ハナノカオリ

桜庭かなめ

Fragrance 1-コイノカオリ-

プロローグ『出会い』

Fragrance 1-コイノカオリ-




 今まで恋をしたことがなかったけれど。

 ほんの一瞬のことで、私はあなたのことが好きになった。




 入学式の日。

 私は自分のクラスである1年2組の教室に行こうとしたけれど、すぐに迷ってしまった。

 同じ中学校から進学した友達に会えるかもしれないと思ったけど、今日に限って全然会うことができない。スマホで電話をしても全然通じない。

 ここがどこだか分からなくて。知っている人も全然いなくて。まさに、途方にくれている状態。

 だけど、そんなときだった。

 近くの女子トイレから1人の女子生徒が出てくる。

 その子はとても背が高くて、ポニーテールの金髪がとても綺麗で。そして、何よりも……羨ましいくらいに艶やかな肌をしていて、顔立ちも整っている。圧倒的なオーラが彼女を包んでいるように見える。

 私が思わず見とれていると、その子が私の方を見て爽やかに微笑む。そして、私の目の前までやってきて、


「困っているようだけど、君って、何組の生徒なの?」

「え、えっと……に、2組でしゅっ!」


 あううっ、緊張したせいで噛んじゃった。舌も痛いし、何よりも恥ずかしいよ。穴があったら入りたい。なさそうだから、とりあえずトイレに行って隠れたい。


「私も君と同じ2組なんだ。じゃあ、一緒に行こうか」


 金髪の女の子はそう言うと、白い歯を見せて私に向けて微笑んでくれた。そして、私の右手をぎゅっと掴んだ。そのとき、桜の花のほんのりと甘い香りがした。

 そして、胸がキュンとなった。同時にドキドキしてくる。

 それは彼女に手を引かれて教室へ向かう度に、どんどん大きくなっていく。私は早くも確信していた。

 たった一度の微笑みで。

 たった一度の何気ない優しさで。


 私、坂井遥香さかいはるかはあなたのことが好きになりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る