メビウス

第1話扉

「俺は強い!」そう思ったのは、小学3年生のとき初めて出た剣道の試合で優勝したときだった。高校1年生の現在まで負けなしだった俺は、1年エースとして全国大会に出場することになった。

「如月ユウヤ!今年こそは負けん!」

そう俺に言い放ったのは、小学生のときから何度か対戦したことのある同い年の五十嵐ケンタだった。俺に1度も勝てないのが相当悔しいのかいつからかこうして突っ掛かってくるようになった。

「今年こそはって、何回言うんだそのセリフ。」

俺は少し笑いながら言った。

「うるさい!とにかく覚悟しておけよ!」

五十嵐はそう言うと足早に去っていった。それと同時に背中を押された。

「ユーヤ!試合頑張ってね!」

振り返るとそこにいたのは幼馴染みで同じクラスの安城メグミだった。

「なんだ。メグミか。」

「なんだはないでしょ!せっかく友達と応援に来たんだから!」

「友達?」

メグミの背後から少し顔を出す子がいた。

「確か、同じクラスのー」

「西野アイです。試合頑張って下さい!」

「ありがと」

「わざわざ応援に来たんだから負けないでよね!」

「へいへい」

俺は後ろを向きながらメグミに気だるく返事をし、試合会場へと向かった。


順調に勝ち進み準決勝まで勝ち残った俺は、明日の試合に備えさっさと帰ることにした。メグミ達の姿が見えた俺は、自転車をこぎながらすれ違いざまに手を振った。あっー、っと言うメグミの声にも反応せず自転車をこいだ。


「いつもの場所によるか。」

俺は、試合の後はいつも古びた館がある丘へ行く。ここには館がある以外は人気もなく静かな場所ですごくリラックス出来る。置いてあるベンチに寝転び目を瞑る。ふと、何かの気配を感じた俺は起き上がり辺りを見渡した。すると、誰も住んでるはずのない館に人影が見えた。寝ぼけているのかと思い、目を擦る。が、何もない。気になった俺は竹刀を片手に館に入ってみることにした。鎖で錠がしてある門を飛び越え扉にノックする。返事がない。

「当たり前か。誰もいないんだからな。」

帰ろうと思い2、3歩下がりながら窓を見上げるとまた人影が映った。俺は息を飲んだ。ゆっくり扉に手をかけてみると鍵がかかっていなかったらしく簡単に開いた。

「お邪魔しまーす。」

か細い声でそう言い一歩踏み出す。静かだ。

「人影が見えたのは2階なんだからどっかに階段があるはずだよな。」

しかし、いくら見渡しても階段はない。すると奥から、ぼうっと光が見えた。

「気味悪ぃー。お化け屋敷じゃねぇかよ。」

人影の正体かと思い恐る恐る光の方へ歩く。そこにあったのは日の光でもなく、お化けでもなく、異様な形をしたでかい扉だった。

「うわっ。すっげー扉。」

この扉が薄暗く光っていたのだった。

「なんで光ってんだ?・・・地獄とかに繋がってたりしてー」

と半笑いでつい扉に手をついてしまった。バンッ!と勢いよく開いた扉は俺を一瞬で吸い込んでしまった。


はっと気付いたときには果てしなく続く草原が目の前に広がっていた。

「何処だここ。」

疑問に思いつつもパニック状態の頭を静めるために

「うわああああああああああ!!!!!」

と、とりあえず叫んだ。それが良くなかったらしい。背後から何かが近付いてくる音がする。草を掻き分ける音がひとつじゃない。

「まじかよー、なんだよー。」

怯えながら転がっていた竹刀を拾った。良かったーと安堵するも、音はどんどん近付いてくる。生唾をゴクっと飲んだ瞬間、草むらから飛び出してきたのは、棍棒を持った緑色の見たこともない化け物だった。しかも3体。

「へ?」

俺は一瞬で死を悟った。それと同時に体が勝手に反応し化け物の攻撃をかわし竹刀を構えた。

「こんなんどうすればいいんだっての!!」

再び突進してきた化け物に俺は死ぬ覚悟で喉元に突きを放った。

ドドドッ!

3体の化け物の喉元にクリーンヒットした。怯んだ化け物達は去っていった。

「あ・・・危なかった・・・。絶対死んだと思った。」

俺は腰を抜かして座り込んだ。

「なんなんだってんだよ!・・・あの死ぬって思った感じ夢じゃないよな。絶対あの扉のせいだ!」

そう叫んで倒れこんだ。するとー

「さっきの凄かったね!どうやったの?」

と甲冑が覗きこんできたのである。

「うわあああああ!!!」

叫ぶと良くないことが起こるらしい。

「ごめん、ごめん。驚かせるつもりじゃなかったんだ。」

笑いながらそう言うと甲冑は鉄兜を脱いで見せた。俺と同じくらいの年の男だった。

「見ない格好だね。どこの街から来たの?」

どうやら制服姿の俺の格好が変らしい。

「あ・・・え・・・っと」

言葉を濁らせてる俺に男は続けた

「僕はこの辺りをパトロールしている近衛兵なんだ。」

近衛兵ー。それを聞いた俺はある疑問を持った。が、それはすぐに解決することとなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る