………もしかして、俺は選択間違えたからもう不幸な人生しかないとか、そういう話か?」


 あの国飛び出す選択した時点で人並みの人生諦めてるから今更だけどよ。


「そういう話ではない。話ではないが…………確かに我輩が見える汝の人生の終着はでのである」


 うぇぇ……遠くない未来ってことは少なくとも寿命は全う出来ないってことか。近い未来って言い方じゃないから1年以内じゃないとは思いたくないが…………2、3年くらいは覚悟しといたほうがいいのかね。


「故に、汝がその未来を回避するには我輩が見ることの叶わぬ未来を実現するしかない」

「? そう言えば、前にも旦那がそんな話してたっけか。じゃあ、そのよく分からない未来を目指して頑張ればいいってことか?」


 旦那も人が悪いな。死ぬ未来の話からするとかよ。…………いや、旦那は悪魔だから人が悪いも何もねえけど。


「その方が我輩にとっても都合が良いし、是非ともそうしてもらいたいのだが…………残念ながら、それを決めるのはもう汝でも我輩でもない」

「……俺が死ぬのも生きるのも決めるのは俺でも見通す悪魔様でもない? じゃあ、一体全体誰が?」

「汝の恋人である」

「ふーん…………俺の恋人がねぇ………………って、は!? 俺の恋人!? え!?  俺に恋人とかできんのか!?」

「出来る……はずだ。汝の死の未来からの逆算であるゆえ、それがいつかは正確には分からぬが」


 てことは遠くない未来よりかは近いうちに出来るってことだよな。え、マジかよ。俺に恋人なんて一生できないと思ってたのに。


「で、それは誰なんだ? 当然美人なんだよな!?」

「うむ。誰かは言えぬが美人であることは保証しよう。そして汝の守備範囲の女性であることも」


 てことは、ゆんゆん以下の年下やアクシズ教徒、あとはロリサキュバスみたいなロリ体型じゃない美人ってことか。なんだよ俺勝ち組じゃん。


「喜んでいる所悪いが、恋人ができても汝がその後死ぬ可能性があるのは変わりないのだからな」

「分かってるって。でもまあ、少なくとも童貞のまま死ぬわけじゃないって分かっただけでも十分だ」


 正直、それだけは心残りだったからなあ。


「てわけで、旦那いい未来を占ってくれてありがとうよ。この借りは必ず返すから待っててくれ」

「うむ、別にいい未来を占った覚えはないが、借りは近いうちに返してもらうことにしよう。次に汝が帰ってきたときにはも完成させておくゆえ、楽しみにしておくがよい」

「おう、それに関してはマジで楽しみにしてるぜ」


 これからの冒険と、帰ってきた時の楽しみを餞別としてもらって。俺は旦那との一先ずの別れをすませた。






「えーっと……次は誰に挨拶していくかね。ルナとかベル子は昨日のパーティーで挨拶済ませてるし……」


 昨日の夜はカズマパーティーとかゆんゆんとか、この街の冒険者集めて送別会だった。ギルドの酒場でやったからルナとかベル子にも挨拶する機会はあった。と言っても、ベル子にはあの日以来無視されてるし挨拶できたか言われたら微妙なんだが。

 ルナには最後に世話になったと話しかけようかとも思ったが、さっき見たらいつものように受付嬢の仕事を忙しそうにしてるからやめといた。

 …………魔王が倒されて平和になったはずのこの世界でなんで受付嬢のあいつが忙しいんだろうか。やっぱり旦那の仕業かね。


「てなると、やっぱサキュバスの店か」


 あの店には散々世話になったし、ロリサキュバスに金の件はどうなったと聞かないといけないしな。


「あれ? ダスト君じゃない。どうしたの? そんな旅に行くような荷物持って」


 特徴的な俺の呼び方。その声に俺はドキリとしながら振り向く。


「お、おう……セシリーじゃねえか。旅に行くようなも何も冒険に出るからこんだけ荷物持ってんだよ」


 『サキュバスの店』って単語が聞かれてないことを祈りながら、俺はそう答える。そもそもが女には絶対秘密の店だし、その中でもアクシズ教徒のこいつに聞かれてたらヤバすぎるんだが……。


