第7話 ぼったくりはやめましょう
――ゆんゆん視点――
「バニルさんバニルさん。ちょっと見通してほしいことあるんですがいいですか?」
ギルドの片隅。相談屋はもうすぐ店じまいなのか、ゆっくりと後片付けをしていると、友達に私は話しかける。
「心の中でまで友達言うのをどもるぼっち娘が我輩に相談とは珍しいな。まぁ友達であるからして特別料金の10万エリスで占ってやろう」
「ぼったくりにもほどがありますよ!?……払いますけど」
友達で特別とまで言われたら仕方ない。
「(……このぼっち娘は爆裂娘や金髪のチンピラ以外には相変わらずチョロいのだな。……いやあの二人にもなんだかんだで利用されてるあたりチョロいのだが)」
「なにか言いましたか? バニルさん」
「いや、なんでもない。それで我輩に相談というのはそのトカゲの卵のことでよいか?」
「あ、はい。流石バニルさん話が早いです。このドラゴンの卵、このまま育ててたら何ドラゴンになるかなぁと気になりまして」
私の手元にはダストさんから貰った卵。クエストの帰りに盗賊団のアジトに寄ってめぐみんから返してもらってそのままここに来た。
私がアジトに行った時、卵はイリスちゃんが温めていて、起きてきたセシリーさんが私にも温めさせてと暴れているのをめぐみんが抑えていた。
……別に温めさせるだけなら問題ないのだけれど、セシリーさんに温めさせたらそのまま持ち逃げしてどこかに売ってきてしまいそうで怖い。多分めぐみんもそう思ってセシリーさんを抑えてたんだろう。
クエストの帰りに冗談でセシリーさんをダストさんに紹介するとか言ったけど、実際問題あの二人はお似合いなんじゃないだろうか。自由すぎるというか……根っからの悪人ではないけれど悪人すら呆れさせるような頭の痛い行動ばかりしてるところとかそっくりだ。
「ふむ……卵を産んだのはブラックドラゴン、そしてその後魔力与えてるのはアークウィザードの汝か。このまま育てればブラックドラゴンが生まれるであろうな。どこぞの駄女神にでも魔力を与えさせればホワイトドラゴンになる可能性もあるが、アークウィザードである汝は無属性の魔力を与えるゆえ最初のブラックドラゴンの影響で種族は決まるであろう」
「えっと……めぐみんとかイリスちゃん、セシリーさんに長く温めてもらったらどうなるんでしょうか? あ、イリスちゃんとセシリーさんのことバニルさん知ってましたっけ?」
イリスちゃんの名前を出した所でなんだか難しい顔をするバニルさん。
「別に見通す力を使えばその程度分かるから良いのだが。……汝は不幸の星の下にでも生まれておるのか?」
「一体全体何を見通しちゃったんですか!?」
「いや……まぁ、気づいてないのならそのままでいい。気づかなければきっと幸せでいれるであろう」
その言い方だと私が何に気づいてないのか凄く気になっちゃうんですけど……。
「それで、爆裂娘と自称チリメンドンヤの娘と暴走プリーストが卵を温めた場合であったか。爆裂娘の場合は汝と変わらぬが、後の二人に温めさせればホワイトドラゴンが産まれる可能性が高いであろう」
「そうなんですか。んー……だったらイリスちゃんに温めてもらったほうがいいのかなぁ」
イリスちゃんに温めてもらえばホワイトドラゴンになるって話なら、そうした方がいいのかもしれない。
「なんだ、汝はブラックドラゴンが生まれてくるのが嫌なのか?」
