”なごり雪 ”

第1話 プロローグ 〜 庵の茶会へ



曲がりくねった山道を幾重にも折り綴るように来て、到着した先に満山家の庵はあった。庵と言えど、広大な敷地の中にあり、ここからは到底、敷地の中がどうなっているのかは知り得ない。


「 残念ですが、憂様、わたくしどもはここまでと聞いておりますので。。。」


憂は心細さに、待って、と言った。


「 この先は招待状のある方だけしか入れないとのことです。。。。」


駐車場の先の満山家の大きな門をくぐった後、直ぐ左にある建物が、家人専用の待ち合いのある場所らしかった。


茶会があるのは、もっともっと敷地の奥らしく、受付まで家人と一緒だと思い込んでいた憂は心配げに運転手と家人を見た。


でも。。。。



その押し問答を遮るように満山一矢がやって来た。一矢は、羽織袴でなく、薄いグレーのような、ブルーのような、仕立ての良いスーツ姿にシルクのポレットチーフ、それは光沢のある薄明るい桃色だった。


「 これはこれは、高崎憂様。。。お待ち申し上げておりました 」


一矢はそう言うと「 今日から憂ちゃん、とお呼びしても構いませんか? 」と微笑んだ。


「 。。。それは。。。構いませんけど 」


憂は断る理由もなく、そう答えた。


「 高崎に知れたら、まずいかな? 」


いたずらっぽく一矢はそう言った。


「 “大事な妹に手を出したら許さねえからな”と、お兄さんはいつも僕らに、睨みを利かせてるからねえ。。。」


一矢は、優紀の口調を真似て言った。


一矢にどう返事すればいいのか、憂はわからず、目を伏せた。


「 お兄さんが来れないなら、キミも来ないかと思って気を揉みましたよ。。。来てくれてありがとう。。。」


さあ、こちらへ、と、一矢は憂に手を差し伸べた。


憂はすっかり一矢に子供扱いされている、と、今日は兄がいないから。。。と身構えた。年が上とはいえ、一矢は実のところ、自分とたった一歳ちょっとしか離れていない。


「 いえ。。。一人でも歩けますわ 」


憂はそう答えた。


「 そんな。。。足下が悪いですから、さあ。。。」


一矢は憂に手を差し伸べた。

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