「冒険? なになに? アルカンレティアにでも行くの? ならお姉さんも一緒について行ってもいい?」

「行かねえし、行くとしても何でお前まで連れて行かなきゃならないんだ」


 こいつと一緒に冒険とか考えるだけでも頭痛い。


「えー、でもお姉さんって回復魔法使えるしいると便利じゃない?」

「便利かもしれないが、どう考えてもメリットをデメリットが上回ってるじゃねえか……。トラブルメーカーはいらないぞ」

「トラブルメーカーって…………それ、ダスト君が言う? お姉さんが言うのもなんだけどダスト君ってお姉さん以上のトラブルメーカーだと思うんだけど」

「俺は別にいいんだよ俺は。それに俺がお前以上のトラブルメーカーなんてことも絶対ねえよ」


 こいつに比べればダストになった俺でも善良な市民になるレベル。暴走列車みたいな女だった姫さんでもこいつに比べれば可愛いもんだ。

 こいつ並みにあれな女なんて俺はカズマパーティーの女たちくらいしか知らないぞ。


「たまに思うんだけど、ダスト君って私にだけ冷たくない? ツンデレ君なの?」

「お前にデレる予定はねえから少なくともツンデレじゃねえな」

「おかしい……ちっとも照れ隠しの雰囲気を感じないんですけど……」


 うーん、と首を傾げてるセシリーの様子を見て俺はバレないように小さくため息をつく。この調子ならサキュバスの店のことは聞かれてないっぽいな。


「ま、いっか。そのうちダスト君も私にデレて『セシリーお姉ちゃん好き、抱いて!』って言ってくれることだろうし」

「ぜってえねえよ。つうかなんで俺が抱かれる方になんだよ」

「え? でもダスト君はヘタれ受けだって皆言ってるわよ?」

「おい、誰だそんな根も葉もないこと言ってるやつらは」


 俺はヘタレじゃないしむしろ攻めのほうが好きだぞ。


「そうなの? じゃあ、お姉さんのこと優しく抱いてね? お姉さん痛いのは嫌よ?」

「おう、心配しなくても俺に女を痛くして喜ぶ趣味はねえ…………って、だからお前にエロいことする予定は欠片もねえからな!」


 少し前ならともかく、今は俺に恋人出来るって分かってるし。こんな守備範囲外の女を抱く理由なんてない。


「残念。ま、お姉さんにはダスト君以外にもいっぱい運命の人がいるからいいけどね」

「その台詞を何ら恥ずかしげも後ろめたさもなく言えるお前のメンタルはすげえな……」


 本当、いい性格してる女だぜ。




「それじゃ、俺はもう行くぜ」


 そろそろサキュバスの店に行かねえと出発の時間に遅れそうだしな。


「行くってサキュバスの店に?」

「おう、そうだ…………ぜ…………?」


 え? こいつ今なんて言った?


「ダスト君って随分あのお店にお世話になってたみたいだもんね。旅に出るなら挨拶したいか」

「…………あのー、もしかしなくても、セシリーお姉さまはあの店のことをご存知で?」

「なんでダスト君敬語なの? それはもちろん知ってるわよ。例の小さい女の子がサキュバスの格好して飛んでるの何度も見かけてるし」


 おい、こらロリサキュバス。不用心にも程があるだろ。


「じゃあ、あの店のことを知って何でお前は見逃してんだ?」


 悪魔を見たら親の仇のように叩き潰すのがアクシズ教徒だと思ってたんだが……。


「私達が悪魔を見逃す理由なんてそう多くないと思わない?」

「…………そういうことか」


 アクアのねーちゃんがあの店のことは見逃してるからこいつらも見逃してるってことか。頭のおかしい集団だが、女神アクアへの忠誠心ってか敬愛っぷりだけは純粋な奴らなんだよな。