「はい。だってブラックドラゴンってなんだか凄く凶暴だって話じゃないですか」
少しだけドラゴンについて調べたけど、ブラックドラゴンはその戦闘力とかは随一だけどその凶暴性凶悪性も随一だとか。
「凶暴さなどどこぞの自称駄女神に比べたら可愛いものである。まぁ、汝がホワイトドラゴンにしたいという気持ちも分からぬでもないが…………少なくとも盗賊団のアジトで温めさせるのはやめた方が良いであろう」
「え? 何でですか?」
これからもダストさんとクエスト行かないといけない時はアジトでめぐみんかイリスちゃんに預けようと思ってたんだけど。
「我輩の見通す目によると、このままアジトで温めさせているとなんちゃってプリーストがやらかすと出た」
「さ、流石にセシリーさんも仲間のものを売り払ったりはしないですよね……?」
いろいろとやらかす人ではあるけど、悪人ではないことを私は知っている。
「悪意はないのだがな…………とにかくやらかしてしまう可能性が恐ろしく高い。…………どんなやらかしをするか聞きたいか?」
「いえ……いいです」
聞いても疲れるだけですし。実際に起きてないことでセシリーさんの評価を下げたくもない。…………というか、なんとなく想像つくし。
「まぁ、仮にブラックドラゴンが生まれてくるとしても、あのろくでなしのチンピラに任せればなんとでもなるであろう」
ダストさんに任せたら売り払われそうで怖いんですけど。……というか、なんでダストさん? あの人なんかドラゴンに詳しいんだろうか。全然そんなイメージないんですけど。
「ふむ……ブレスに関しては汝の影響を受けているようだな。雷属性のブレスを吐くようだ。これはもう変わるまい」
「雷属性って…………私が関係してるんですか?」
「何を言っている『雷鳴轟く者』よ」
「なんでそれをバニルさんが知って…………って、そういう人でした!」
「悪魔だがな」
にやりと笑うバニルさん。剥ぎ取っていいですかね、その仮面。
「それとバニルさん、お願いと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
最初は聞きたいことだけだったけど、アジトで温められないとなるとお願いしないといけないこともある。
「言っておくが、卵を温めて欲しいというお願いはお断りである。我輩……というより悪魔は神の次にそのトカゲが嫌いゆえ」
「嫌いって……どうしてですか?」
かっこいいのに。
「神々との幾度にも渡る戦争…………その決着がつかぬのはそのトカゲの上位種たちが幾度も邪魔してくるからである。神々と我々悪魔両方を相手取ってな」
「神々と悪魔両方を相手にって……上位種のドラゴンってそんなに強いんですか!?」
「キラキラした目で見るななんだかんだで紅魔族の血が流れている娘よ。上位種のトカゲ自体は今の我輩と同格かそれより落ちる程度であるし、地獄であれば我輩の方が断然強い。数も多いわけでないゆえ我々悪魔だけでも本来であれば十分対応できる。……我輩よりも長く生きているという龍帝ともなれば創造神や悪魔王をつれてこないと無理だろうが……そもそも今まで創造神や悪魔王が戦争に出た記録はないし龍帝もそういう存在がいるという噂だけだ。そうなるのは『聖戦』……神と悪魔の最終戦争が起きる時だけだろう」
『聖戦』かぁ……私には想像もつかない戦いだけど、この子は大きくなったらそれに関われるくらい強くなるのかな?
