幸せはすぐ隣に
深雪まゆ
#01
「つまらないわね……」
シャロン・ナタリクスは窓辺に寄りかかり、ボンヤリと外を眺めていた。なにかしていないと落ち着かないシャロンは、予定のないことが苦痛でため息を漏らした。
最近は新しいドレスを新調しても、乗馬に出かけても、全く楽しいと思えないでいた。
両親からは強引に結婚相手を紹介され、気の強いシャロンでもそれを突っぱねることさえ出来ないでいる。
腰まであるストレートの赤毛を指先に巻き付けて遊びながら、こうなったらいとこの邸にでも押しかけよう、と思い立った。
「ロズリー、アリアのお邸へ行くわ」
シャロンが声を上げると、しばらくして侍女のロズリーがやって来た。
「分かりました。ドレスはどうされますか?」
「そうね、この間、新しいのを作ったじゃない? 赤いのにしようかしら」
「はい、それではご用意しますね」
シャロンはふう、とため息を吐いた。二十歳になった現在、社交界でのお披露目も済ませているため、もう行き遅れもいいところだ。伯爵令嬢にふさわしい相手を選り好みしているうちに、この歳まで結婚できずにいる。
レディとしては恥ずかしくないよう、色々なことを勉強してきたつもりだ。ただそれを邪魔しているのが、何よりも高いプライドだった。
少し釣り上がった猫目を囲う、髪と同じ赤い色の睫毛が何度か瞬きをする。印象的なブラウンの瞳はどんな小さなことでも逃さない鋭さがあり、ツンと高い鼻先は女性らしさを兼ね備えていた。上品な唇ではあるが、その口からは思いがけずに辛辣で、そして意地の悪さを思わせる言葉が発せられるのはいただけないところだろう。
ひとつひとつを細かく見ていけばかわいらしいが、総じて全身から感じられるのは少し傲慢で子供のような我が儘な雰囲気だった。それを好きだと言ってくれる男性が現われなければ、今年中にも両親が結婚相手を連れてくることだろう。
(好きでもない愛手と結婚するなんて、そんなのごめんだわ)
女性の結婚が一族の繁栄のためだと分かっていても、シャロンの思う通りに事が運ばないのは事実だ。そんなモヤモヤした気持ちを、外に出て発散するつもりでいる。
ロズリーに着替えさせてもらい、シャロンは鏡の前でそれに合うアクセサリーを吟味していた。
真っ赤なドレスはシャロンの髪の色にとても似合っている。何度も鏡の前で確認をした後、首筋に香水を振ることも忘れない。
「アリアのお屋敷へ行くだけだけど、レディのたしなみよね」
耳の後ろに指先を滑らせてから、鏡の中にいる自分の姿をみて満足げに微笑んだのだった。
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