「さてと……憂いもなくなったことだしマジで俺は行くぜ。運が良ければまた会うこともあるだろうよ」

「うん。……ねえダスト君。最後に一つだけ聞いていい?」

「ん? なんだよ」


 いつになく真剣な表情のセシリー。その真っ直ぐな眼差しに動揺しながらも、俺はいつもの調子を装ってそう返す。


「ダスト君は好きな人が出来たの?」


 いつものセシリーでも聞きそうな質問。けれど、やっぱりその表情は別人じゃないかと思うくらい真剣そのもので……。


「…………好きなやつは別にいねえよ。ただ……」

「ただ?」

「守りたいって……心の底から思える大切な奴らなら出来たよ」


 だからもう、俺は槍を使うことを躊躇わない。あいつらを守るためなら姫さんとの約束を破る事にならないだろうから。


「そっか…………。うん、それならいいのかな。…………いってらっしゃい、ダスト君。ばいばい」


 そう言って手を振り俺を見送るセシリーの表情は妙に寂しそうで、でもどこか嬉しそうで。俺は何故か梯子を外された子どものような気持ちでその場を去るのだった。






「どったの、ダスト。なんだか難しそうな顔してるけど」


 ギルドのある通りにて。待ち合わせ場所にきたリーンに開口一番そんなことを言われる。


「別になんかあったわけじゃねえんだが、なんか座りが悪くてよ……」


 思うことは2つ。妙な態度だった別れ際のセシリーとサキュバスの店であった不可解な会話だ。


(セシリーのことはこの際どうでもいい。あいつのことは考えても無駄だろうし。でも、サキュバスたちのあの口ぶりは……)


 別れの挨拶に行ったサキュバスの店で。俺は目的の一人だったロリサキュバスと会うことが出来なかった。そのことについて聞いたら……


(『あれ? 知らないのですか?』だもんなあ。あの口ぶりだと俺に関係する事であの店にいなかったんだろうが……)


 それがなんなのか皆目見当がつかない。サキュバスの姉ちゃん達に聞いても面白そうな様子ではぐらかせられるだけだったしよ。


「ふーん? ま、なんでもいっか。ダストは難しい顔してくらいがちょうどいいしね」

「おう、まるで俺がいつもはバカそうな顔してるような言い方はやめてもらおうか」

「バカそうというか、バカな顔?」

「ぶっ飛ばすぞ」


 いつものやり取りに俺は大きなため息をつく。

 ま、今ここで考えても仕方ないことか。俺に関係してることならそのうち分かるだろうし、関係してないならそれこそ考えても仕方ない。


「それじゃ行くか。そろそろテイラーやキースも向かってる頃だろうしな」


 そう言って俺はリーンを連れて歩き出す。テイラーやキースは街の入口の方で待ち合わせしてるし、遅れて待たせるのもテイラーに悪いだろう。キースはどうでもいい。





「ゆんゆん、今、パーティーメンバーはいないんだよな? ぜひ俺達のパーティーに入ってくれ!」

「何言ってんのよ。ゆんゆんは私達の女の子パーティーに入るに決まってるんだから、むさ苦しい男はさっさと諦めなさい」


 ギルドの建物の前を通った所で。中からそんな男や女の声が響いてくる。


「えっと……その……お誘いは嬉しいんですが私は──」


 覗いてみれば、そこには冒険者達に囲まれオロオロとしているゆんゆんの姿。どうやら魔王討伐メンバーのゆんゆんがパーティーに誘われてるらしい。

 前までは一人が好きだと思われてスルーされてたが最近は俺やリーンとよく一緒にいたからな。誤解が解けたのと魔王討伐という功績、そしてパーティーメンバーだと思われてた俺達がいなくなることでゆんゆん争奪戦が起こってるのか。


「いいの? ダスト。ゆんゆんに挨拶していかないで」

「別にいいだろ。別れの挨拶は昨日したし」


 ぼっちのあいつがあんだけチヤホヤされてんだ。わざわざそれを邪魔するほど俺も野暮じゃねえ。


「ま、ダストがいいんだったら別にいいけどね」

「いいんだよ。…………ゆんゆんへの恩返しはこれで済んだな」



 俺をヒュドラから救い出してくれた命の恩人に友達をつくる。それがぼっちなあいつへの一番の恩返しになると、そう思ったから俺はいろいろやってきた。今囲まれているように、魔王討伐を果たしたゆんゆんにはもう俺が何もしなくても人が寄ってくる。この街にはゆんゆんの親友である頭のおかしい爆裂娘やバニルの旦那もいるから、本当に変なやつからは守ってくれるだろうし、魔王討伐メンバーともなればいつでも紅魔の里に戻って長として認められることも可能だろう。