「なんだか凄い壮大ですね。……でも、上位ドラゴンよりバニルさんたちのほうが強くて、ドラゴンの数も多くないのにどうして両方の勢力を相手取れるんですか?」
「それはだな、トカゲ共は卑怯にも人間を連れて我々の戦争を邪魔しに来るのだ」
「人間って…………流石にそんな人知を超えた戦争に人を連れて行っても役に立たないんじゃ……」
勇者とか言われる人でもバニルさんに勝てる所は思い浮かばない。目の前にいるバニルさんでさえそうなのに、地獄にいるバニルさん本体に戦える人間なんて想像もつかない。
「そうか。汝はまだ知らぬか。ならば覚えておくがよい。『ドラゴン使い』そしてその上級職である『ドラゴンナイト』はトカゲ共の力を何倍にも高める。ドラゴン使いとともに戦う上位種のトカゲは文字通り最強だ」
「『ドラゴンナイト』? ドラゴンナイトってあのドラゴンナイトですか?」
めぐみんたちがエルロードに行く前に探した、元貴族で凄腕の槍使いさんの職業で、イリスちゃん曰く超レア職業のドラゴンナイトなんだろうか。
「少なくとも他のドラゴンナイトを我輩は知らぬ。人の身でありながらトカゲを最強の存在へと昇華させ、自らもトカゲの力を宿しトカゲとともに戦う……上位種のトカゲと契約できるのであれば間違いなく最強の職業、それが『ドラゴンナイト』である」
どういう職業かはイリスちゃんの話だけではよく分からなかったけど、バニルさんの話を聞く限り神魔の戦争を左右するくらい凄い職業らしい。
そんな超レア職業に最年少でなって、その上隣国でも1番の槍の使い手って…………私達が探していた人は本当に凄い人だったみたいだ。もし見つけても流石に仲間になってもらうのは無理だったろうなぁ……。
「ところでバニルさん。なんだか凄そうな話なのに、バニルさんがトカゲトカゲ言ってるんで凄さがいまいち実感できないんですけど」
やっぱりドラゴンって言って欲しい。
「そんなこと我輩に言われても……嫌いなものは嫌いなのだから仕方あるまい。あの自称駄女神とでさえドラゴン嫌いについては喧嘩しながら一晩語り合っても良いくらいだ」
どんだけ嫌いなんですか。……というかアクアさんは自称女神ですけど、別に自分で駄女神とは自称してませんからね?
「……って、あれ? もしかしてアクアさんもドラゴン嫌いなんですか?」
語り合ってもいいって。
「嫌い……というよりは、怖がっておると言ったほうが正しいやも知れぬがな。大戦を経験しておる悪魔や神々であればドラゴン使いとともにいる上位ドラゴンの強さはトラウマとして植え付けられておるゆえ」
「そうなんですか……」
…………ん? あれ? なんだかバニルさんの話だとアクアさんが本当に女神だと言ってるような…………。
いや…………流石にそれはないよね。何かの言い間違いか私の勘違いに決まってる。
「とにかくそのトカゲの卵は貧乏店主にでも温めさせるがいい。どうせ客の来ない店で暇してるか余計なことして借金増やしてるかのどっちかだ」
「まぁ、そういう理由なら仕方ないですね。ウィズさんに頼みます。それと聞きたいことなんですが……」
私が盗賊団やダストさんとクエストに行くときはウィズさんにお願いすることにして、私はもう一つの話題へと移す。
「ふむ、何故あのろくでもない人でなしの穀潰しでどうしようもないチンピラゴミクズ冒険者がトカゲの卵などという高価で貴重なものを自分にくれたのか聞きたいのか」
「いえ……そこまで酷くは…………ありますけど。確かに聞きたいことはそれです」
お金がないないと人にお酒をせびってくるダストさんがなぜ一つ数千万以上するドラゴンの卵をタダでくれたりしたのか。……クエストを手伝わされているが、どう考えてもその価値に見合った労力とは思えない。
「実はあのチンピラに相談を受けてな。『ゆんゆんが引きこもってるからどうにかして元気させたい』と。それで我輩はトカゲの卵をプレゼントしてやるといいと言ってやったのだ。そしたらあの男は世界最大のダンジョンに乗り込み見事トカゲの卵を手に入れてきた。……その後は汝の知っての通りである」
「そんな……この卵がそんなに苦労して手に入れたものだったなんて…………私なら普通の犬とか猫とか植物でよかったのに…………」
こんなに高価なものを私のために苦労して手に入れてくれるなんて…………私はもしかしたらダストさんのことを勘違いしてたかもしれない。ダストさんの『親友』という言葉には嘘はなく本当に私のことを大切に思って――
「まぁ、実際プレゼントするのは何でも良かったのだが、あの男はトカゲの卵以外は全て汝にプレゼントする前に売っぱらってしまうのでな。理由があって売れないトカゲの卵しかプレゼントできるものがなかったのだ」
――るはずはないらしい。やっぱりダストさんはどうしようもないろくでなしのチンピラだ。
「極上の悪感情大変美味である。汝ら二人と一緒にいれば何もしなくても悪感情が味わえてありがたい」
…………友達はやっぱり選んだほうがいいかもしれない
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