第5話クラリスIII


【サイド・クラリス】

 支配人が私をぶった! 人の見ていないところで私を……私のきれいに結った髪をひっつかみ、乱暴にこづいたんだわ!

 もういや! 死にたい! あの人がなんだっていうの? たった一回食事をしただけじゃないの! 情婦扱いは止めてほしいわ。

 とりすましやがって? 一体何が悪いの? 

 私はデパートの顔よ? いつも微笑みを絶やさず、お客様をお迎えするのが仕事なのよ? なのにひどい! もう明日からここへは来ない!

 耐えられない。屈辱的だわ! あんな人となんて働けない。私にだけこんなことをするのかしら? 私はそれに耐えねばならないほどの何をしでかしたっていうのかしら?

 いいえ、こんなはずない。こんなことがあっていいはずがない。

 今日はこのままアパートメントにこもっていよう。あの人なら迎えに来てくれるわ。そして、私のひどい有様を見て、同情してくれるわ……。もう、そんな人非人のもとで働くのはよして、僕と行こうって……そう、言ってくれるわ……。きっと、きっと言ってくれるわ……。私の王子さまはきっといるから……。大丈夫……大丈夫よクラリス……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る