 もう、ゆんゆんに俺は必要ない……むしろ邪魔なんだ。


「ふーん…………ほんと、ダストって素直じゃないよね。ライン兄はもうちょっと素直だったと思うんだけど」

「うるせぇよ、長いドラゴン欠乏生活で性格ネジ曲がったんだよ」


 大体、ぼっちに友達作るのが恩返しになると考えるとか傲慢にも程があるしな。俺の性格がネジ曲がっちまってるものはもうどうしようもないだろう。


「ま、そういうダストはわりと嫌いじゃないんだけどねー。口ではなんだかんだ言ってその気持ちは全部顔に正直に出てるからさ」


 うぜえ、ニヤニヤしてんじゃねえよ。


「……というか、お前こそゆんゆんに挨拶しに行かなくていいのか?」

「誤魔化したね。……んー、あたしはいいよ。昨日ちゃんと今後の事話したし」


 ま、今生の別れってわけでもないしな。一週間もすりゃまた会えるんだから別にいいか。

 ………………一週間ジハードに会えないのはきついなあ。その代わりミネアとはこれからずっと一緒だから悪いことばかりでもないが。


「そうかよ。……んじゃ、行くか。キースとテイラーももう待ってる頃だろ」

「そだね。あたしらが着く頃には待ってるかもね」

「……じゃな、ゆんゆん」


 未だにオロオロしているゆんゆんに遠くから別れを告げて。俺はリーンと一緒に歩き出した。





「おい、ダスト、おせぇじゃねぇか。どんだけ待ったと思ってやがる」

「キース、まぁそう言ってやるな。もしかしたらリーンがダストに告白して遅れたかもしれないじゃないか」

「え!? リーンさん本当ですか!? 告白するなら親友である私に相談してくださいって言ったじゃないですか」

「しないしない。ちょっと戻ってきたって言ってもダストはまだダストのままだし。…………もうちょい、戻ったなら考えてもいいけど」



「…………………………おい」



 街の入り口。そこで待っていたと俺と一緒に来たリーンが楽しく話し始めるのに俺は待ったをかける。


「どうしたんですか? ダストさん。ジャイアントトードがアクアさんのゴッドブロー食らったみたいな顔してますよ」

「それどんな顔だよ…………じゃなくてなんでゆんゆんがここにいるんだよ!」


 いるはずのない悪友の姿に俺は叫ぶ。


「なんでって…………あれ? もしかしてリーンさんから私も一緒に冒険に出るって聞いてないんですか? 昨日の夜、リーンさんと話し合ってそう決めたんですけど」

「リーン……?」

「いやぁ……ゆんゆんと離ればなれになるのが辛いダストを見てるのが面白くて面白くて…………ごめんね?」

「ごめんじゃねぇよ! というかごめん言うなら笑ってんじゃねぇ!」


 人が辛そうに…………いや、別に全然辛くなんかなかったけどな!


「大体ゆんゆん、お前さっきまでギルドにいただろ。何で先にここにいんだよ」

「それはもちろんテレポートで飛んできたんですよ。時間通りでしたよ?」

「そういえばお前もテレポート使えるんだったな……」


 つか、ジハードいるから魔力消費の大きいテレポートでも気軽に使えるし。なんだよこのチート主従。


「…………で? お前もついてくるってマジなのか?」

「はい。んー……それじゃ、もう一度経緯を説明した方が良さそうですね」






──前夜・ゆんゆん視点──



「そうですか…………あのチンピラたちと一緒にこの街を出るのですね」


 リーンさんたちの送別会の後。リーンさんと話し合い一緒に冒険に出ることを決めた私は、そのことを伝えにめぐみんのもとに来ていた。


「うん。族長になる前にもっといろんな街とか見回って見たいと思ってたから、ちょうどいい機会かなって。めぐみんは旅にでたりはもうしないんだよね?」

「そうですね…………私の好きな人は魔王を退治してもあれですから。……というより、魔王を退治してから出不精に磨きがかかっている気がします」


 まぁ、カズマさんはもう魔王討伐で一生遊んで暮らせるくらいの報奨金貰ってるはずだしいいのかな。私もパーティーメンバーとして結構な額を貰ってるけど、一対一で魔王を倒したカズマさんはそれとは桁が違うし。


