第9話 甘酒

一矢は腕時計を見て、そうだね、と言い、立ち上がって、隣に腰掛けると、冷めてしまうよ、甘酒を飲んで、と、白い徳利を傾けた。くびれた形から、かすかな音が漏れる。


憂はたじろいだ。甘酒と言えどもお酒。。。でも断れる雰囲気じゃなく、幸いに小さなひな祭りの薄い陶磁器で出来た茶碗は子供のままごと遊びのように小さく、憂は諦めて、一矢が注ぐ徳利を受けた。


予想外に白い甘酒は冷めてはいなかった。とろりとしていて、かすかに生姜の味がして、きらり、と薄い金箔が底に残った。


どうしたら。。。僕の気持ちがわかってもらえるんだろうね。。。


一矢はそうつぶやいた。何故、一矢が自分にそこまで固執するのかわからない憂は、蝶のようにいつも一矢の周りに群がる華やかな女性達を思い浮かべて言った。


きっと。。。一矢様、よくわかりませんけど。。。ひとときの気まぐれのようなものだと。。。。わたくしなんかより、もっと。。。他に。。。



そんなことない。。。。。。一矢が何か言おうとした時、重い鈴の音が微かに聞こえた。満山の家人の袂にはどうやら少し大きな鈴が入っているらしかった。いつも入っているのか、それとも今日限りの趣向なのかは分からない。


一矢様。。。。


薄い幾重もの薄い布越しに家人は囁いた。憂には聞こえなかったが、一矢はそっとうなづいた。


憂ちゃん、お友達が到着したそうだ。。。そろそろお席に案内する時間だね。。。。離れでお松花堂のお弁当を食べて。。。それから、お待ち合いで待っていたら、呼ばれるからね。。。


一矢はそう言った。


憂は少しほっとした。とりあえずここから解放される。。。

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