助けた少女がヤンデレエルフになって追っかけてくるんだけど

18782代目変体マオウ

第1話 プロローグ



 夜、森を抜けた一団がいた。荷車を引いているところを見るに、大きな行商の者たちだとわかるだろう。一団はゾロゾロと移動し、予約をしていた街の宿に向かうのだ。

 宿の食堂で、行商のリーダーと、少年が向かいあって話していた。


「流石だ。呪われた魔の森を一日で抜けられるなんて」と行商のリーダー。


 リーダーが話しかけているのは向かい合っている少年だ。その少年は見た目は勿論、口調も振る舞いも正に子供。しかしこの少年は、魔の森においては誰よりも優れた道案内人だったのだ。


「運が良かったんだよ。森の中は空間が捻れて、位置が変わり続けちゃう。たまたま都合よく繋がっただけ。次は絶対にこうはいかないからね」


 少年は報酬を受け取って、「バイバイ」と去ってしまうのだった。


 さて、今回の主人公はこの少年である。

 少年は黒いバンダナを頭には巻いて宿を飛び出してしまった。少年はスキップするなど、随分と機嫌が良いのである。そんな少年は、魔の森に入り込むのだった。

 この魔の森というのは、想像以上に危険なのだ。熟練の冒険者でも命を落とすのだ。そんな森に、夜だというにも関わらず、少年は入り込んでいた。

 しかし、一度森に入れば、少年の顔つきは子供から一流の冒険者に変わる。

 息を殺し、空間に溶け込む、高度な隠密技術。隠れる訳でもなく、堂々たる足取りで森を闊歩する。あまりの存在感の無さ。鹿やウサギ、猪といった野性動物は勿論。獲物を狩ろうと飢えている魔物さえも少年に気付くことなくすれ違うのだ。

 しかし、優れた魔物もいるわけで、少年はある魔物に気が付かれてしまう。けろぺろすというふざけた名前の犬の魔物だ。体重が大きくて三トン。熊の魔物も獲物にする怖いやつだ。

 気配も感じさせずに犬の魔物はふわりと少年に飛びかかるが、少年はよんでいたかのように余裕をもった動作で紙一重にそれをかわす。そして掌をつきだした。


「毒手。鉄砂掌」


 掌底を打ち込んだ。しかし、魔物にはびくともしない。少年は、魔物が吐いた炎を逃げて回避し、また性懲りもなく掌底を打ち込んだ。


「絶技。浸透。双按!」


 少し力強く打ち込んだ。少年は直ぐ様魔物から距離をとる。すると先程と違い、大犬の様子がおかしかった。すぐに動こうとはせず、固まるのだ。それから、一秒後に、人形のようにごろりと横に転がった。

 何てことはない。少年の打撃により、魔物の心臓を破裂させたのだ。

 少年はそのまま森を抜けるのだった。

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