「しかし、ゆんゆんがいなくなると寂しくなりますね……」

「そんなこと言って私がいなくなったら魔王城へテレポートして爆裂魔法食らわせるのができなくなるから困るって思ってるんじゃないの?」


 あれから一週間毎日魔王城に爆裂魔法を放つという嫌がらせに付き合わされた私はそれを疑う。


「まぁ、それもある…………いえ、それが一番大きいのは否定しません」

「言い直してまで肯定しなくていいからね!?」


 本当にもうめぐみんは爆裂バカなんだから……。ダストさんのドラゴンバカっぷりといい勝負だと思う。


「でも……、大切な親友と離れ離れになって寂しいというのは本当ですよ」


 そう言って湿っぽい表情で言うめぐみん。こんなめぐみんを見るのは長い付き合いの中でも本当に数えるくらいしかない。

 本当に私との別れを寂しがっているのが分かって…………私はちょっとバツが悪くなる。


「あー……その、めぐみん? なんかいい話っぽくなってるから言いにくいんだけどね?…………私は毎日この街に帰ってくると思う」

「…………はい?…………あ、テレポートを使うつもりですか!?」


 流石はめぐみん、話が早い。


「うん。実はリーンさんもテレポートを覚えられたみたいでね? 2人もテレポート使える人がいると結構、融通がきくというか…………朝だったらめぐみんの魔王城への爆裂参りも付き合えると思う」


 ハーちゃんがいるから魔力切れの心配もしなくていいし。旅をしながらこの街に帰ってくるというのもわりと現実的だ。というより拠点を持ってる冒険者パーティーではテレポートを使ったこの冒険はわりと一般的らしいし。


「真面目な気持ちになって損しました。そういうことだったら別に私に言う必要もなかったじゃないですか」

「ううん、私は言ってよかったなって思うよ。めぐみんがちゃんと私の事親友だって思ってくれるってまた実感できたから」

「……この子は本当に厄介になりましたね。誰の影響……って、言うまでもなくあのチンピラですか」

「うーん…………まぁ、ダストさんの影響も大きいけどめぐみんの影響もかなり大きいと思うよ?」


 というか、こうしてみるとめぐみんとダストさんってすごく似てると思う。ダストさんのドラゴン好きを爆裂魔法に変えて言葉遣いを丁寧にすれば大体めぐみんになる気がする。


「もうぼっちで私に泣きついてたゆんゆんはいないのですね……」

「泣きついてはいないよ!? ……めぐみんに泣かされた思い出はたくさんあるけど」


 めぐみんに泣かされた数はダストさんとは比べ物にならない。……というか、あれ? むしろダストさんのほうがめぐみんより優しくしてくれてるんじゃ…………。

 ……うん、あんまり深く考えるのはやめよう。


「まぁ、せっかく旅に出るのです。いろんな街で友達を作ってくるといいですよ」

「出来るといいけどなぁ…………まぁ、私も欲しいし頑張ってみる」


 そうして私はめぐみんとのお別れをすました。『また明日』という言葉とともに。




──ダスト視点──



「──というわけで、ダストさん。私もダストさん達の旅に付き合って、見聞と友達を増やそうと言う話になったんです」


 一通りの事情を聞き、ゆんゆんが一緒にいく経緯は分かった。分かったが…………


「ぼっちのお前が行く先々で友達作れるか……?」


 この街ならゆんゆんの人となり知ってる奴多いし、変な虫追い払う奴らがいるからいいけど。多少はマシになったとは言え人見知りでぼっち気質なこいつが友達作るのは難易度高くねえか?


「私一人なら難しいかもしれません。でもダストさんと一緒なら作れる気がします。……手伝って貰えませんか?」


 ほんの少しだけ心配そうな表情でゆんゆんはそう言う。それはきっと出会った頃のこいつには絶対言えなかった台詞で……どれだけの想いを込めて言った台詞なのかは少し考えれば分かる。


「だってさ、ダスト。あんたの大切な悪友はまだまだ友達足りないって。……手伝ってあげなきゃ、あんたのモットーに反するよね」


 答えなんて分かりきってるよねとばかりにリーンが笑いながら言う。見てみればキースもテイラーもニヤニヤしながら俺たちを見ていた。


「ちっ……しょうがねぇな。ほんと、このぼっち娘は俺がいなきゃダメだな!」


 本当に仕方がないやつだ。…………そんな悪友に頼られて嬉しがってる俺も仕方ないやつなのかもしれないが。


「それは、わりと私の台詞だと思いますよチンピラさん。…………それじゃ、いざ冒険に行きましょうか!」


 ゆんゆんに手をひかれ冒険の第一歩を踏みながら俺は一つ旅の目標を決めた。



 この憎たらしくも素晴らしいぼっち娘に──

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